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先生と指輪と私  作者:
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(1)

 先生の指には、いつも指輪があった。

 左手の薬指に光るそれを見て、私は漠然と(あぁ…恋人いるんだ)と、そう思った。

 苦しかった。切なかった。でも、不思議と涙は出なかった。






 一度目の出会いは、やはり保健室だった。年の近い先生ということで噂になり(よし、ここはいっちょどれほどのものか見に行くか!)と、かくいう私もこっそりと保健室の扉からその姿を盗み見た人物の一人だ。自分で言うのもなんだが、見た目より好奇心は旺盛な方だと思っている。

 噂の高坂誠は、今時珍しい黒髪にコンタクトではなく眼鏡をかけ、白衣を着ていた。そして専用のテーブルに座って、私なら絶対選ばないであろう小難しいタイトルの本を読んでいた。数学とか科学とか論理とかが入り混じってそうな本(私的に言えば見るだけで投げ出したくなる夢のない本)を、ゆっくりと読みふける保健室の先生。まぁ、ぱっと見に嫌いなタイプではない。けど、騒ぐほどいい男でもない。私のいい男基準が高すぎるだけだと友達は言うけれど、極めて普通。おおよそいい方より。そんな感じだ。

 しばらくそうして眺めていると、目が疲れてきたのか、先生は眼鏡を外して目尻を少しつまんだ。その後、ふと目が合う。実際に見えているのかは怪しいが、確かに目が合った。やばいっ!私はすぐさま扉から手を離し、階段を駆け上がった。保健室の隣には、二階へ通じる階段があるのだ。だからその半分を駆け上がり、角を曲がってしまえばこっちのも。(一応念のためにギリギリ見えない位置まで上がったが)閉まった扉が再び開く音に、私は階段から少しだけ下を見る。先生は辺りをキョロキョロと見回しただけで、そのまま中に戻ってしまった。ふぅ…。危なかった。何かの本で読んだ『自分の目線より高い位置は基本的に探さない』というのは本当らしい。感謝だ。


 後日、私に訪れた二回目の出会いは最悪の形だった。もっとも、保健室というものにあまりいいイメージがない私にしてみれば、当然といえば当然だったが…。まさかよりによってお姫様だっこで運ばれるなんて漫画のような醜態を晒すことになるなどとは夢にも思っていなかった。それもこれも、保健室に男の先生が彼しかいないせいだろう。

 しかし、先生の指示は本当に的確だった。というより、的確にされすぎていろいろと悲しくなった。目覚めた時の私の状況はこうだ。胸元のリボンを取ってボタンを一つ外され、スカートのホックは開けられていた。にもかかわらず、先生は顔色一つ変えずに「大丈夫か?」だ。慣れているのだそうだが、それが本当なら私が今生理であることも知られているはずだ。ものすごく恥ずかしい。


 そして三度目の接触。怪我をした友達の付き添いで保健室に行くと、先生の姿はなかった。少し残念。残念?何が?(何が、だろう…)首を傾げながら保健室を出ようとすると、まさかのタイミングで先生が戻ってきた。話すことなんて、ない。だから私はこのまま通り過ぎて、友達と出て行くべきだ。そう思った。だけど「池谷。」「…え!?」驚くべきことに先生は私を呼び止めた。

 ななななんで名前!あ。そうか!この間紙書いたっけ!保健室に来た証である紙を唸っていた私の代わりに書いてもらった事実を思い出し、異様に恥ずかしくなった。


「次からは無理する前に、ちゃんと来いよ?」


 先生は私がそんなことを思っているなんて気づかずに、笑って頭を撫でた。子供扱い。嫌なはずなのに、嫌じゃない。でもやっぱり嫌だ。それは、なぜか。それは、


たぶん私が、彼を好きだから。


 自覚した。自覚してしまった。だって、そうじゃないと説明がつかない。先生の左手の指にはまっているそれを見て、苦しい気持ちになるはずがない。他の子達からすれば「それくらいの方が安心して遊べるじゃん。」でも、私には大問題。だって私は遊びじゃないもん。遊びで年上選んだりしないもん。

 けれど指輪のことを抜きにすれば、私達の中はものすごく良好だった。それというのも、何かと理由をつけては保健室に通った私の努力の賜物だ。ただ一つ難点なのは、先生はどうにも国語というか文学というか小説というか。とにかく私が読んでいるような本が嫌いなこと。本の会話ができないのは、私としてはかなりの痛手だった。




高校の時に先生との話が書きたくて書いたものを少し直しました。

短編にしても良かったんですが、短いのはもっと短い気がしたので連載に…。


初掲載から誤字とか恥ずかしいので、あったらこっそり教えて下さい(笑)

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