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第44話 ヘリコプター

 

 〈ANTIDOTE〉による毒裁社の富士山山頂のアジト侵攻。

 富士山は登山シーズンであったが、昨日のうちに全登山者には山を降りるよう勧告が出て、全ルート8合目から山頂へ繋がる道は封鎖された。


 数多くの登山者に迷惑をかけながら行われることになったアジト強襲作戦は、早速アジトの入口で大乱闘が行われているが、第一班を乗せる1台のヘリコプターは、他2台よりも少し遅れていた。


「──第二班の方は戦闘が始まったって」

 皇からの無線で、最前線の情報を仕入れる水無月は、それを他の班員に共有する。


「それでは、私達の着地地点は敵のアジトから少し離しますか」

「そうしてくれると助かります」

 乗富さんの提案に対し、素直に賛同する水無月。

 リスク分散のために到着が遅くなっている第一班だが、その分散には意味があったようでアジトから少し離れた場所に安全に着地でき──


「──ッ!」

「うおっ!」


 突如、機体を襲う揺れ。

 シートベルトをつけていて尚体が吹き飛ばされそうになる衝撃を覚える5名であったが、その異常の正体を真っ先に捉えたのは、〈ANTIDOTE〉の第一班どころか【中毒者(ホリッカー)】ですらない一人の初老の運転手──乗富さんであった。


「襲撃です!何者かが、このヘリコプターの機体に引っ付いてきました!」

「はぁ!?」


 そう口にして、機体の窓に張り付くようにして外を確認する辛木と夜宵の2人。

「うわっ、本当だ!」


 機体の右側の窓の外を覗き込んだ夜宵は、そこにカエルのように引っ付いていたのは1人の人間。

 風が強くその人物の長い黒髪が暴れており顔が確認できないが、それが異常な人間──毒裁社からの刺客であることは間違いないだろう。


「おいおい、どうするんだよッ!」

「いまあけたら、はいってくる」


「──早く対処してください!コイツは燃料タンクを狙っています!」

「この飛行機を落とそうとしてやがる!」

「後先とか関係ない、辛木君!」

「わぁってる、食らえや!」


 ヘリコプターの扉を開けて、大量の冷たい風が機内に入ってくる中で、辛木は機体に引っ付く人物に向けてガバリと大きく口を開き──


「おらぁぁぁぁぁ!!」

 そんな叫び声と同時、燃え滾る炎をその口から放つ。が──


「──ガソリン、ゲッチュ~」

 そう口にして、機体からガソリンを奪い取ったその侵略者はそれを一気に飲み干す。


「──ッ!ガソリンを飲み!?」

「皆さん、捕まって!この機体は墜落します!」


 乗富さんのそんな言葉と同時、5人を乗せたヘリコプターは毒裁社アジトから100mほど離れた地点に墜落した。


 ***


 激戦が開始した富士山山頂のアジトの入口にて繰り広げられるのは混戦。

 ヘリコプターに向けて乱れ撃ちされる銃弾の雨の中、霜月は二丁目の狙撃銃で1人1人的確に雑兵の腕を打ち抜いていく。


 ──素人ならば、腕を掠るだけでも銃弾の1発だって放てなくなる。


 だからこそ、現段階で危険視すべき人物は2人。

 1人は、現在完璧の【中毒者(ホリッカー)】である百鬼全一郎が相手をしているブーメランの【中毒者(ホリッカー)】──十返舎八九(じっぺんしゃばっく)であり、もう1人は外人っぽい巨大な女。


 ──と、1発1発素早く丁寧に放ち、弾幕が弱まったその時、霜月の隣に凛とした立ち姿の女傑は口を開く。


「私達3人は今から敵陣に乗り込む。霜月はどうする?」

 霜月は、思考を逡巡させて考える。


 毒裁社のアジトは、闇の組織のアジト──と言わんばかりに、目立たぬように隠蔽されて隠されている。

 だから、普通の建物とは違い富士山を削ってそこに建物を建てているようだった。


 だからこそ、入口以外の出入り口は見当たらないし、窓どころかガラス片だって見当たらない。

 それが表すのは、霜月の得意とする狙撃が不可能だと言う事。

 霜月が戦うためには、ぬけぬけと相手のアジトに真っ向から突入しなければいけないこと。


「班長、すまない。俺に室内は圧倒的不利だ。それに、あの外人女がいるのにこの場を後にするのはかなり危険だ。だから俺は、このヘリコプターから狙撃を続ける」

「あの米兵女女が危険だと言うのは同感だ。よし、伊織、乾。2人は百鬼を除く〈JAIL〉のメンバーと合流しアジトの内部に行け。ここよりかは安全だ」


「え、班長はどうするんですか!」

「私と霜月の2人は、あの米兵女を相手にする。ヘリコプターが無くなれば帰る手段がなくなる。絶対に墜落だけは避けたい」


 ──と、その時。


『こちら第一班。ヘリコプターが敵の攻撃により墜落。辛木が敵の対処を行っている。残る3名はアジトの入口へ向かう』

「「──ッ!」」


 そんな無線が、皇と霜月の耳に飛び込んでくる。


「どうしたんですか、何があったんですか!?」

 ただでさえ緊迫している中で、さらに緊迫した表情を浮かべた皇のことを見て、遥は無線で何を伝えられたのかを質問する。

 無線は、20歳以上にしか与えられていないため、十和も遥も無線を持っていないのだ。


「第一班のヘリコプターが墜落した。全員無事なようだが、これ以上ヘリコプターが墜落すると帰れなくなる。登山道具も最低限しか積んでいないからな」

 ヘリコプターの墜落のことを考えて、登山道具も積んではいるけれども、その有無は関係なく墜落が大変危険なことであるのには変わりない。


「運崎さん。高度を下げてもらえるか?」

「了解しました。ご武運を」

 そんな言葉と同時に、高度が下がっていくヘリコプター。


「オリテクルトハ、イイマトダゼ」

 米兵女こと、アンノボンは第二班の乗るヘリコプターに向けて発射用意が完了している弾頭を向ける。


 "Just drop dead!"


「伊織!」

「わかりました!」


 弾頭が放たれるのと、皇が伊織の名を呼び、伊織がその〈AUS〉を発動させ、自分をした巨大な球状のフィールドを作ったのは全く同時。


 ヘリコプターの側面に激突し爆ぜたRPG-7の弾頭であったが、そこにいた誰にもダメージはない。


 "What?"


「乾!」

「わっかりました!このはるポンに任せてください!」


 RPG-7が真っ向から当たったのにも関わらず、無傷ノーダメージのヘリコプターと人員に対して驚きが隠せないアンノボンの方へ放たれるのは、タピオカ弾。


 伊織の〈AUS〉により、強弱があべこべになったフィールド状で、特に殺傷能力を持たないバスケットボール大のタピオカ弾は、ダイヤモンドよりも硬い鈍器となって牙を剥く。


「──ッ!」

 アンノボンは、放たれた威力あべこべタピオカ弾に咄嗟に対処しきれず、そのまま後方に押されていく。


「今だ、行け!」

 皇がそう指示すると同時に、地面まで数メートルほどの高さまで接近した第二班の乗るヘリコプターの中から、皇・伊織・乾の3人が降りる。


「霜月、援護を頼む」

「言われなくとも」


 短い言葉を交わした2人を分かつように、霜月と運崎だけが乗るヘリコプターは上空へと移動していった。

 それを横目で見ながら、皇はアンノボンの方へと移動する。その左手には彼女が唯一持っているハンマーがあった。


「──ジャパニーズベースボール?モシクハ、バスケットボール?イマノハドッチデショウカ?」

「野球でも籠球でもドッチボールでもなかったのだが……まぁ、いい。今から行うのは殺し合い、無差別級だ」


 皇は声高々にそう宣言する。

 そして、勝負のゴングが鳴るように、ヘリコプターからアンノボンに向けて1発の銃弾が正確無比に放たれたのであった。

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