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魔女は逃げ出す

 研究室でロッテとクリスがポーを見守っている頃。


 廊下には騒ぎを聞きつけた学生と教師が大勢集まっていた。


 ざわめき。憶測。好奇心。


 そこへ、腰をさすりながらリリーが涙声で訴える。


「アラン先生、犯人はこの部屋に逃げ込んだはずです」


「なぜそう思う? この部屋に入るのを見たのか?」


「この部屋の学生だけ騒ぎに気づかず、出てこないのはおかしいです。他の皆はここにいます。暴力地味女と、匿った学生をすぐに捕まえて、学院から追い出してください」


「私からもお願いしますわ」


 マリーが一歩前に出る。


 声はやわらかいが、目が笑っていない。


「大切な友人をを傷つけられて、見過ごすわけには参りません。皆様もそう思うでしょう?」


 同意の声が上がる。煽っているのはマリーの取り巻きの男子学生だ。


「マリー様のご心配はわかりますが、疑わしいという理由だけで、この部屋は開けられません。ここは……」


「いいから開けなさい。マスターキーはあるのでしょう」


「この部屋だけは学院長の許可が……!」


「役立たずの教師は退きなさい。正義感のある方はいるかしら? 犯人を捕らえたなら、王女である私から褒美を与えましょう」


「待ちなさい――ぐっ」


 アランは魔法ではなく、杖で殴られ、拘束された。


「私がその役を仰せつかりましょう」


「マクミラン、お願いね」


 数名の学生が名乗り出る。


「姫は下がって。誰か障壁を」


 十本の杖が同時に光る。扉は業火に包まれ、直後に急冷。発生した蒸気は風魔法で払われた。


「傷ひとつつかない……どうなっている?」


 そのとき、ギイと扉が開いた。


「皆さんお揃いでどうしたんですか? 騒がしくて研究に集中できないんですが」


 クリスが顔を出した。


「あら、地味男の部屋でしたの。先生、地味地味同士が逢い引き中のようですわ。これは放校処分ですわね」


「お前と一緒にするな。尻軽馬鹿女。夜中にここをうろついているのは知っている」


「何ですって? それはリリーでしょ。今だって用もないのにここに居たわ」


「マリー様、それ酷すぎます! 秘密をばらしますよ」


 場が一気に崩れる。


「リリー、口を閉じなさい。あなたのお父様が職を失ってもいいの?」


「もうすぐ定年ですからどうぞ。それより困るのはマリー様とマクミラン様ですよ。他にもいますよね」


 逃げ出そうとした学生たちに、クリスが足止め魔法をかけた。


「先生方。後はお願いします。まだ研究の途中なので失礼します」


「待ちなさい! 地味女を出しなさいよ!」


 マリーの目前で、扉は閉められた。


 ***


「ずいぶん騒がしかったけど、まだ取り巻きAがいたの?」


「気にしなくていい。それよりもポーは?」


「おかしいの。蓋をしても話してくれないし、鍋肌から甘い匂いがするの」


 ロッテがベラ様を差し入れ、魔力を流す。


 虹色の光が鍋底に広がった。


「ポー。キノコスープをお願い」


 指先で掬って舌にのせる。


「……激甘だね」


 時間魔法で六時間進める。


「次はカボチャスープ」


「ドロドロの砂糖だ」


「塩漬け肉のソテー!」


「砂糖の塊」


 手に汗がにじむ。


「イチゴのショートケーキ!」


「これは……美味しそうだ」


 ロッティが一口。


「甘さ控えめですごく美味しい! クリスも」


 フォークで一口差し出される。思わず口を開けた。


「箱に入っていたケーキならいけるかしら」


 次々と名前を口にする。


「タルト、チーズケーキ……」


「ポー!!」


 鍋底に八つのケーキが並んだ。


「ポー。すごいよ! 」


 ロッティが美味しいと次々と口に運ぶ。


 クリスがポーに蓋をする。


「ポー、話してみて」


「ポー。ロッティに美味しいものを食べさせたくて庵を出たんだポ。デザートならもう完璧だポ」


「しゃべった!」


 急に抱きつかれ、クリスは硬直した。


「ポーがもう少し料理を覚えたいって。しばらく厨房で使ってもらおうかな」


「それがいい。ロッテもここにいて、僕の研究を手伝って欲しい」


「授業に出なくてもいいなら」


「登下校は僕が付き添う」


「そこまでしなくても」


「君は強いけど、相手は数で来る」


「じゃあ、お願い……」


 うっかり約束を忘れるところだった。


「ベラ様を見たいんだったよね。どうぞ」


 握った瞬間、クリスは息をのむ。魔力密度が異常だ。


「この道具にベラ様を差し入れて、少し魔力を流してくれないか」


「こう?」


 天井から水滴が落ちた。


「成功だ! 大成功! アメフラシ完成!」


「アメフラシ?」


「人工降雨機さ」


 その言葉に世界が止まった。


「聞いて欲しい。十五年前。僕の故郷は大干ばつに見舞われた。そこへサウスランドの青い魔女が命を削って雨をもたらしてくださった」


 ロッティの呼吸が浅くなる。


「恩を返せぬまま亡くなったと聞き、我が国は魔道具開発を進めたんだ」


 ――母のことだ。


「この魔道具は君に捧げよう」


「何故ですか」


「だって君は――」


 最後まで聞かず、ロッテはポーとベラ様を抱え、姿を消した。



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