第22話 カルペ・ディエム
「俺の〈AUS〉の効率的な使い方……」
俺は毒嶌に師事して、俺の〈AUS〉の効率的な使い方を教えてもらう。
「──が、まぁこれは一つの理論的で形式的な案だ。最初の必殺技くらいは、今教えたものに囚われずに自分の好きなようにやればいい」
「でも……」
「最初に作る必殺技は、死ぬか【中毒者】じゃなくなるまで、一生お前に付き従うものだ。自分で好き勝手作ったほうが、愛着も湧くし長年の相棒には適している」
「──わかりました。そのアドバイスにも、従ってみます」
俺は毒嶌にそう感謝を伝える。最初の必殺技は、効率的な使い方は関係なしに、俺の作りたいものを作ってみよう。
俺は、数本のナイフとバトン型のスタンガンが入ったアタッシュケースを手に持って、そのまま今いる本部を出ようとする。と、その時───
「───お前もお前の仲間も、明日死ぬかもしれないことを忘れるなよ」
毒嶌は去ろうとする俺の方を見ずに、手に持っていたヨーヨーの方へ視線を向けながらそう口にする。
そのカッコつけた中年に、俺は少しの苛立ちを覚えたから
「カルペ・ディエム」
と少しアイロニーを口ずさむ。すると、チラリと毒嶌は眩しそうなものを見るようにして俺の方を見て──
「操神遊翼、お前もか」
などと口にして呆れたように笑みを浮かべたのだった。
俺には、毒嶌の発言の真意がわからなかったし知る由もなかったけれど、ものの数分でそんな突っかかりも忘れてしまうほどに大変な特訓メニューが俺を待ち受けていたのだった。
***
「死ぬ……マジで死ぬッ……」
Mr.マーヴェラスにより用意された本格的な特訓メニューを全てこなした俺は、トレーニング場の端で倒れ込む。
昨日は講義やアイスブレイクがあったので、今日から特訓メニューを実施することになったのだが、それがあまりにも過酷すぎる。
息も絶え絶えになり立ち上がれなくなった俺は、自らの体力の無さを呪う。
トレーニング場では、俺と同じ特訓メニューを行っているはずなのに、元気が有り余っている沢田が必殺技の開発に力を注いでいた。
トレーニング場に横になりながら、沢田のことをボンヤリと見ていると、俺の視界を埋めるように転がってくるのは本日2本目のスポドリ。
「随分と死にかけだね、遊翼」
「……?夜宵、だよな?」
「そのくだり、本日2度目だよ?まだやるの?」
「声だけじゃ不安で」
「そのうち、厨二病モードの時でも聴いてきそうだね」
「そうなったら、誰に対しても聴いてるだろうよ」
「もうそれ、私のこと大好きじゃん」
通常時の俺であれば、夜宵の口から出てくる「大好き」という単語に、朝のこともあり過敏に反応していたのだろうが、今の俺は非常に疲れているため低電力モードだ。朝の会話は、何もなかったかのように話す。
「──夜宵は、しなくていいのか?必殺技」
「……うん。今日はちょっと調子悪くてね。魔法が出ないんだ」
どうやら、夜宵は調子が悪いらしい。まだ、今日の朝のことを引っ張っているのだろうか。
「大丈夫なのか?それ」
「まぁ、たまにあることだからさ」
「そうなのか?」
「うん。気分が乗らないと、雑念が入っちゃって上手く魔法が使えないの。定期的にあることだから、覚えといてね」
「わかった」
雑念──というのは、十中八九今日の朝のことだろう。
今朝の、沢田の発言が夜宵には相当堪えたようだった。だがきっと、沢田が夜宵に謝罪をすれば解決──と言う簡単な問題でもないだろう。
「いつもどうやって直してるんだ?」
「できる限り雑念の原因と接触は控え、気にしないようにしている。が……」
そこで、夜宵は言葉を詰まらせる。
だけど、俺には容易に続く言葉が予想できた。
できる限り雑念の原因と接触は控え、気にしないようにしている。が、今回の主因は沢田だからゴーガツの間は嫌でも意識してしまう──という感じだろう。
沢田が原因だと口にしないのは、今朝のこと気にしていると悟られたく無いからだろう。
夜宵自身が気にしているのに、俺が沢田のことを口にしてしまうのは野暮だろう。だから、これ以上の話は避けることにした。
「それじゃ、今日は何もでき無さそうだな」
「うん。だからこうして、何もしてない遊翼にかまってあげてるの」
「何もしてないって、あのなぁ……」
俺が、体を動かして夜宵の方を見ると、その動きが面白かったのか夜宵は美麗に笑う。
その笑顔が、あまりにも美しくて俺は言葉を忘れてしまったが、目の前にいる美少女は俺の心の臓の高鳴りも知らずに振る舞うのであった。
***
「天喰とかは楽しんでるかねぇ、ゴーガツ」
警視庁の地下、昨日の毒裁社の幹部である七星北斗との接触をまとめた資料の作成をしながら第一班の班長である水無月怜に話しかけるのは、タバスコを直呑みするという異常な趣味を持つ赤髪───辛木烈火であった。
「楽しんでるけど、大変なんじゃない?あの人がいるってことは」
「あの人って?──あぁ……あのアメリカ人か……」
水無月に聴いたはいいものの、その発言の途中で「あの人」の顔とその訓練内容が思い浮かんだのか辛木烈火は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「あの人、永遠に〈ANTIDOTE〉にいるよな。いつからいるんだ?」
「私が入った時もいたから、最低でも7年は筋トレの【中毒者】だよ」
「うっへぇ……7年って。筋トレとか、ただでさえ好きな人多そうなのに。すげぇな……」
あの人───Mr.マーヴェラスの異常なまでの筋トレ愛を知り、ドン引きする辛木。
「ほら、手。動かして。時間ないんだから」
「へいへい」
水無月に注意され、辛木は資料作成に戻るのだった。
***
───そんなこんなで、4日が経過する。
俺は、俺に相応しい必殺技を考えるものの思いつかずに7日間の合同訓練合宿の6日目を迎えてしまった。
沢田は、一足先に必殺技と呼べるものが完成したらしく、今はそれを集中特訓しているようだった。
俺の必殺技が完成せず、そして、夜宵の魔法が使えないような状態が続いていく中で、事態は動き出す。
合同訓練合宿の6日目は、長い長い1日だった。




