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「メイル男爵家長女、セラフィーヌ・ド・メイルをお呼びしました」


 そうして翌日のお昼過ぎ。

 謁見の間にはモルガンの朗々とした声が響いていました。

 玉座には国王陛下とお妃様。少し離れた場所には王太子様と王女様達が座っています。


 さらに離れた位置には、宰相はじめ名だたる高位貴族がずらりと並び、入口近くには幾人もの近衛騎士。


 その全ての視線が国王陛下の前で優雅に膝を折り、頭を垂れるセラフィーヌの元へ向いていました。


「ふむ。メイル嬢、この度は素晴らしい働きであった。発言を許可する、顔をあげなさい」


 その言葉を聞いて、セラフィーヌはゆっくりと頭をあげました。


「はい陛下。此度は国王陛下にお会いする栄誉を賜り、大変光栄にございます」

「ハハッ、随分と硬いな。もっと楽にして構わんぞ。なにせそなたは息子の恩人だ」

「勿体ないなきお言葉にございます」


 楽にしろ、と言われたものの本当にできるはずもなく……硬い表情のままのセラフィーヌに、国王はほんの少し、お妃様と顔を見合わせて笑いました。


「まあ……緊張するなと言っても難しいか。そなたの母も最初はそうであった」


 そう言って少し懐かしげな表情をする国王夫妻。それから国王様は表情をキリリと戻して、セラフィーヌを見据えました。


「ーーして、メイル殿。話は聞いていると思うが、私は息子を救った魔法をこの目で見てみたい。……良いか?」

「はい、陛下。……ただ実は……」


 ついにきた、と覚悟を決めて国王を見上げるセラフィーヌ。彼女が核心を話そうとしたまさにその瞬間、突然部屋のドアが大きく開け放たれました。


「誰だ! 謁見の最中であるぞ!」


 突然のことに、モルガンの鋭い声が響き、近衛騎士達は慌てて剣を抜きます。

 しかし、ドアの向こうからやってきたのは、豪奢なドレスを着た一人の令嬢。さらにその後ろには数人の近衛騎士まで控えていました。


「何事だ、リュエル卿」

「御前、大変失礼いたします陛下。この者よりメイル嬢について大変重要な知らせを聞きましたので、連れてまいりました」


 近衛騎士の一人に端的に尋ねるのはモルガン。

 しかし、リュエル卿と呼ばれた男は臆することもなく、令嬢を国王の前まで連れていきました。


「突然失礼いたしますわ、陛下。エマニュエル・ド・メイルと申します。此度はここにいる義妹の行いについて告発に参りました」

「ね、義姉さま……?」

「ふむ。告発とな。それはまた物騒な話だが……ひとまず続けなさい」


 突然の義姉の登場に絶句するセラフィーヌ。エマニュエルの言葉にざわつき出す謁見の間の人々。


 しかし国王陛下は、モルガンの言葉どおり冷静な調子でエマニュエルに続きを促しました。


「義妹は陛下はじめ皆さまに大きな嘘をついております。魔法を使えるのは義妹ではございません。私なのです!」


 その言葉に謁見の間はさらにざわつきます。が、国王陛下はいまだ冷静でした。


「ほう。私は確かに舞踏会の夜、セラフィーヌ嬢が小鳥と話す姿を見た、という話を聞いたがなーーまあ良い。ではエマニュエル嬢。その証拠に魔法をみせてくれるか?」

「ええ、もちろんですわ。さあ、みんな私とお話なさい!」


 そう言うと、グッと右手を握りしめるエマニュエル。

 と、同時に彼女のを神秘的な青い光が包み、謁見の間の小窓からは6羽の小鳥たちが飛び出して来ました。


「さすが小鳥達ね。さあ! こっちに来るのよ!」


 小鳥たちを見て自信満々に声を上げるエマニュエル。

 しかし、小鳥たちの様子はいつもと全く違いました。


 パタパタと羽を羽ばたかせ、エマニュエルを取り囲んだ彼らは、一つ頷いたかと思うとエマニュエルを突き始めます。

 それは、普段セラフィーヌにしている戯れるような突き方とは全く違いました。


「ちょっとぉ! このバカ鳥! 何してんのよ!」


 慌てて振り払おうとするエマニュエル。小鳥たちが怪我をしては大変、と慌ててエマニュエルに近寄るセラフィーヌ。


 しかし、小鳥たちは器用にエマニュエルの腕を避け、彼女を攻撃します。

 そうして何度も突かれたエマニュエル。彼女が痛みに耐えかねて握りしめていた右手を解くと、コトンという音とともに、青い宝石が床に落ちました。


「おや、エマニュエル嬢。その宝石はセラフィーヌ嬢がいつも身につけているものですね。どうしてあなたが?」

「ひぃっ! ……な、何よ! 言いがかり……だ…わ」


 それを見逃すはずもないのはモルガン。彼に凄まれ、エマニュエルは思わずピシリと固まりました。


 そのままモルガンは青い宝石を拾うと、セラフィーヌの元に運びます。彼から石を受け取ったセラフィーヌはギュッとそれを握りしめました。


「さあ、みんな! お話を聞かせてくださいなっ!」


 すると再び青い光が謁見の間中を包み込みます。そうしてその光が消えた時、人々が見たのは、小鳥たちにもみくちゃにされているセラフィーヌでした。


『セラフィーヌぉ! もう話せないかと思ったよ』

『良かったよ、セラフィーヌ! これでまたお話できるね』

『セラフィーヌのドレスとっても素敵だわ! 私の言った通りだったでしょ?』


 変わるがわるセラフィーヌの指に止まり、翼を大きく動かして喜びを表す小鳥たち。その一鳴き一鳴きに丁寧に頷くセラフィーヌの姿は、まさにおとぎ話の精霊のようでした。


「ハッハッハ。確かにそなた達は随分と仲が良いようじゃな」

「陛下っ! 私ったら御前だというのに大変失礼をーー」


 小鳥たちと再びお話出来た嬉しさに浸っていたセラフィーヌ。

 ですが、国王陛下に声をかけられたことでハッとし、慌ててドレスの裾を広げて膝を折ります。


 しかし、セラフィーヌの謝罪に国王陛下は鷹揚な笑みを浮かべました。


「ーーさて、それはそうとエマニュエル嬢?」


 しかし、微笑んでいたのはそこまで。

 それから国王陛下は一転して冷たい視線を、部屋の片隅に追いやられたエマニュエル嬢へ向けました。


「は、はいぃ」

「詳しくは騎士たちに調べさせねばならぬが、少なくとも私に嘘を申したことは事実だな」

「い、いえ、違うのです、陛下。これには誤解がーー」

「エマニュエル嬢と騎士たちを牢へ!」


 国王陛下はそう端的に近衛騎士達に命じます。その一言で、エマニュエル嬢と彼女を連れてきた騎士たちはあっという間にどこかへ連れていかれたのでした。


「さて……ところでセラフィーヌ嬢」

「はい! 陛下」


 義姉の悲痛な叫び声をどこか複雑な気持ちで聞いていたセラフィーヌ。ですが、続いて国王陛下が彼女の名を呼んだことで慌てて前を向きました。


「世はそなたにとても感謝しておる。ついてはそなたに褒美を与えたいのだが……セラフィーヌ嬢、我が息子の妃とならぬか?」

「お妃……様? そ、そんな……その、私では妃など到底務まりませぬ」


 国王陛下が続けたの驚きの提案。

 セラフィーヌは慌てて、それを断ろうとします。

 これまでほとんど貴族社会で生きてこなかったセラフィーヌにとって、王太子妃になる、というのはあまりにも荷が重い話です。

 それにーー


 と、そこでセラフィーヌがある人のことを思い浮かべます。

 しかしその人もまた雲の上の人であることを思い出したところで、謁見の間によく通る声が響きました。


「お言葉ですが陛下! その褒美、少し考え直してはいただけませんでしょうか」

「バーゼル卿? どうした? セラフィーヌ嬢は世にも稀有な魔女。王太子妃として不足はないであろう。それに万一にでも、この能力が国外にでも流出すればことだ……それを防ぐには王家に入れるのが一番だと思わぬか?」


 声をあげたのはモルガン。彼の言葉に国王陛下はあからさまに眉を潜めました。


「それはお言葉どおりにございます、陛下。しかし……でしたらその褒美、私では駄目でしょうか?」

「バーゼル卿!?」


 新たな夫候補の登場にまたしても声を上げるセラフィーヌ。

 しかしその瞳は先ほどと違って困惑に揺れることはなく、むしろその頬は真っ赤に染まっていました。


 一方モルガンはというと、一直線にセラフィーヌのもとにやってくるとその傍に跪きました。


「メイル・ド・セラフィーヌ嬢。はじめてお会いしたあの日から、ずっとあなたに夢中でした。急な話に思われるかも知れませんが、どうかーー私の妻になってくださいませんか」


 そう言って手を彼女に差し出すモルガン。

 セラフィーヌはその手を一瞬の迷いもなくギュッと握りました。


「私も……私も、はじめてお会いした時からあなたのことをお慕いしておりました」


 実をいうと、一目惚れだったのはセラフィーヌも同じ。

 さっきセラフィーヌの脳裏に浮かんだのは、モルガンのキラキラとした笑顔でした。


 一方国王陛下は、というと突然の求婚劇に呆れ顔。

 ですが、明らかに両思いな様子の2人を引き離す程、冷徹な人でもありませんでした。


「バーゼル卿!」

「はい! 陛下」

「全くそなたというやつは……が、此度のこと、そなたにも褒美は必要じゃな。よかろう、メイル嬢との結婚を許可する。ただし、彼女は世にも貴重な能力の持ち主ーー幸せにせねば承知せぬぞ」

「はい、陛下。胸に刻みます」


 厳しい顔のまま告げる国王陛下にピシリと返事をし、騎士の礼をするモルガン。

 その横ではセラフィーヌもまた、ドレスの裾を大きく広げて国王陛下に感謝を表しました。


『おめでとう、セラフィーヌ』

『良かったね、セラフィーヌ』

『セラフィーヌ泣かせたら、承知しないからね!』


 すると、6羽の小鳥たちがモルガンとセラフィーヌを祝福するように飛び始め、謁見の間は急に朗らかな空気に包まれます。

 セラフィーヌが幸せそうに微笑むと、モルガンは思わずといったように彼女をギュッと抱きしめます。

 そして、謁見の間人々は、だれからともなく2人に拍手を贈ったのでした。






 さて、ところで王太子の暗殺を企てた勢力は、騎士団にも使用人達にも魔の手を伸ばしていました。

 あの舞踏会でセラフィーヌの魔法について知った彼らは、セラフィーヌの義姉エマニュエルをそそのかし、使用人に盗ませた魔法の宝石で、小鳥たちを思いのままに操ることを思いつきます。

 まあ結局、ご覧のとおり計画は大失敗。

 城の反王太子派は次々に捕まえられて行きました。

 えっ? 利用されたエマニュエルやメイル男爵家の人々のその後? ーーさぁ、どうなったのでしょうね?


 それはさておき、多くの人と小鳥たちに祝福され、王国で一番大きな教会で結婚式をあげたモルガンとセラフィーヌ。

 セラフィーヌの魔法は、やがて産まれた子供たちにも受け継がれ、バーゼル侯爵家からはいつも賑やかな小鳥たちのさえずりが聞こえていたとか……

 小鳥たちのお話は大体が他愛のないものでしたが、時に国を揺るがすような知らせもありーー

 それらの知らせがバーゼル家の人々によりいち早くお城に伝えられたおかげもあって、王国は随分と長い間繁栄し続けたそうです。


 あっ、もちろん! 

 モルガンとセラフィーヌはいつまでも、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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