第20話 恋バナ初心者
合同訓練合宿──略してゴーガツ、2日目。
全部で1週間を予定しているゴーガツであるが、初日である昨日だけでもかなり濃密な内容であったことは間違いない。
沢田や伊織さんとの出会いだったり、そんな彼ら彼女らとのレクリエーションを行って、親睦を深めるところで1日目を終え、2日目がやってくる。
修学旅行チックなイベントではあったが、俺も沢田も寮に帰った頃には疲れてしまっていて、敷いた布団の上にバタンキューだった。
だから、恋バナとかは存在しなかった。しなかったのだが──
「なぁ、操神には好きな人とかいないのか?」
「……今?」
ゴーガツ2日目。男女混合で、炊事棟にて朝食を摂る時間に、俺にそんだ話題を降ってくるのは泡音であった。
必然、その場にいる女性陣の視線も俺に集まってくる。
「あー、そっか。聴き方が悪かったな。好きな人じゃなくてもいい。今の第一班・第二班のメンバー、まぁ要するにこのゴーガツに参加してる女子の中で付き合うとしたら誰よ?」
「……だから、今?」
「んぁ?今じゃないのか?ゴーガツって修学旅行みたいな感じじゃないのか?」
「あのなぁ……」
俺は、呆れて物が言えなくなる。恋バナをするのは、修学旅行の夜の楽しみなのであって、朝っぱらからするようなものじゃない。ましてや、同性しかいない空間でするからこそぶっちゃけられるものがあるというのに、こうして女性陣から視線を向けられている中じゃ、普段話せることも話せない。もしかして、泡音は恋バナ初心者なのか?
「──逆に聴くけど、泡音はいるのかよ?」
「オレ?オレは仕事とプライベートは分けるタイプだから」
「そのタイプを自称するならビジネスパートナーのプライベートに踏み込んでくるなッ!」
「俺と操神は親友じゃなかったのか!?」
驚いたような顔をして、ショックのあまり炭酸をガブ飲みする泡音。随分と都合の良い話だが、このまま行けば話を逸らせるかもしれない。
「俺にそうやって好きな人を聴くなら、自分から話したらどうなんだ?伊織さんとかどうなんだ?」
「十和?ないない。アイツは平和の【中毒者】を騙るマウンテンゴリラの化身だから」
「なんですって!?」
あまりの風評に、伊織さんが大きな声を出す。だがまぁ、誰だってマウンテンゴリラの化身などと言われれば怒るだろう。伊織さんは、泡音に詰め寄ろうとするけれど俺達の恋バナを盗み聞きしたい他の女性陣になんとか止められる。
「じゃ、じゃあはるポン───乾遥とかは?ギャル系、どう?」
「ギャルなぁ〜〜、別に嫌いじゃないけど、乾遥っていう人物像をほとんど理解してないからなぁ……」
「駄目なのか?」
「まぁな。お互いをそれなりに理解し合わないと、ちゃんとした恋愛はできないと思うからよ」
どうやら、泡音には泡音なりのキチンとした恋愛観があるようだった。
「それじゃ、第一班の2人も駄目そうか?」
「そうだなぁ……別に駄目って訳ではないんだよな」
「接点、あったっけ?」
「俺が〈ANTIDOTE〉に配属になったのが3か月位前なんだけど。俺が入って1ヶ月もしないくらいだったから……2ヶ月くらい前だったけなぁ?そんな前かは怪しいんだけどまぁ、そのくらいに第一班と第二班の合同で取り組む任務があったの。その時に、夜宵ちゃんと錦ちゃんとは親しくなって」
「そうだったのか……」
「付き合うとしたら、錦ちゃんかなぁ……」
「───へぇ……」
俺は一瞬、泡音と錦ちゃんが付き合っている架空の未来を想像してしまう。
……嫌だ。
何が「嫌」と言語化することができないけれども、ただとても嫌だ。
俺の好きな人が言及されるのも嫌だったが、泡音と錦ちゃんの話が深堀りされて、そこの2人が「お似合いじゃん」などという雰囲気になってしまうのも嫌だった。
「お互いのことをそれなりに理解しないと──とか言ってたけど、錦ちゃんのこととかわかってるの?」
「わかってないなぁ……。錦ちゃんは、その『わからない』っていうミステリアスさがアイデンティティで可愛い部分なんじゃん」
「そうか……。夜宵はどうなんだ?」
俺は、錦ちゃんからズラすために夜宵の方へズラしておく。他の女子も全員聴いているから、夜宵のことを聞いてもおかしくないはずだった。
「夜宵ちゃんはなぁ……理解ができない」
「え?でも、関わりはあるんだろ?」
「あぁ。だから、理解してないんじゃなくて理解ができない」
「それってつまり……」
少し、合点が言った気がする。
俺だって、夜宵の発言の全てを理解することはできていない。だから、初対面で夜宵と知り合って嵐のように過ぎ去っていくのを見て「惚れろ」と言われて惚れられる方が難しいだろう。
「やっぱ、厨二病っての?見てて恥ずいわ!」
「ガーン……」
こうして、泡音の自分勝手な評論により精神的ダメージを負った女性が1名と、泡音に対して怒りを覚えた女性が1名。
泡音の恋人第一候補として選出された蛇ノ目錦に至っては、泡音にそんな評価がされていると気にしないと言わないばかりに朝食を丸呑みしていたのだった。
そんな話をしていると朝食の時間は終わり、俺の恋人にしたい人の追究は避けることができた。
──そんなこんなで、ゴーガツ2日目は幕を開ける。
2日目から始まる、今回のゴーガツにおける主な内容としては──
「SHOW!!君!!!!君達に足りないものはなんだ!知識か?経験か?策謀か?いいや、それよりもIMPACT!!!」
相変わらずテンションが高いスパルタ金髪男───Mr.マーヴェラスは、筋骨隆々とした肉体を見せつけながらそう口にする。
「少年少女よ!!!このゴーガツの間に、最低1人1個は、必殺技を作り出してもらう!!」
必殺技──そんな、異能力バトルには欠かせないであろうインパクトの権化を習得するという任務が俺達に課されたのであった。




