プロフェッショナル
「なぁ、キコ」
「なんだい」
「俺さ、好きな作家がいない人間はあまり本を読まない人って言うのが持論なんだ」
「へぇ。そりゃまたどうして」
「だってさ、山田悠介なんて見てみろよ。一見さんには好かれるみたいだけど、文章ひどいぜ。アマチュアにだってもう少し書ける人はいる気がする。俺が会ってきた中では好きな作者がいないって言うやつほど山田悠介みたいなのが好きって言うんだよ」
「山田悠介の文章力と構成力に難があるのは認めざるを得ないけど、あれはあれで読みようによっては興味深いよ」
「そっか。俺は全否定だな」
「まあ時事ネタとわかりやすさで売れてる作家だからね。あれはあれで一つの手法なんじゃないかなぁ。何も考えずに読めるあたりライトノベルに通じる部分があると思うね。オオワだってDUSTの帯を見たときは、おっ? って思わなかったかい? まあ中身にリアリティが伴ってないのと無責任さが残念だけどね」
「ふーん。作家の視点だな。ちなみに好き嫌いで言えば?」
「オオワと僕は読書傾向が似ている」
「つまり?」
「嫌いに決まってるだろ! なんであんなやつがデビューできてこの僕が新人賞の一次選考で蹴られるんだ!」
「お、おお。ごめん」
「……こちらこそ」
「俺は東野圭吾とか好きなんだけどさ、キコはどうなんだ?」
「森見登美彦とかはなかなか愉快だったな」
「森見……、って『夜は短し』のか?」
「まあオオワは嫌いだろうね。あの人はご都合主義の権化だから。だけど森見登美彦の書く文章は文体だけで価値があると僕は思ってしまったんだよ」
「へぇ、わかる気がするな。じゃあ尊敬する作家は?」
「西尾維新かな。キャラクターの書き方が経験値の塊だ。というかいろんな物をよく分析できていて、どうすればウケるかがわかってるんだろうな。すごく筆が速い人なんだけど、四六時中小説のことばっかり考えてる印象を持ったよ」
「ああ、維新か。嫌いな作家は?」
「西尾維新だ! 物語の粗がひどい。メタフィクションにしろやりすぎだ。トリックがくだらない。他の作品の焼き回しだし見え見えで読者を舐めてる! 無駄にページ数ばっかり引っ張りやがって。あの原稿料泥棒め!」
「矛盾してないか」
「すごいけど嫌い。わかんないかなぁ。ちなみにオオワは、維新はどうなんだい?」
「おいおい、俺とキコは読書傾向が似通ってるんだぜ」
「つまり?」
「大っっ嫌いだ」