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魔女は地味男子学生の顔が見たい

 ロッテが人形の様子を見に教室に戻ると、マリーがリリーを叱りつけている。人形はお行儀良く、瞬きもせず座ったまま。悪戯されていなくて良かった。


「私の王子様が見つかるまでずっと見張ってなさいよ。見つけたらすぐに婚約して、こんなところは出て行くわ。ちょっとあなた達、聞いてる?」


 マリーの思う通りにいかないと話がねちっこく長くなる。ここはあの話で気をそらす作戦いくわよ。目で合図を送り合い、取り巻き3人は両手を前に組んでお願いポーズをとる。


「マリー様、もう一度出会いのお話聞かせてくださいな」

「ふふ。なんでも雨を降らす魔道具とやらを研究中のここの学生でね。髪は黄金色、瞳は思慮深い緑。とにかく顔も背格好もすごい好み。窓を見上げて微笑んでいらしたのが、うっとりするくらい素敵だったわ」

「お話もされたのでしょう?」

「この窓は誰が拭いたのかって、頬を赤らめて私に話しかけてくれたの。一言知りませんって答えたら、とても残念そうだった。私の気をひきたかったのに失敗したと思ったのね」

「何回聞いても羨ましいですぅ」


(おだてられてすぐに機嫌を直すなんて単純ね。男追いかけて入学したのか。マリーは自分が気に入ったなら相手も喜んで付き合うと思っているのね。性格悪いうえに、頭の中はお花畑。狙われた王子様とやらが気の毒になる)


 授業が終わるまで図書館にこもり、人形を回収して寮への坂道を下る。管理人室で制服を受け取り、案内してもらった。上の階へいくほど身分も高くなるらしい。もちろん私は1階。地下じゃなくて良かった。部屋は机と椅子と本棚。あとはベッドしかないが個室。ものすごく助かる。今日は久々に人と話をしすぎて疲れた。お願い、早くポーが見つかりますように! 片付ける荷物もないのでさっさと寝てしまった。


 翌朝、制服に袖を通す。紺のワンピースと白衣まで支給された。新品の服はいつぶりかしら。庵に帰ってからも着るわ。お出かけ用にとっておくのもありね。姿見がないので人形に魔法をかけ直し、制服姿の自分を眺める。似合ってはいるけど貧相な体は隠せていない。


 食堂に行くために早起きした。朝食を抜く女子が多いのでそれほど混まないと寮母さんが教えてくれたけど、それでもなるべく人のいない方がいい。


 食堂の配膳カウンターに並ぶがすぐに順は来た。トレーを受け取り今日はハムエッグに手を伸ばす。分厚いハムに食べてと呼ばれた気がする。スープはキノコ。うう、ポーに会いたくなる。探したいが、厨房内が忙しそうにしているとのぞきにくい。涙目になりながらもしっかりフルーツの皿をトレーに載せる。


「ポーどこにいるのよ」

「ポーとは?」

「あっ。クリスさん」


 振り向くと相変わらず顔の見えないクリスがいた。


「名前、覚えてくれていたのか。僕もロッテと呼んでいい?」

「…」

「ごめん。これ食べる?」


 差し出されたのはメロン。ついトレーを前に突き出してしまった。


「どうぞ」

「ありがとう」


 なんとなく一緒のテーブルにつく。正面に座るクリスを見るとマスクを外していた。とるとそんな感じなんだ。輪郭は良さげだけど、やっぱり目元は前髪でわからない。年は自分より上に見える。


 ハムをハムを口いっぱいに頬張り、咀嚼してると、会話はないがじっと見られている気がする。顔は洗ってきたけど、ケチャップが付いているのかしら? 思わず指で拭う。


「何も付いていないよ。もぐもぐ食べるのが可愛いなと思って」

「…」


 (この人、朝から何言ってんだろう。脳内お花畑さんがここにもいたわ!)


「今日は魔法石探し大会がある。君も出るでしょ?」

「…?」


 (そんな話初めて聞いた。人形が見聞きしたことは全部ではないが大体把握している。聞き漏らしたのかしら)


「ずいぶん前から掲示してあったんだけど、まだ見ていなかったのか。ほらあそこ。毎朝掲示板は確認するといい。廊下にも同じものがある」


 食堂の壁にお知らせが貼ってある。


(先生、新入生には先に教えてよ。文句言っても仕方がないか)


「…どうしてわかるの?」

「君は口では話さないけど、表情豊かだよ。見ればだいたい想像が付く。ほら今も。驚いたり、怒ったり。忙しいね」

「…」

「僕とペアを組もう。石探しは得意だ」

「嫌です」

「優勝者は3日間の外出許可と副賞に高級チョコレート詰め合わせ」

「お願いします」

「食べ終わったら運動場に行こう」


 クリスがくすっと笑ったような気がするが、またマスクをかけて顔は見えなかった。


 ******


 運動場に行くとかなりの学生が集まっていた。みんなやる気満々ね。


 注意事項がアナウンスされているが、途中から耳に入らない。1日山の中を歩くならぼろ靴がもつか心配でそれどころじゃない。下級メイド服に合わせてそのままにしていたのをすっかり忘れていた。魔法を使えば直せるが、人目の多いここでは使いたくない。


 山を少し下ったところでクリスが立ち止まる。ゆっくり歩いてくれるので、靴はまだ無事。


「集めた魔法石によって、上のクラスに進級できたり、追試が免除されるんだ」

「魔法石ってどんなものなの?」

「そこらに転がる石とは違うね。ほら上を見て」


 クリスが木の上に杖を向けると、黒いモヤッとしたものが吸い込まれていく。手のひらに杖の先を当てるとモヤモヤが出てきた。そして握りしめるとキラリと光る宝石のような丸い玉に変わっていた。クリスが柔らかな布を取り出し石を乗せる。まるで宝物のような扱いだ。


「綺麗ですね」


 半透明の石の中で虹色の魔力が絶えず動いている。


「僕らが使う魔力の残滓。霧散していつの間にかそこら中に溜まる。今日はその魔力の回収。年に一度の大掃除の日だ」


 なるほど。ベラ様を上に向け同じようにやってみる。だが光ってないどころか灰色で形もいびつ。


「それは、下級の中でもかなり低い魔法使いの魔力だね。先ほどのは特級魔法使いのもの」


(魔力の程度によって色が変わるのね。面白い。全色集めてやろうじゃないの)


 えい。えーい。えーーーい! ベラ様を向けると面白いように集まる。青、緑、オレンジ、水色、紫、黄色、赤…。つい夢中になってしまった。


「ロッテ! 動かないで!」


 ポン! と音が鳴ると後ろでどさっと倒れる音がした。振り向くとF組で見かけた男子学生が倒れている。クリスの放った空気玉を喰らって気絶したようだ。


「下級魔法使いは見つけ出すこと自体が難しい。自分の魔力以上のものは特にね。上級の後をつけて、おこぼれを貰おうとしたんだろう。気にしなくていい。あとでこれの回収班が来るから」


 質の良い魔法石を見つけられれば、それだけ魔力が高い証明になるのね。クラス替えも追試免除も納得。


 気になるのはクリスが魔法を放ったときに、前髪の下の目元がチラリと見えた。ものすごいイケメンがいた気がするが、すぐに前髪で隠されてしまった。また魔法使ってくれないかな。もう一度見たい。風で前髪と一緒にマスクも吹き飛ばそうかしら。


「ロッテ。口開けて」


 言われたままに口を開けると、何かを放り込まれた。


「!!!」

「売店で売っている疲労回復エキス入りキャンディだよ」


 袋ごと渡してくれた。いい人だ。甘酸っぱいレモン味が口に広がる。


「足、痛めていない? さっきから足元を気にしているようだけど」

「実は靴に穴が空きそうで」

「なんだ。ここに座って。直してあげる」


 失礼とそっと靴を脱がせてくれた。お姫様になった気分だ。


「これは酷いな。靴底もかなりすり減っているね」


 何かないかな。そうだと言って、急にズボンのベルトをはずしだした。


 (えっ。何? ちょっと待って。靴からどうしてこの展開!?)


 ベラ様を握りしめ逃げ出す前に、クリフが靴に魔法をかけた。靴の上にハンカチとベルトをおくと一瞬で新品同様に変わる。


(お母様が履いていた絹の靴はこんな色だったのか。もっと早く直してあげれば良かった。あっ。靴底の皮部分。これはきっとクリスの皮ベルトだ)


「僕は錬金術を学んでいる。物質変化魔法もね。これくらいなら大した手間じゃない。他に直すものはない?」

「ありがとうございます。大丈夫です」


 するっとお礼の言葉が出てきて自分でも驚く。もう少し話がしてみたい気分になったのに、邪魔者の気配がする。

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