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第30話 ちぃちゃん

 

「あのクソババア、死ね!死ね!死ねぇぇぇ!」


 7月最終日、日本の某所に存在する毒裁社の、数えきれないアジトの1つで、机を台パンしながら、自らの作戦が失敗した苛立ちを吐き出すのは、齢10歳にして煙草の【中毒者(ホリッカー)】となり、毒裁社の3大幹部にまで登りつめたクソガキ──七星北斗(ななほしほくと)


絢聖(けんせい)と七刃の2人を送り込んでいたのだから、占い結果では完全完璧ではないとは言え、勝利することが見えていた!それだってのに、それだってのにどうして邪魔してくれるんだよ、あの老害!ああ言うのが跋扈してるから日本の政治は腐ってるとか言われるんだろ!?幹部として人の上に立つのはああいう、保守的で何をするのにも怯えてるような奴じゃなくて、僕みたいに思い切って行動を行える、革新的な存在だろ!組織を大きくしていくために邪魔者を潰すのは当然だ!だってのに、どうしてあんなビビっちゃうのかなぁ!?送った兵を酔わせて強制送還とかやってることはいっちゃんダセェじゃん!てかそもそも、アイツの能力それ自体がまず逃げ腰なんだよね!なんだよ、メインの〈AUS〉が周囲にいる人物を酩酊させるって!?普通に現場に出たら仲間にまで迷惑かけるし、普通にたくさん酒呑んでるせぇで僕からしてみりゃ息が臭すぎて溜まったもんじゃねぇんだわ!酒で口を濯いだところで酒の匂いは取れねぇどころか倍増するだけから!本当になんなんだよ!いやマジで」


 苛立ちを抑えきれず、同じく三大幹部である酒の【中毒者(ホリッカー)】──鬼灯酒樂(ほおずきしゅらく)への暴言が止まらない北斗は、その場に突っ伏した後に机においてある呼び鈴を鳴らして、常駐させている女を呼び出す。名前は、千春。だから、ちぃちゃんと呼んでいる。

 北斗は、全てのアジトに最低1人以上滞在させている全374名の女性の名前を正確に把握し、あだ名で呼んでいる。


「ほっくん、呼んだ?」

「あぁ、吸わせろ」

「わかったわ」

 ちぃちゃんは、火をつけた煙草を口に含み一服すると、息を吐かずに北斗の唇と自らの唇を重ね合わせ、そこから呼気を流し込む。


 ──受動喫煙。


 北斗の口に灰色の呼気が流し込まれて、北斗の頭の中にかかっていた苛立ちはスッと無くなる。

 未来が明るくなった訳では無いが、北斗の頭からは失敗が無くなり、苛立ちは収まっていた。


「──ありがとう。膝に座らせて。そんで、僕の話を肯定しろ」

「わかった」


 北斗は一度椅子から降り、ちぃちゃんを座らせてその上に自分も座る。そして、頭の中で思考を繰り広げる。


「……クソババアからの情報によると公安の男を連れ帰ってきたみたいだからきっと、これから公安との抗争が──いや、戦争が行われる。それは、クソババアも承知だ。まぁ、要するに全面戦争。僕達の持つ全兵力を利用して戦うことになる」

「そうなの」

「それで、公安の第一の目標は、連れ帰ってきた男を奪還することになるはずだ。ちぃちゃんが公安に捕まったら、僕は絶対に取り返しに行くし、ついでに公安も壊してくる」

「ふふ、ありがとう。それで、どうするの?」


「簡単だ。こちらは襲ってくる全兵力を把握し、相手が苦手とする場所で、相手が苦手とする相手を、相手が苦手とする時間帯に、相手が苦手とする方法を使用してしまえばいい」

「思いついてるのね、流石じゃない」

 北斗の言葉に、ちぃちゃんは優しく相槌を打つ。

 北斗に命令されたことに対し、ちぃちゃんは逆らおうとせず優しく付き従ってくる。


「……だけど、僕が廃墟に侵入してきた公安の奴らに、苦手な〈AUS〉を持つであろう刺客を送り込んだが負けた」

 葛原はタバスコの【中毒者(ホリッカー)】を、二重は狙撃の【中毒者(ホリッカー)】と規律の【中毒者(ホリッカー)】の相手をするように命令したが、敗北したという事実は変わらない。

 残る1人、傘を持った人物に隠密兼戦力の葉隠をぶつけてみたものの、敗北したということは葉隠よりも強い──ということは簡単に予想できた。

 葉隠を倒したのはあの傘を持っていた女。となると、奴は雨の【中毒者(ホリッカー)】か、傘の【中毒者(ホリッカー)】になるだろう。


「1人、どんな〈AUS〉を持ってるかわからない。雨の【中毒者(ホリッカー)】か、傘の【中毒者(ホリッカー)】なんだが、どうしたらい?」

「どっちでもいいように、対策しちゃえばいいんじゃない?」

「──そうか、そうだな。ありがとう」

 ちぃちゃんの意見を、素直に飲み込む北斗。雨と傘の両方に対策をする。

 能力がどちらかだと予想できていれば、それを行うのは簡単だった。


「──それじゃ、『入れ替わり』を起こそう。雨の【中毒者(ホリッカー)】と傘の【中毒者(ホリッカー)】。そのどちらの『概念主』も、〈コドクモリ〉の誰かにしちまう」

「『入れ替わり』?『概念主』ってなあに?」

「ちぃちゃんのために教えてやる。【中毒者(ホリッカー)】ってのは、1つの概念に対して1人しかなれない。僕だったら、この世に生きてる人の中で一番煙草が好きだから、僕は煙草の【中毒者(ホリッカー)】だ。【中毒者(ホリッカー)】は『概念主』とも言われて、その『概念主』は133日に一回、『入れ替わり』が起こる可能性がある。まぁ、2番手が下剋上する──みたいな感じだ。『概念主』は、その概念が1番好きな人だから、『入れ替わり』が起こった時に、その概念が1番好きな人に能力が移る。それを、利用する」


 北斗が企てているのは、水無月を傘の【中毒者(ホリッカー)】から引きずり落とし、その〈AUS〉を剥奪する──ということだった。

 〈AUS〉さえ奪ってしまえば、相手は脅威ではなくなる。無理難題ではあるが、それを可能にしてしまうのが毒裁社という組織である。


「それじゃ、他の人の対策もしたい。1人は、タバスコの【中毒者(ホリッカー)】で火だるまになっても死なないし、口から炎を吐く」

「じゃあ、氷とかの方が良いんじゃない?」

「──安直だな。僕は、炎をぶつけたいと思ってる」

「炎に炎を?意味ないんじゃない?」

「でも、氷のように解けはしない。向こうの火力よりも強いものを用意すれば、押し勝てる」

「そうなの?」

「うん。向こうがタバスコを飲むってんなら、こっちはガソリンだ。ガソリンの【中毒者(ホリッカー)】だ」


 北斗の中では、辛木烈火とガソリンの【中毒者(ホリッカー)】が拳を──いや、炎を交えて戦う姿が頭の中に浮かんでいるのだろう。そして、辛木が敗北して焼死体になるのを想像の中で確認できたのか、満足したように次なる危険人物──遠方から一発で致命傷になるであろう攻撃を何発も放ってくる狙撃の【中毒者(ホリッカー)】についての対策を考える。


「次は狙撃の【中毒者(ホリッカー)】だ。対策はどうすればいいと思う?」

「狙撃の【中毒者(ホリッカー)】かぁ……安直ってまた言われちゃうかもだけど、バリアとか貼っちゃえば?」

「バリアか──悪くないな。建物ごと囲んじまえば、もう銃弾は参加できない。その後、接近して誰かに殺しを頼んじまえばいいんだしな。だが、内にはバリアの【中毒者(ホリッカー)】なんかいない……」


 北斗は、少し思案する。〈コドクモリ〉に存在する【中毒者(ホリッカー)】を頭に浮かべていたのだ。

「思いつかない、概要は決まったし後回しだ。それで、次は規律の【中毒者(ホリッカー)】だ」

「規律?罰せられちゃうの?」

「そうだ。正直言うと、ドッペルゲンガーの【中毒者(ホリッカー)】である二重幻影が頼りだったんだが殺されちまった……って、もしかしたら」

「誰かいるの?」

「米軍から呼べば、国際法上罰せられない」

「べべべ、米軍!?」

「そう、ベベベ米軍だ。アメリカ軍隊。最強アーミー」

「でも、協力してくれる人なんかいるの?」

「おいおい、僕を誰だと思ってる?天下無双の七星北斗様だぜ?1人、協力してくれそうな伝手はある」

「流石」

 本当に10歳児かどうか怪しくなるほどの伝手ではあるが、彼は煙草の【中毒者(ホリッカー)】であり、毒裁社の幹部だ。どこにどんな伝手があってもおかしくはない。


「──と、廃墟に入り込んできた輩への対策は考え尽くした。狙撃の【中毒者(ホリッカー)】はまだだけどな」

「それじゃ、後はどうするの?絢聖(けんせい)とか七刃を派遣した方の能力を知りたい。けど、クソババアに電話しなきゃならない……」

「──吸う?」

「……頼む」


 そう口にして、受動喫煙を行う北斗。そして、覚悟を決めたのか腰のポケットからスマホを取り出して「クソババア」に連絡を取る。


「もしもし?」

『「もしもし」じゃないよ、クソガキ!部下までを巻き込んで勝手な行動するんじゃないっていつも言ってるだろ!』

 画面の向こうで声を張り上げるのは、北斗が「クソババア」と頑なに呼び続ける三大幹部の1人である酒の【中毒者(ホリッカー)】──鬼灯酒樂(ほおずきしゅらく)であった。


「はいはい、わかったわかった。すみませんすみません」

『はいもわかったもすみませんも1回!大事なことだから2度言う、はいもわかったもすみませんも1回!』

「はいはいはい、わかったわかったわかった。すみませんすみませんすみませぇん」

『このッ、クソガキッ!』

「んで、情報が欲しいんだけど。そっちが見つけた人達の〈AUS〉、解ってるの無いの?」

『そんなの、私に聞かず公安の仲間にでも聞けばいいだろ。2人、連れ帰ってきたんだから。要件はそれだけかい?じゃあ、切るね』

「おい、待て。おい!」


 北斗が、待ったをかけるている間には、もう既にスマホからツーツーと音が流れていた。


「クッソ……僕がわざわざ足を運ばないと行けないのかよ……」

「行くの?行かないの?」

「いいや、行く。拷問してでも聴き出してやる」

 そう口にして、北斗はちぃちゃんの膝の上から降りる。


「また来る」

「うん、バイバイ」

 北斗はそう口にして、捕虜として捕まえている操神遊翼と沢田泡音のいる別のアジトへと向かっていった。


 ***


 ──。

 ───。

 ──て。

 ─けて。

 助けて。


「──ッ!」

 刮目。


 聞き馴染みのある声がした。その声の主は、金髪で、ちょっとおバカで。でも、頼りになる時は頼りになって──。


「やっと目を覚ましたか、操神遊翼」

「なんで俺の名を──熱ッ!」

 目の前にいたのはまだ幼い、知るはずのない俺の名前を呼ぶ少年。

 俺がどうしてその名を知っているのかと聞こうら、俺のおでこには火の付いた煙草が押し当てられる。

 どうやら俺は両手と両脚をキツく縄で結ばれているようで動けない。

 この空間には、煙草の匂いが籠もっており臭い。この少年は、何者なのか──。



「お前の仲間の能力を教えろ。さもないと、お前の仲間──沢田泡音を殺す」

「──ッ!」


 状況が理解できない中で、一方的に押し付けられる条件。

 目の前にいる少年は、ただ薄気味悪く笑みを浮かべていたのだった。

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