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先生と指輪と私  作者:
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(2)

 先生の教育実習が終わりに近づいてきたある日、私は思い切って先生に聞いてみた。


「その指輪って、彼女さんとお揃いなんですか?」


 すると先生は少し驚いた顔をした後、寂しそうな顔で「元、彼女のな。」その人について話してくれた。名前はさくらさん。高校生の時につきあっていた人で、私と同じジャンルの本が大好きな世に言う本物の文学少女だったらしい。


「中身は、天然と電波を足して2で割ったようなやつだな。後、お前と一緒でたまに貧血で倒れてた。」


 …なかなか中身はすごそうだが。(っていうか中身って)そんな彼女は、ある日の朝先生にこう言った。心中って、もっとも美しい愛の形だと思うの。だから、一緒に死にましょうって。なんでもない冬の朝。電車のフォームで、彼女はそう言って先生の手をひいた。


『…冗談、だろ?』


 お前となんか死ねるかという意味の返事ではもちろんない。彼女の行き過ぎた思考を止めようとした先生の言葉だ。でも、彼女は結局そのまま、先生の手をゆっくりと離し、電車の前に身を投げた。寂しそうに、笑って。後から聞いた話だそうだが、彼女は手術をしても治るか治らないかわからない病を抱えていたらしい。

 先生が私が読む本に眉をしかめるのは、きっと彼女さんを思い出すからだ。更に言うならそれを読むことによって、美しい愛の形=心中という結論が導き出されるのではないかと、不安なんだと思う。誰だって二度もその理由で死ぬ人間を見たくはないだろう。

 先生は、後悔しているんだろうか…。彼女の手を取らなかったことを、悔やんでいるんだろうか。だから指輪を外さないんだろうか。年上というだけで、こんなにも気持ちがわからない。どうすれば女の子として見てもらえるのかもわからない。


「、き…です。」

「え?」

「私、先生が好きです。年上でも、先生でも、指輪してても…好きです。」


 でも、こっちを見てほしい。それが例えばどんなに醜くて、かっこわるくて、ずるくても。先生の過去に居座り続けるその人を、私は追い出したい。先生の止まった時間を進めたい。


「…池谷ならわかってると思ってたんだけどな。俺は先生で、池谷が生徒だってこと。お前なら、俺が言いたいことわかるだろ?」

「わかる…けど、」

「だったら今のはなしだ。聞かなかったことにするから、今日はもう「なんで!?」」


 わかるよ。わかってるよ。先生と生徒なんだって。恋愛しちゃいけない人としてるんだってわかってる。


「なんで聞かなかったことになんてするの!?私本当に先生が「池谷はただ、憧れと好きをごっちゃにしてるだけだって。」」

「あ、あこが…そんなことないよ!」

「ある。」

「ない!」

「あるよ。誰でも一回くらい憧れるもんだろ。先生って。」

「私はそんなんじゃない!」

「一緒だよ。年近いからそう思うだけ。」

「そんなんじゃないってば!」


 そんなんじゃない。本気なのに。先生だから好きなんじゃない。高坂誠だから好きなんだ。好きになった人がたまたま先生だっただけだ。むしろ年上嫌いの私が“先生”から入って好きになるのは、かなりすごいことなのに!


「っ…なら、どうしたら信じてくれる?」

「どうしたらって…。」

「私はそんな世間体とかの話より、先生のちゃんとした気持ちが聞きたいの。だから、本気だってこと、認めてもらわないと困る。」


 周りなんて知らない。だって先生の教育実習はもうすぐ終わるんだ。私だってもうすぐ大学生になる。先生も大学生に戻る。そしたら、きっとなんの問題でもなくなる。生徒でいるのは、生徒でいられるのは今だけなんだ。そこから先は、自分で関係を繋がなきゃいけないんだ。


「…85。」

「え?」

「期末テスト。全教科85以上取ってきたら考えてやる。」

「は、はちじゅ…ごっ!」

「無理なら「む、無理じゃないよ!」」


 いや、無理。っていうか無理。本気で無理。だって85だよ?数学とか英語とか…絶対無理!だけど、やらなきゃ信じてもらえない…。先生の気持ちも、聞けない…。


「私やる!絶対やってみせるから!」




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