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魔女は鍋と再会する

 リリーが腕を前に組み、前に立ちはだかる。


「……」

「まただんまり? その大きな箱は何? 怪しいわ。見せなさい」

「嫌です」

「いいから見せなさい! 隠すなんてやっぱり怪しいわ」

「――――――」

「きゃあああああーーー!!!」


 ロッテが箱に触らないでと念じると、リリーは廊下の奥へ吹飛ばされた。女学生の叫び声に研究室にいた学生たちが次々に顔を出す。


「どうした? 日曜に騒がしいぞ」

「あなた、大丈夫?」


 廊下の端で尻餅をつくリリーがロッティを指さし、あの子がいきなり攻撃魔法を使ったのと泣き喚きだした。女子学生が助け起こし、男子学生が職員室へ通報する。カラスまで飛んできてロッティをつつこうと飛び回る。


(もうお前は取り巻きAでいい。事情も知らないくせに騒ぎ立てる人達はなんなの? 全員まとめて吹飛ばそうかしら)


 その時、廊下中に煙が立ちこめ、視界が一気に悪くなる。


『ロッテ。姿を消して。こっちだ』


 姿は見えないが、耳元でクリスの声がする。腕を引かれクリスの研究室まで行くと、少しだけ開いた扉から中に押し込まれた。扉が閉まると同時にクリスの姿が現れた。1分しか消せないと頭をかく。


「もう大丈夫。ごめんね。食堂まで僕が迎えに行けば良かった」

「助けてくれてありがとう。デザートの箱は守れたからいいわ」

「先にランチ食べてからだよ。今日は片付けておいたからソファに座って」


 おお。ふかふかだ。ランチはサイコロステーキ。肉汁も残さずいただく。そして次はお待ちかねのデザート。クリスが紅茶を淹れてくれた。憧れのお茶会みたい。ロッティがじゃんと蓋を開ける。


「まぁ!!!」

「これは」


 大きな箱の中には『17歳おめでとう』と書かれたカードと共に、イチゴのショートケーキの他7個のケーキが丸く並んでいる。


「ロッテの誕生日だったのか。おめでとう」

「誕生日は昨日よ。でも、どうして。誰が」

「入学届けに誕生日書いたでしょ。それを見た誰かが手配してくれたのかな」

「嬉しい。母が亡くなってから誰も…。誰も私の誕生日なんて…」


 クリスがロッテの横に座る。


「僕がいるよ。来年も再来年も僕が君を祝う」

「ありがとう。クリスは優しいのね。でも捜しものが見つかったらここを出て行くわ」

「出て行くなんて言わないで。それより君の捜しものって何?」

「ポーよ。魔女鍋のポー。突然姿を消してしまって、多分この学院の何処かに居るはずなの」

「もしかして、これのことかな」


 うん? 最初に訪れたときに座った扉の横に置いてある木箱。クリフが蓋を開けると、錆び付いたポーが出てきた。


「ポー!! ここに居たのね。魔力はどうしたの? こんなに錆び付いて可哀想に。今すぐ磨いてあげる!!」

「寮への帰り道で見つけたんだ。シェフに聞いたら魔女鍋は使わないって言うから貰ってきたんだ。ロッテ、聞いてる? うわっー!」


 ロッテの魔法が無詠唱で次々と展開される。ポーと自分の周りだけに結界をはり、魔力が外に漏れないようにすると、白い粉を水で溶いたものを出してポーに塗りたくり、使える者数人と言われる超高度な時間魔法でポーだけを3時間先に送った。そして浮いた錆を丁寧にブラシでこする。水の張ったたらいを出し、赤子を行水させるかのような手つきで優しく洗い流す。水気を極上のタオルで拭き取り、風魔法で乾燥。うすーくオイルを塗れば、ポーと音が鳴った。


「ポー! ポー! 心配したよ。庵に帰ろう。もうどこにも行かないで!」

「ポー! ポー!」


 ロッティはポーを抱きしめ、キスして、頬ずりまでして、まるで離ればなれになった恋人が再会でもしたかのよう。


 その様子も気になるが、クリスは次々に補助具も使わずにロッティが紡ぎ出す魔法の展開に驚くばかり。結界の中は虹色にキラキラ光っていた。


「その魔女鍋が君の捜しものって事はわかった。ロッテはその鍋と話がしたくない?」

「そんなことできるんですか?」

「蓋を作れば、いけるんじゃないかな。そんな文献を読んだことがある」

「クリス様。どうかお願いします。このケーキ全て差し上げます」

「それはロッテが食べて。いや。待って。どれでもいい。一口だけ僕の口に入れてくれる?」

「お安いご用です。あーんですね。何度か上級メイドの赤ちゃんの面倒を押しつけられた事があったので慣れてます」


 そうなんだ。赤ちゃんと一緒にされたがこの機会は逃せない。


「では遠慮なく。あーん」

「……」


 甘い生クリームが口に入れられた。雰囲気はまったく甘くなかったが、これでもう恋人はポーでなく僕だろう!


「では、準備するから、食べながら待っていて。てっ、もう食べていたか」

「おいひーでひゅ」


 クリスが奥の部屋にこもると、ゴトゴトと音がして、一瞬ピカっと光ったような気がする。先に錬金を行ったのだろう。そして金属の塊を持って出てきた。


「ポーを机の上に置いて。――それでいい」


 ケーキの箱はテーブルの隅にずらされ、真ん中に置かれたポーの上に金属の塊が載せられる。クリフが杖を向け呪文を唱えると、眩しい光を放ちながらポーの姿が変わっていく。


「ポー…。ちょっと待って! 魔法を止めて!」

「どうした? もう止められない。無理だよ」

「でも今、ケーキの入った箱も光の中に吸い込まれたわ!」

「嘘だろ!」


 顔を見合わせた2人は熱を帯びたポーが冷めるのをじっと見守っていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

やっとポーに会えました!

明日も更新します。

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