お題が出ない
淹れたてのコーヒーのにおいが鼻孔を伝い脳に広がる。
湯気の湧き立つマグカップを片手に私はスマホでSNSを起ち上げ、あるイベントの公式アカウントを開きいくつかの投稿を確認したあと、公式サイトに飛んだ。
「更新なし・・・」
サイトを閲覧した私はため息混じりに呟くとスマホをポケットに仕舞い、コーヒーを一口飲む。
あるイベント内で行われる小説応募企画の告知から数週間、全く音沙汰がない。
趣味で小説を書いている身としては是非とも参加したいのだが、告知だけでまったくお題が出ず歯痒い思いをしている。
自身が登録している小説投稿サイトも更新が止まっており、色々書きたいのだがこの件が動かないことには他に手を付けられない。
ここまで言うとやらない言い訳にしか聞こえないが、多少そういう気もある。しかし、大部分はその書きたい作品を書いて公開した後でお題が提示され、そのお題の内容が公開した作品と被っていた。なんてことを考えるとどうにも手が進まなくなるのだ。
・・・うん、文字にしてわかった。ほぼ言い訳だわ。いや、でも、ペースは遅くとも書いてストックは貯めてはいるから・・・ね?
・・・さて、存在しない相手に対する言い訳はさて置き、そろそろ何か書くか・・・。
私は安っぽく決意を固めコーヒーをもう一口飲んだ。そしてスマホを取り出し、SNSで執筆前の情報収集とネタ探しを始めた。
数十分後。再びイベントの公式アカウントを開いた私は目を見張った。
アカウントの情報が更新されている。そして、複数の更新情報には例の小説応募企画も含まれており、お題が発表されているのであった。
このとき私は待ち焦がれていた情報をやっと手にし、少しばかりの感動すら覚えていた。
「サボってる場合じゃねぇ!」
完全にサボりモードへシフトしていた私はすぐさまSNSを閉じ、執筆に使用しているメモ帳アプリを開き小説を書き始めた。
その後、私は文字数制限に悩まされながらも何度も細かいやり直しをして、締め切りまでに複数の作品を応募し、今までとは違うタイプの達成感を味わうのであった。
ガラじゃないけど、どんなに小さなことでも好きな事に挑戦するって素晴らしいね。