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第24話 サラダ記念日

 

 彼女を殺した。

 それが、俺の初の殺しでありヨーヨーの【中毒者(ホリッカー)】であることを自覚した瞬間であった。


「ざまぁみやがれや」


 俺は、左胸にポッカリと穴が空き、不細工な表情を晒している彼女──正確には、彼女だった肉塊に対し、唾を吐きかける。

 殺したからと言って、焦りや恐怖と言うものはなかった。


 どうして、彼女を殺したのか?そんなに聞きてぇなら教えてやる。

 俺と彼女──名前は確か、サヤカだったか、サヤナだったか。詳しくは覚えてないけど、確かそのどっちかだった気がする。


 俺がサハラと付き合い始めたのは、7月6日だ。

 何に刺さったのかわからないが、ヨーヨーに興味しかない俺に告白してきたサカナに、ヨーヨーをいじくりながら承諾の返事をした。


 別に、サカバのことなんて興味なかったしどうでもよかったが、向こうが幸せならそれでいい。

 サンバは、俺のヨーヨーを「カッコいいね」とか「この技がいいね」などと褒めてくれた。褒められることは気持ちよかったし、見せていて楽しかった。


 だけど、やうやうサザンカはヨーヨーしか見ない俺に苛立ちを持ったのか、俺は顰蹙を買った。


「ねぇ!私とヨーヨー、どっちが大事なの!」

「ヨーヨー」


 2月14日。サバカンの怒りながら訴えに、俺は即答で「ヨーヨー」と答える。


「じゃあ、じゃあどうして私と付き合ったのよ!」

 そう口にして、俺からヨーヨーを掴み取り、それを投げ捨てるサンダー。俺は、大切なヨーヨーを奪われ投げ捨てられたのを見て、これまでの人生で感じたことのないほどの憎悪を腹の奥に宿した。


 目の前いるこの女は、俺からヨーヨーを奪い取る怨敵だ。殺したって、構わない。


「「この技がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」


 刹那、ヨーヨーを拾うとする俺を打とうと、サラダは平手を振り下ろす。


 が、その平手が俺に接触することはなかった。

 代わりに、そこに残ったのは血の池だった。


 ──その日が、俺にとっての初の殺しであり、自らがヨーヨーの【中毒者(ホリッカー)】だと理解した瞬間だった。


 後悔はなかったし、反省もしていない。

 俺にとっての道徳はヨーヨーそのものだったし、このヨーヨーを奪おうとする人物は全員殺せばいいだけだった。


 その日から、俺はヨーヨーを握り続けていた。

 睡眠する時も食事をする時も入浴する時も握り続けた俺のヨーヨーが。俺が殺しの時に、愛用し続けたヨーヨーが。〈コドクモリ〉として選ばれて、多くの失敗作を殺したヨーヨーが。



「あぁぁぁぁぁぁぁ!!俺の、俺の、俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺のぉぉぉぉ!!!」


 俺の指から繋がったストリング───紐と、ボディが切断される。

 小学生の頃、玩具屋で一目惚れして母親に買ってもらってからずっと愛用していた俺のヨーヨーのボディが、俺の手からこぼれ落ちていく。

 俺の人生そのものを、心の安寧を()り獲っていく。


 焦燥。

 動悸。

 吐気。

 恐怖。


 視界が歪み、周囲に吐瀉物を撒き散らしながら、俺は瞬間的に、無意識的に懐から左手用のヨーヨーを掴みだし、それをストリングを斬った人間の屑に対して投げつける。


 投げつけた。

 なのに。それなのに。それだってのに。


 盛大に、血飛沫をあげながら倒れる巨体。

 黒髪の雑魚屑を守るように、その筋骨隆々とした肉体を盾にして、金髪外国人は俺の攻撃を受けたのだった。

 そのまま、俺の意識は漆黒の憤怒に塗り潰されて───、


 ***


「──ッ!Mr.マーヴェラス!」


 時間にして4秒。

 俺が奴のストリングを切り落とし、ボディが地に落ちたその時。奴は、発狂した。


 絶叫し、懐から2つ目のヨーヨーを取り出して、俺の方へ投げてきた。

 正確無比に俺を狙うヨーヨーに、俺は命を奪われそうになったけれども、俺を庇うようにMr.マーヴェラスが動き、血を撒き散らしてその場に倒れた。


 夜宵と違って、吹き飛ばされなかったのは彼が筋トレの【中毒者(ホリッカー)】だからだろうか。

 俺が奴のヨーヨーのストリングを切り落としてから、Mr.マーヴェラスが倒れるまで、実に4秒。


 その、あまりに多すぎる情報量に俺の脳は理解が追いつかず、体を動かせない。

 一方の、廻神(えがみ)を名乗る夜宵を傷つけた野郎は、虚ろな目を浮かべて、左手のヨーヨーを振るって──


「──ッ!」

 俺は、咄嗟にその場にしゃがみ込む。

 風を切る音が俺の耳に響くと同時、パラパラと空から降ってくるのは夜だろうとしっかりと見える黒い線。


 俺の髪だった。後少しでもしゃがむのが遅ければ、俺の頭は真っ二つになっていただろう。

 Mr.マーヴェラスが俺を庇いここに倒れている以上、ここで奴と戦い続けるのは危険だ。


 少しここから離れつつ、奴と勝負を付けなければ。

 俺は、再度ナイフを握り、目の前の虚ろな怪物と戦う選択をする。



 ───こうして、毒暴走(アポトーシス)を起こした『春は除け者(マクラノゾウオ)廻神絢聖(えがみけんせい)と二つ名を持たぬ超新星、操神遊翼(あやがみゆうすけ)の神神対決が繰り広げられるのであった。


 ***


 一体どこまで逃げればいいのだろうか。

 ゴーガツに参加している最高戦力Mr.マーヴェラスが、男の侵入者と対峙している以上、他に頼れる人物は少ない。


 ゴーガツに付いてきている大人は、非戦闘員の中毒者(ホリッカー)か、非中毒者(ホリッカー)の人物だけだ。


「アタシ、中毒者(ホリッカー)じゃない人が中毒者(ホリッカー)に勝てないと思うけど、どうするの!にしぴっぴ!」


 壊れていく平穏の最中、中毒者(ホリッカー)旋風に巻き込まれ続けるばかりの少女──乾遥は、共に行動する年下の先輩、蛇ノ目錦に対して判断を仰ぐ。

 2人は、中庭から建物の中に移動していたが、必死に逃げていたからか他のメンバーとははぐれてしまったようだ。


「外部に連絡する。そうすれば、きっと、誰かくる」

 錦は、イレギュラーなこんな状況でも冷静に判断し、外部に連絡することを試みる。


 外部への連絡手段として一番手っ取り早いのは、寮においてあるスマホで第一班の班長である水無月さんに電話をかけることだろう。

 もちろん、ゴーガツの会場に侵入者が入った時点で、「侵入者がいる」という連絡は〈ANTIDOTE〉の班長や、上層部に送信される。だが、敵が迷いなく夜宵を傷つけて、Mr.マーヴェラスが苦戦するほどの敵であることは報告されていないだろう。伝わっているとしても、毒裁社のメンバーであることくらいだろう。

 その為にも、2人は寮に向かう必要が/

                  /あるのだが──



「───ッ!」


 一刀両断。

 壁を、床を、天井を。建物を一刀両断して2人の目の前に現れたのは、黒のセーラー服を身に纏った、紫色の髪を持つポニーテールの少女。

 空気とポニーテールを揺らし、刀身を鞘に納めながら、その少女は錦と/


                「五月蝿い」


                               /遥の2人の前に立ちはだかってこんなことを口にする。



「──ッ!また、知らない人!」

七刃(ななは)、〈コドクモリ〉。刀の【中毒者(ホリッカー)】。それが、アナタ方を殺す名だ。今宵の月は、斬麗ですね」


 自己紹介を行い、七刃と名乗ったその女性剣士は再度刀を引き抜かんと、柄を握る。

 建物を斬るという甚大な被害をもたらす七刃に刀を振らせたら、どうなることかわからないのは誰だって一緒だろう。


 だから、乾遥は咄嗟にストローを作り出して、そこからタピオカ弾を射出する。

「遅い」


 そんな言葉と同時、二つに切られて地面に音を立てて落ちるタピオカ弾。

 接近することすらも許されない。近付くものは何であろうと斬る。


 遠距離攻撃を持っていない錦は、七刃との戦闘で圧倒的に不利なのは火を見るよりも明らかだし、遥の飛ばすタピオカ弾だって、ほとんどダメージにはならない。


 助けも呼べない状況で、この七刃の相手をするのは酷だ。

 が、その時炭酸を撒き散らしながら超スピードで飛んでくる男の姿が1人。



「三ツ矢サイダー!」

「──ッ!」


 七刃の頬を掠る、3本の矢。七刃の左の頬に、紅い血が伝う。

 炭酸により作られた3本の矢を放ち、文字通り一矢報いる──否、三矢報いるのは、炭酸の【中毒者(ホリッカー)】であり、課題である必殺技を完成させていた、沢田泡音(さわだあぶく)であった。


「1人増えようが、大した差はない。全員斬ればいいのは、変わらないから」

「錦ちゃんは、俺が守る!」


 毒裁社所属七刃(ななは)と、第一班第二班連合軍の蛇ノ目錦と乾遥、そして沢田泡音の決死の戦いが、幕を開けたのだった。



 ***


 狙撃の【中毒者(ホリッカー)】である霜月兵平の眼を前にして、隠せないものはない。

 であるからこそ、彼は気付いていた。何もいないとされている毒裁社のアジトの一つとして使用されている廃墟に、数人の刺客が潜んでいることに。


「──マズい。非常にマズいことになったぞ……」


 彼の脳に浮かび上がるのは、最悪の想像。

 それは、毒裁社による〈ANTIDOTE〉の全滅という最悪の未来であった。



 彼が視た、アジトに潜む刺客。

 それは、毒裁社の幹部であり、数日前の廃病院での攻防で自らを守るようにして死亡した占いの【中毒者(ホリッカー)】に出してもらった占いによってアジト襲撃を知ったタバコの【中毒者(ホリッカー)】である七星北斗(ななほしほくと)の合図により一斉に動き出す。



「もーいいかい?」

「まーだだよ」

「「──ッ!」」


 第一班として毒裁社のアジトに侵入していた、水無月怜と辛木烈火の2人の耳に届くのは、聞き覚えのない声と、七星北斗(ななほしほくと)の声であった。


「班長殿。誰かいない──ってのはタバスコくらい真っ赤な嘘だったようだぜ」


「もーいいかい」


「そうだね。まさか私達の目を欺いて隠れることができるとは」

 辛木と、水無月の2人は戦闘準備を行う。いつ、どこから奇襲されてもいいように、辛木はタバスコを直呑みし、水無月は愛用する傘を握る。


「まーだだよ」


『───こちら第二班。水無月、聞こえるか?私の声ではなく、「もーいいかい」という声が!』


「もーいいかい」


「あぁ、聴こえるよ。どうやら、私達は掌の上で踊っていたらしい」


「もーいいよ」


「「「殺戮開始」」」


 七星北斗(ななほしほくと)による許可が出たと同時、水無月と辛木の2人の目の前に現れたのは、3人の人物。


 1人は、顔を見知った10歳の七星北斗(ななほしほくと)

 だが、その左右に立つ2人の男女は知らなかった。


「5日ぶりだね、〈ANTIDOTE〉。そんな顔して、煙たがるなよ。傷つけちゃうじゃないか」

 そう口にする七星北斗(ななほしほくと)の左に立つ水色の短髪を持つ男性は白衣のポケットに両手を突っ込み、面倒くさそうに大きなあくびをする。

 そして、七星北斗(ななほしほくと)の右に立つ迷彩柄の長髪を持つ女性は、ニコニコと笑みを浮かべてしっかりと立っていた。


「今日は、僕じゃなくて僕のお友達と遊んでくれ。児童は20時以降、労働できねぇからさ」

 2人がそれぞれ時計を一瞥すると、時刻は20時丁度。


「──って、逃げられた……」

 2人が時計から目を離すと、もうそこには七星北斗(ななほしほくと)の姿はなかった。労働基準法に引っかからないように、帰っていったのだろう。【中毒者(ホリッカー)】に人権は適用されないと言うのに。


「──正直、相手をしている時間はないのだが、お前らも毒裁社と言うのであれば、私も相手にせざるを得ない」

 そう口にして傘を手にする水無月怜は、目の前にいる2人を睨む。


「自己紹介をします!〈コドクモリ〉、かくれんぼの【中毒者(ホリッカー)】の葉隠恋慕(はがくれれんぼ)です!私がオニをやりますから、隠れてください!」

「……〈コドクモリ〉。冷凍食品の【中毒者(ホリッカー)】、葛原黎斗(くずはられいと)


「──辛木君。男の方を頼む。私は、女の方を相手にする」

「了解」


 そう口にして、かくれんぼの【中毒者(ホリッカー)】である『火を隠すなら森の中』葉隠恋慕(はがくれれんぼ)と第一班班長である水無月怜との戦いが、そして冷凍食品の【中毒者(ホリッカー)】である『俺がよければ全てよし』葛原黎斗(くずはられいと)と『炎天の猛獣』辛木烈火の勝負が、今始まろうとしていた──。



 そんな中で、第一班とも、副班長である霜月兵平とも別行動をしている第二班班長の皇律(すめらぎりつ)は、水無月との通信が切れた後に、1人の女傑と相対する。


「お前は……私!?」

皇律(すめらぎりつ)の目の前にいたのは、皇律(すめらぎりつ)と瓜二つの人物。


 皇律(すめらぎりつ)に双子の姉妹はいないし、赤の他人が〈ANTIDOTE〉に支給された霜月兵平と通信するための無線を付けているわけがない。


「我々毒裁社の最大の脅威は、狙撃手であって君じゃない。ならば、どっちが敵かわからないようにすればいいだけのこと」

「お前も……毒裁社かッ!」


「御名答。私は、ドッペルゲンガーの【中毒者(ホリッカー)二重幻影(ふたえげんえい)。ただ今は、触発致して皇律(すめらぎりつ)と名乗りまする」


 第二班班長である皇律(すめらぎりつ)の目の前に現れたのは、ドッペルゲンガーである皇律(すめらぎりつ)

 皇律(すめらぎりつ)vs皇律(すめらぎりつ)という戦いが始まったのだった。


 ***


漆黒に包まれる宵闇の中、居場所が明らかにされていない毒裁社の本部に帰ってきた10才児七星北斗(ななほしほくと)は、1人ほくそ笑む。


「今晩は、楽しいパーティーになりそうだぜ」

 彼の口から発せられる紫煙は、揺れること無く音も立てずに部屋に充満していた。

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