閑話 葛原黎斗の過去
毒裁社が管轄する組織──〈コドクモリ〉に所属する方法は、大きく分けて3パターンである。
1つ目は、ヨーヨーの【中毒者】廻神絢聖のように、〈AUS〉が発症した後に、毒裁社にスカウトされ所属する方法。
2つ目が、毒裁社に所属している人物の子どもが、横流しされるようにして生まれた頃から所属して、〈コドクモリ〉で〈AUS〉を発症させる方法。
そして、3つ目が〈AUS〉と希望を持たぬ一般人を誘拐し、〈コドクモリ〉で〈AUS〉を発症させるる方法だ。
後ろ2つは、〈コドクモリ〉の中で〈AUS〉を発症させる以上、時間とお金がかかり即戦力にはならないが、ある程度毒裁社が必要な〈AUS〉にすることが可能であるので、1つ目と後ろ2つのどちらかがいいのかと聞かれてもどちらか一方に断定することはできない。
──と、今からするのは3つ目、〈AUS〉も希望も持たない1人の一般人が、〈コドクモリ〉に入り死を経験するまでの走馬灯とはまた違う、己の生きた証を吐き出し書き出し未来に繋ぐ回想だ。
***
──『俺がよければ全てよし』葛原黎斗
葛原黎斗──俺が生まれたのは一般家庭だ。
父親は証券会社の総務部勤めのサラリーマンで、母親は家の近くにあるドラッグストアのアルバイト。
何一つとしておかしなことはなく、何一つとしてズレたところはない、何もかもが普通の家庭だった──が。
母親の浮気が発覚した。
月に3回、男の家へ。朝までパコってランデブー。
まさかそんな母親の愚行を父親が赦すわけ無いから、父親離婚を突き出した。
当時14歳だった俺にも、その事の重大さは、子どもなりにも曲がりなりにも解っていたから、息を呑んだね。
すると、母の仕事カバンから出てきたのは、なんとのなんと三行半。
父が切り出した離婚であったが、届を出すのはなんと母。
「愛してくれるの。アナタよりも雷君はワタシのことを愛してくれるの」
お前みたいな四十路女を誰が心の底から愛す?決まってるだろ、舌先三寸。俺は、自分の母親に嫌気が差したね。
恋は盲目、緑内障。母には現実見えてない。雷君とやらが囁く言葉に、母は喜劇の操り人形。
父、あさましと心で思い、ため息を付いて離婚を承諾。
そんなこんなで離婚は成立。それじゃ、父さん。一緒に行こう。
「──待って」
「……え?」
「黎斗はワタシと一緒に来るのよ?」
「……え、どうして?」
「どうしてもなにも、親権はワタシが持っているもの。あの人はご飯が作れないでしょ?ワタシがご飯を作ってあげる」
「……嫌だ」
「嫌だじゃないの、そう決まったんだから」
「──父さん!」
「……すまん、黎斗」
それが、俺の聴いた父さんの最後の声だった。母と離婚した数年後、父は部屋の一室で首をくくって死んだらしい。お通夜にも葬式にも参加しなかった俺には、父に合わせる顔がない。全くこんな非情に子に育てた親の顔が見てみたい。
死んでしまった父親も弔わず、俺は何をしてたのか。答えは──
──何もしていない。
そう、何もしていない。
正確には、何もできていない。何もさせてもらえない。
民法733条の改正により、再婚禁止期間が無くなったありがたみをしっかりと享受した母は、「ハハハ」と笑いながら浮気した褐色金髪デカ男と再婚。
毎日毎日、リビングまで聞こえてくるような大音量でケツとケツを叩きつけ、小説家になろうとカクヨムの利用規約とサウジアラビアらへんの法律にゴリゴリ違反するであろう行為を毎晩のように行って、まだ初心だった俺という少年の心をひどく傷つけた。
母親は、俺のことなど忘れて無我夢中。俺は、母親が全く愛してくれずに五里霧中。
俺との関係を暗中模索せず、適当な冷凍食品だけを冷凍庫に入れて性行為に及ぶ母に、俺は辟易したね。
──と、そろそろお気づきだろう。
父と母が離婚した8年後。大学を卒業した俺が毒裁社に身を売った理由。
嫌いだったんだ、嫌いになったんだ。母が、男が、人間が。
母の手料理の味なんか忘れて、俺は電子レンジに育てられた。ミルキーは電子レンジの味がする。
死のうとは思った。でも、あの世に電子レンジと冷蔵庫が無いことに気付いてやめた。
「──叶えられるかはわからないのだが、叶えられる確率としてはルーレットの1目掛けくらいの確率なのだが、君は何が好きだい?」
「……特に何も。電子レンジと冷凍食品を支給してくれれば俺は、どんな環境でも構いません」
「──面白いね、君。ジャックポットだ」
どうやら俺は、冷凍食品の【中毒者】まではもう少しだったらしい。
ニチレイと母親を勘違いするほどだし、後なにか一つ条件が重なれば【中毒者】になれていて、実際に俺は〈コドクモリ〉に所属してすぐに冷凍食品に【中毒者】になった。
触れたものを冷凍食品に変える──そんな、単調で単純で馬鹿馬鹿しい、それでいてチートな〈AUS〉を扱って、多くの人を冷凍食品に変えてきた。
そこにはなんの感情もなかったし、悲しみもなかった。
家族がいるんだ──と命乞いされた時は、家族も一緒に冷凍食品に変えてあげたりもした。
そう、俺は『俺が良ければ全てよし』などと言う、傲慢な二つ名を付けられるほどに功績をあげたのだ。
それなのに、それだというのに、銃弾も核爆弾も触れさえすれば冷凍食品に変えられるというのに、どうして僕は負けたのか。
納得がいかない、本当に。納得がいかない──。




