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第21話 My new gear...


 合同合宿訓練、二日目。

 脳筋スパルタ教師Mr.(ミスター)マーヴェラスから「必殺技」の習得という任務を課せられた俺たちは、早速屋内のトレーニング場に移動していた。準備運動として場内を10週走らされた後、体力の有り余っていた沢田と錦ちゃんはマーヴェラスに呼び出され、一足早く特訓メニューをこなすことになったのだが——。


「いや、普通に、走るだけできつい……ッ!」


 準備運動で盛大に息切れを起こしながら、俺は近くのベンチに体を放り投げた。訓練するにもまずは基礎体力がいるということは重々承知なのだが、流石にまだこの脳筋メニューには慣れない。中高で運動部にでも入ってればまた違ったのかもしれないが……。


「遊翼、おつかれ〜!」

 

 ベンチで果てていた俺に、スポドリが飛んでくる。

 慌ててそれをキャッチすると、視線の先には同じくランニングを終えた夜宵がいた。金色の髪を運動のためかポニーテールに結んでおり、またしても一瞬誰かわからない仕様となっている。


「……? 夜宵……だよな?」


「そうだけど……毎回やる? このくだり」


 なんだかデジャヴのようなやり取りを交わし、俺と夜宵は並んでベンチに腰掛けた。そういえば旗取り合戦の後からお互い名前呼びになっているが、仲間として距離が縮まったという認識でいいのだろうか。


 なんて、ぼんやりと考えていたのだが、


「なあ、夜宵」


「んー?」


「——今朝から、なんか元気なくないか?」


 触れるかどうか非常に迷ったが、仲間としてここは気にかけてやるべきということで訊ねてみる。


 というのも、今日の夜宵はなんというか覇気がないのだ。いつもの厨二病的な発言が少ないし、さっきのランニングも明らかに本調子じゃなかった。——まあ、その原因は大方はっきりしているのだが。


「沢田の評価なんて、間に受ける必要ないと思うぞ」


「……別に気にしてないし」


(嘘つけ……)


 思いっきり口で「ガーン」って言ってたくせに。

 まあ、沢田に話を振った俺にも責任はある。


「あんな話、あいつに続けさせたのは悪かったよ。でも本当にお前が気にする必要なんてない。お前の力には……本当に俺も助けられたからな」


「……本当に?」


「ああ。旗取り合戦で俺が考えた作戦は、夜宵の魔術があったからこそできたようなものだ。実際に見たのはあれが初めてだったけど、仲間としてこの上なく頼りになるなと思ったよ」


 これは決してお世辞なんかじゃない。

 夜宵の拡張性の高いAUSは確かに、この上なく戦闘向きだ。仲間にいれば確実に戦略の幅が広がるし、彼女になら背中を預けられるという絶対的な信頼がある。


「ありがとね、気遣ってくれて。お世辞でも嬉しい!」


 そう言って控えめに、夜宵は笑顔を見せた。

 お世辞なんかじゃない——と俺は返そうとしたが、彼女はそれを遮るように、


「ちなみに、遊翼はそこんとこどうなの?」


「……何が?」

 

「厨二病モードのときの私、やっぱり話しづらい? 傍から見たら恥ずい……かな?」


「いや、俺はその……なんというか——」


 突飛な問いに、返答に詰まる。

 厨二病っぽい自分の振る舞いに、夜宵も夜宵なりに葛藤があるのはわかりきっている。だから俺がそれを真正面から肯定していいものか——少し悩んだ。

 

 しかしそんな折、白衣の男性が俺に近づいてきていた。


 

「——ここにいたか、操神」

 


「——! 毒嶌先生……」


「お前宛てに()()が届いてる。取りに来い」

 

 ぶっきらぼうにそう言い放った毒嶌は、ついてこいと言わんばかりに俺に背を向けて歩き出す。有無を言わさぬ彼の言動に、俺もその後を追わざるを得なかった。


「ごめん夜宵、また後で話そう」


「あ、うん……またね」

 

 夜宵との話から逃げるようにして、毒嶌の後を追う。彼女には悪い気がしたが、その場の空気で思わず曝け出しそうになった本音を明かさずに済んで、なんだかほっとした自分がいる。


 口が裂けても言えないのだ。

 厨二病口調じゃない方の素の夜宵が、普通に美少女すぎて実は若干話しづらいなんてことは——誰にも言えない。




          ・・・




「……で、なんなんです? 俺宛てのブツって」


 毒嶌たち職員のいる本部にまで連れられた俺は、早速話を切り出した。毒嶌はなぜか手遊(てすさ)びで昔ながらのハイパーヨーヨーを回しているようだったが、ソファの前のローテーブルを指差し、


「そのアタッシュケースに入ってる。開けてみろ」

 

「……?」

 

 ひとまずソファに座り、言われるがまま銀色に縁取られたそのケースを開けてみる。すると、その中に収まっていたのは——数本のナイフと、バトン型のスタンガンだった。


「……これ、もしかして」


「ああ。前に武器の支給申請出しただろ? 今日からはそれがお前の新しい武器——()()()()になる。存分に使え」


 合宿に行く前、装備に関しての希望があるかのアンケートに答えていたのを思い出す。肉叉の件までのナイフやスタンガンは、あくまで俺に仮装備として配給されたものだ。もともと対人戦用ではないし、もちろんジャグリング用でもない。


 ケースに収められていたのは、コンバットナイフ6本に、大型のマチェットナイフ2本。そしてバトン型スタンガン2本。すべてが俺の希望通りなら、全部にジャグリング用の重量調整が取られている筈だが……そこまで期待してもいいのだろうか。


 というか……


「武器支給するにしても、今でよかったんですか?」


「どういう意味だ?」


「いや、こういうのって普通訓練終わった後に支給されるものかと思って……」


「実戦で使うもんを訓練で慣らさないでどうする」

 

「——That’s right!!」


 毒嶌に同調するように割って入ったのは、Mr.マーヴェラス。

 いつから聞いてたんだあんたはと訊きたいところだったが、あまりにも存在の主張が強すぎてそんな言葉も引っ込んでしまった。彼はなぜかサイドチェストのポーズを取りながら、圧のある声で言う。


「新しい武器との出会い……それは言うなれば新たなる門出ッ! 今この時をもって、Boyは戦士として生まれ変わったのだッ! さァ今日は存分にマイニューギアるがいい! HAHAHAHAHAHA!!」

 

「なんすかマイニューギアるって……」


 どこまでもアメリカかぶれのおっさん感のある彼の言葉に辟易しつつ、再びナイフ類を一本ずつ手にとって確認してみる。怪我なく回せるようになるまでは多少時間がかかりそうだが、確かに頑張るモチベーションにはなりそうだ。


 と、ほんの少しだけワクワクしていると——


「それと、操神」

 

「はい?」


「俺は戦闘は専門外だが……ひとつお前に、理論的なアドバイスをやる」


 毒嶌は椅子に腰掛け、こちらに向き直る。

 それからこちらに数枚の資料を渡し、彼は語り始めた。

 


「——お前の〈AUS〉の、効果的な使い道についてだ」




        ◇◇◇


 


 同時刻、合宿訓練場前。

 正面入口から少し離れた森に、一人の人影があった。


「警備は手薄……まるでペラペラの同人誌じゃねェか」


 入口を守る守衛二人の姿を見て、木の枝の上に座していた青年は笑った。ハネ癖のある金色の髪は伸びきっており、両眼は悪魔のごとく吊り上がっている。またその左手からはヨーヨーがストリングで垂れ下がっており、緑色の光の刃を見え隠れさせながら忙しなく昇降を繰り返していた。


 と、その時、青年の腰ポケットで端末が鳴った。


「お〜、七刃(ななは)か?」


 ヨーヨーをキャッチした青年は、端末を耳に当てる。

 電話越しに発されたのは、冷徹な少女の声だった。


廻神(えがみ)、そちらの様子はどうだ?』


「あー……警備の方は特に問題ねぇな。オレ一人でもブッ潰せる。にしてもバカでけぇ施設だ、ビートたけしの自宅くらいあるぜこりゃあ!」


『……わかるように話せ』


「話してんだろー? なぁ七刃、テメェももっとこっちの世界のもんに興味持てよ。俺たちぁせっかくあの監獄(じごく)から抜け出せただからよぉ!」

 

『私は与えられた使命を全うするだけだ。……では、襲撃は手筈通り四日後にな。切るぞ』


 ぷつりと電話が切られ、廻神と呼ばれた男は深くため息をついた。それから枝の上で立ち上がり、六基のヨーヨーを両手に装備して訓練場を睨めつける。まるで対岸に見える敵陣を目に焼き付けるように。



「ハッ……首洗って待っとけよ、公安の犬どもが」

 


 ヨーヨーの【中毒者(ホリッカー)】、廻神(えがみ)絢聖(けんせい)

 公安の〈ANTIDOTE(アンチドート)〉との衝突を今か今かと待ち望む彼は、ヨーヨーを射出して深い森の中に消えていったのであった。

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