71:大湖畔、掃討作戦!
悪魔事件の後のこと。俺は『黒亡嚮団』なる連中がいるとイスカルに話した。
今回の件も連中が絡んでるんじゃないかということ。邪龍の毒撒く『商人』とやらも連中の一人なんじゃないかということ。そして、人類七大特級戦力が狙われてるかもしれないってこともな。
すると、
「任せるがよい。方々に書状を送り、その『黒亡嚮団』とやらについて注意喚起するである」
と言ってくれた。
「助かるよ。七大特級の連中はなかなか捕まらないからな。もういっそ発布してもらったほうがいい」
「うむ。……にしてもサラよ、口ぶりからするにだいぶ前からその組織のことを把握していたようだな。なぜ吾輩に相談せぬ?」
ぬおっ、なんかイスカルがらしくないこと言ってきた……!
以前までなら相談事したら〝面倒な話もってくんな!〟とキレてそうなのに。
「お前、ちょっと懐デカくなったか?」
「元々デカいである!」
「それはない」
「なんだとオスガキャァッ!?」
キレるイスカルにちょっと噴く。うんうん、やっぱお前はこうじゃないとな。
「冗談はともかく、出来る限り俺一人の手で解決したかったんだよ」
「なにゆえ?」
「例の組織『黒亡嚮団』って連中が、人化した魔物で構成されてるらしいからだよ」
そう言うと、イスカルは「あ~……」と嫌そうな顔で納得してくれた。
「なるほどである。人々が疑心暗鬼に陥るのを避けたかったか」
「そーいうこった」
流石はイスカルだ。話が分かる。
隣人同士が〝お前魔物なんじゃないか〟と疑い合う社会。んなもん求めてないからな。
「が、どういう仕組みか、人を悪魔化する事態を引き起こしてきたんだ。もう抱え込んでる場合じゃないってな」
「うむ、委細承知である。ひとまず『人化できる魔物の集団』という点は伏せて広めるである。名が知れ渡るだけでも、動くのは難しくなるものよ」
「任せたぜ」
仕事となれば頼れるのがコイツだ。ちょっと肩の荷が下りた気分だな。
「うーし、久々に昼寝するかぁ。しばらくはお前んちのフカフカベッドを使えるしな」
「気楽なものであるなぁ。吾輩はこれから悪魔被害の確認に、あとは商会長らとの会議のやり直しもあるというのに」
会議? ああ。
「そういや、新発見した『大湖畔』の利権分配について話してたんだったな」
「うむ。アルベルトのせいで色々無茶苦茶になったがな。まったく今日は厄日である」
たしかにな。だが、
「これからはやりやすくなっただろう、イスカル? 何せお前は『悪魔殺し』だ。どんな采配をしようが、商人どもはガクブルで従うぜ」
「ぬふふ、違いないであるな!」
全てが片付いてからの、商人らのイスカルを見る表情。あれは完全にビビっていた。
元々は商会の大老・アルベルトにつられて強気になっていただろうが、もう無理だな。悪魔ぶっ殺す腕っぷしを持つと思い込んでいる上、てかそれ以前にアルベルトの側近共を虐殺してるしな。
改めて『貴族』の怖さを知っただろーよ。
「じゃ、大湖畔の件も任せたわ。早く冒険者が動けるようにしてくれよ? じゃないと困る」
「む? サラよ。貴様と冒険者に何の関係が?」
「秘密だよ」
俺の本業が、三級冒険者なんてことはな。
◆ ◇ ◆
というわけで数日後。完全に会議を支配したイスカルが、急ピッチで利権問題を解決したことで……、
『しゃああああああ~~~~ッ! みんな突撃じゃあああーーーーーーッ!』
「おーう」
野郎どもの声に適当に合わせる。
俺たち冒険者は、大湖畔周辺の本格開拓を進めることになった(もちろん俺はジェイドの姿で参加だ)。
ちなみに、
『うおおおおおおおォォオオオオオオーーーーーーーーッッッ!』
「おいお前ら、目が女性冒険者たちのほう行ってるぞ~」
今回の俺たちの格好は――水着だった。
そう。大湖畔の周囲は湿地帯で、重厚な装備では足が沈んでしまったり、水に錆びたり、あとは布系装備でも水気を吸って動きづらくなってしまうのだ。
というわけで、〝じゃあもう水着で挑もうぜ〟という話になったわけだ。だが。
「――へ、陛下ぁ……! みなさんが見てきて怖いんですけどぉお……っ!」
「そりゃバジ子はな」
『うおおおおおおおおおおおおおドラゴン級おっぱいだァアアアアアーーーーッッッ!?』
……男性冒険者たちの集中力が壊滅状態だ。
特にバジ子が大被害を与えている。子犬のように潤んだ瞳の美少女ヅラに、凶悪すぎるLカップの乳。そしてエロい闇を連想させる帝王切開痕のような傷跡(※邪龍時代に俺がつけたヤツ)と、とんでもエロボディしてんだからな。
それをなんと黒ビキニでおっぴろげにしてんだからもう地獄だよ。結果、野郎どもはモンスターそっちのけでバジ子に視線を注ぎ、大湖畔周辺の『ジャンボフロッグ』なる巨大蛙に舌パンチされたり飲み込まれたりしてるのだった。南無。
「「あーもう! みんなだらしないっ!」」
と、そこで。火弾と水弾がカエル共の腹に直撃。『ゲコォっ!?』と開いた大口から、変態冒険者共がスポンスポンスポンッと抜けていった。いやなところてんだな。
「ダメだよっ! そんなに強い魔物はいないことはわかってるけど、油断はメッ!」
「そーですよ。まったく男性は一部除いてアホなんですから」
揃ってやれやれと首を振るのは、天才銀髪ロリ姉妹ことニーシャ&クーシャだ。
瑞々しい肌にピンクと水色の水着が可愛らしい。二人とも、拾ったときはガリガリだったのに肉付きよくなって嬉しいよ……。ぐず。
「へへへ、ニーシャちゃんとクーシャちゃんも可愛いなぁ。胸も大きくなり始めて……ってなんかジェイド泣いてるし」
「水着の女の子見る顔じゃねぇぞ……」
「結婚式のお父さんかな?」
うるせーよ野郎冒険者共! つかニーシャクーシャにエロい目向けんなっ! バジ子には……存在自体が下品だからもういいです(諦め)。
「ほれお前ら、ちゃんと魔物を注視しろ。二人もそう言ってただろ」
「「むぅ~! お兄さんはこっち見なきゃダメっ!」」
「なんでだよ」
……あー、天才二人にとっては俺は万年三級冒険者だからな。優秀な格上冒険者をよく見て動き合わせたり学んだりしろってことか。
「そして今のお兄さんは、女性冒険者に近づいちゃダメだよ?」
「わかったよ(俺がエロい目向けると思ってるのか?)」
「絶対ですよ!?」
よほど本気で訴えたいのか、目が血走るほどの眼力で俺に言ってくるニーシャ。まぁ元保護者がセクハラまがいのことしてたらキツいもんな。
続けてクーシャも獣のような眼光で言ってくる。
「あぁまったくお兄さんはとんでもないお兄さんです。細身かと思いきや、服一枚脱いだらなんですかその身体は?」
「え、なんかごめん……(俺、だらしない身体してたか?)」
「あぁ見ていられない!」
相変わらずツンツンな二人だ。まぁそこも含めて可愛いんだけどな。
「にしても二人ともよかったよ。元気になって」
一時期は二回連続でぶっ倒れてたからな。なんかこいつらには想い人がいて、でもそいつをバジ子みたいなエロ美少女に寝取られる夢を見たらしい。
そのせいでバジ子見るたび悪夢思い出して憤死していたようだ。
「もうトラウマは乗り越えたんだな。バジ子近くにいても大丈夫っぽいし」
「「え、バジ子? 誰それ?」」
えっ。
「「目の前にいるのはお兄さん一人では?」」
「え……あっ」
二人はガチだった。光のない瞳で、本気でこいつら言ってやがる……!
「ま、まさかお前ら、脳の認知機能からバジ子を無理やり消すことで、心を守護っているというのか……!?」
な、なんていじらしい純愛っぷりだろう……!
そんなに想い人とやらのことが好きなのか。そいつを奪われたらそんなにショックなのか。
「ニーシャ、クーシャ……!(クソッ、一体誰なんだこいつらの想い人とやらは!?)」
こんなに二人に愛されるとは憎いヤツめ! 邪龍くらい強い男じゃねえと、俺は交際を許可しねえぞ!?
「お前ら、一体どんなヤツを……」
愛してるんだと二人に聞こうとした時だ。双子姫は「「おっと、いけないいけない……!」」と俺から目を反らした。
え、なに?
「私たちのパーティ『妖精の悪戯』の取り決めでね」
「今日のお兄さんに近づいていいのは、一人三分まででした」
「それ以上は危なくなる自信があるからね……!♡」
と言って、二人は「「またね~!」」と離れていった。
「え、どゆこと……?」
まさかあれか? 裸の俺がザコく見え過ぎるから、みんなで忙しい中、交代で見守ってやろうってことか? へこむ。
「俺、流石にへぼく振る舞いすぎたかなぁ……」
態度を改めるべきかと悩んでいた時だ。見守り政策を正解と裏付けるように、間髪入れず「ジェイド氏」と静かに呼びかけてくる者がいた。
って、
「俺をそんな風に呼ぶ奴は、受付嬢のミスティカと……」
「お久しぶりです。『妖精の悪戯』の、ヘルマンティーナです」
と言って、美女なりかけの美少女は、眼鏡を押さえながら軽く会釈をするのだった。
「久しぶりだな、ヘルマンティーナ」
知的クール眼鏡少女に軽く手を上げる。
この子も一時期、俺が保護した者の一人だ。お姉さんと一緒にな。
「姉貴は元気か……って、聞くまでもないな。最近会ったし」
「はい。ミスティカ姉さんは相変わらず不愛想に仕事しております」
そう、彼女はミスティカの妹だったりする。ちなみに姉を不愛想とか言ってるけど、キミも大概無表情なんすけどね……。
「ヘルマンティーナは水着じゃないんだな」
「はい。本日、わたくしは大湖畔外縁部の魔物の掃討係ですので」
片手に持たれた大斧がドチャッ、と湿地帯を突く。知的眼鏡に見えてパワーファイターなんだよなぁ。
「それに」
眼鏡の位置を直しつつ、彼女はスッと俺を見つめてきた。
「今日は人が多すぎます。わたくし、想い人以外には肌を晒したくありませんので」
ほ……ほほ~……!
なんと彼女にも想い人がいたか。このクール美少女を落とすとは、とんでもない野郎がいたものだ。
「ただ悩みどころだったんですけどね。姉のように常にピチッとしていては、本命の想い人に性的アピールもできませんし。あのように万年処女にはなりたくありません」
「いやミスティカは……なんでもない」
妹にする話じゃないな。あと、相変わらず姉貴を敵視してる感じか。こうなったのはいつからだ? 俺と出会った十年前は、むしろミスティカに泣きついていた気がするが。まぁあんときは七歳だったのもあるけど。
「まったく姉さんはダメな姉さんです。そもそも今あの人が受付嬢をやれているのは、ジェイド氏が技術訓練教室に通わせてくれたからでしょうに。ならば氏には格別の配慮をするべきでしょう。なのに他の十把一絡げの冒険者と同じく塩対応をしてるとはハァやれやれですね。それだから同年代というアドバンテージを活かせず十年も」
眼鏡をクイクイクイッと直しながら愚痴るヘルマンティーナ。こいつなんやかんやで姉貴のこと語ってばっかだな。
コレ、いざ姉貴が誰かと寝たとか聞いたら脳みそ壊れるんじゃ――と思ったところで、「あ、時間です」と不意に彼女の口が止まった。
「本日は失礼しました。ジェイド氏も湖畔近辺の掃討、どうかお励みください」
「おう。三級冒険者らしくボチボチやるさ」
ちなみに彼女も双子姫同様、二級冒険者だったりする。何が原動力なのか知らんが若者の成長はすごいな。
「そっちも怪我するなよ?」
「お気遣いありがとうございます。ただ、多少の無茶はしますとも。ある男性を一生養い贅沢させるのが夢ですから」
ってヒモらせ志望かよ!? 想い人とやらのこと愛しすぎだろ!?
「ではジェイド氏。アナタ様こそお怪我なさらぬよう、あまり一人でうろつかないでくださいね?」
え、一人? すぐ側に「流石は陛下……メスの在庫が無限大……!」と意味わからん戦慄をしているバジ子がいるんだが。
え、もしかしてこの子もバジ子似の女に想い人を寝取られる夢みたいのか? 脳みそ守るために必死だなぁみんな……。
「久しぶりに話せてよかったです。それでは」
ともかく去っていくヘルマンティーナ。
……たしかあの子、今年で十七歳だったか。あと一年したら言うことにしよう。〝お前の姉貴は、やる時はやる女だよ〟と。
※来年、二重に脳みそを壊されるヘルマンティーナ「ああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?」
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