なろうなうわさ
たぶん、1番なろうらしいうわさ
世の中にはありとあらゆる話がある。
嘘、妄想、冗談、その場の勢い等等。
特に空想とか呼ばれる部類の話は枚挙に暇がない。
その中でもかなりブッ飛んでいて、それでいてだからこそひっそりと心の底でそうであって欲しいと望んでしまう与太話がある。
異世界転生。
とある小説投稿サイトで有名になり、そのまま概念化した要素。
事故などによって命を落とした人間が、地球とは違う場所、世界へ行って特別なチカラを得て好き放題生きる話。
そのきっかけとして多数語られるトラックとの交通事故。
これを見かける頻度の高さにより、実は集合的無意識でそれを真実だと皆が認識しているのでは?
異世界転生があるなら、特別なチカラも本当にあるのでは?
等と、まことしやかに語られ、証拠も何も無いが半ば事実とも目されている要素。
その代表たるトラック。
トラックを指して、その名も
転生トラック
この概念を知ったとたんに、妙な現実感を持つ。
トラック事故という現実でも発生する事柄に、死後の話と言う生きた者には真実を知り得ない世界が結びつき、抑圧された社会に生きる者が開放されたい思うまま生きたい救われたいとする願いも加わり、在ってほしいと求める気持ちが現実感を持つのだ。
他にも異世界バスや異世界電車や異世界通り魔や異世界エレベーター、異世界殺人ウイルスに異世界寝たきり重病。
ありとあらゆる方法で転生する話はあるが、やはりトラックの強さが1番だ。
この異世界トラックは現実に無い。
無いはずなのだが、世には存在するものとして語られる事もまま有る。
なぜか。
それは我が国の清掃技術の高さ。
トラックに轢かれて亡くなっては肉体の損壊がひどいことになっている事だろう。
なのに、その事故の跡は道路にほとんど遺らない。
遺るのは車のヘッドライトカバーの細かいプラスチックの粒くらい。
そんなだから、遺体はどこへ行った?
と疑問を持ってしまい、そこから話が飛躍するのは当然と言えよう。
それはトラックだけではない。 ほかの現場でも同じ。
であれば、それを異世界に繋げる妄想もしやすい事だろう。
これも妙な現実感を補足する要因かもしれない。
色々言ったが、今日もまた――――
〜〜〜〜〜〜
「――――はいはい、標的はあの冴えない男ね。 りょーかいりょーかい。 異世界トラックドライバーは、今日もキッチリ仕事しますよー。
つーかトラックの俺だけじゃなくて通り魔も病院もアレもコレも仕事しろよー……なんで1番成功率の低いトラックにばかり仕事を回すんだよ、ちくしょー」
企業名がプリントされていないトラックに、企業名がプリントされていない作業帽と作業着を着用した男性が運転し、出番を待っていた。
「まーーったく、偽装のために異世界異世界言わされて、こっちの目をどれだけ白くさせるんだか」
いつでもアクセルを踏めるよう、手はハンドルに足はアクセルペダルに触れているドライバー。
「分かってるよ? 本当はただ標的を脳缶にして、政府主導のフルダイブ技術の被検体を集めてるだけってのは。
それでそれを隠すため、わざと誰かに聞かせるように異世界異世界と言わされてるのくらい」
車内でグチグチとボヤき続けるドライバー。
グチっているそのドライバーの視界の端に不意に、不思議なリズムで点滅している紫の光が飛び込んできた。
この光の点滅は行動開始の指示の暗号通信であり、つまる所異世界トラックへのGOサインである。
「はいよ、轢きますよっと。 まったく、仕事とは言えこんな事したくねーよなー」
ドライバーは姿勢を整え、アクセルを強く踏む。
国主導の行為なので、指示を受けた人が指示された対象の命を奪う事は、合法……と言うか罪に問わないとかいう、いわば条件付きマーダーライセンスを交付されている状態。
もちろん被害にあった方とその遺族へは被害者として、トラック等のそれぞれが偽装で所属している所から慰謝料等の支払いがされている。
脳缶……脳缶とは、脳だけを取り出してケーブルに繋ぎ生命維持し、謎の液体が詰まった分厚いガラス?の円柱状の容器に詰めたものの俗称。