68:蘇りし悪魔
途中でもご感想ぜひください~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!
「グゥウゥッゥゥゥゥゥウウゥッッッ~~~!」
「なんだ?」
俺は訝しんだ。追い詰められた罪人、アルベルトが妙な唸りを上げたからだ。それに……脈拍や心音が、異様に加速していく……?
「む、なんであるか貴様。この期に及んで抵抗する気か?」
「おい待てイスカル」
イスカルは上っ面の変化だけしか気付いていない。
「反省の意志はないとわかった。どけ、衛兵共。吾輩が殺してやるである」
そして、不用意に彼が手を伸ばした――その瞬間、
「ガウッ!」
「むぅ!?」
アルベルトはその手に噛み付いた! それも老人とは思えない速度とバネで、だ。まるで獣か、魔物のように。
「えぇい放すであるッ!」
空いた片手で殴り飛ばさんとするイスカル。
だがアルベルトの姿は一瞬で掻き消えた。続いて、割れた窓の外から咆哮が。
気付けば老人は、領主邸別館の屋根の上にて、四足歩行で雄叫びを上げていた。
「な、何が起きてるであるかぁ……?」
「さあな。今回ばかりは私もわからん。それよりイスカル、手」
「ぬぬ!?」
噛まれたほうの手はずたずたになっていた。指こそ捥げちゃいないが、その寸前だな。完全に皮膚が破けて、見えた骨も砕けてやがる。
「ッ~~イダダダダッ!? おっ、遅れて痛みがきたであるッ! セバスチャン助けろぉ~!」
「あぁあぁ……イスカル様に長年寄り添った右手が……っ!」
「どういう意味だ貴様!」
「でもこれからはサラ様がいますからね……」
「どういう意味だ貴様!?」
主従の謎会話を無視して、考察する。ふむ。こりゃキナ臭いことになってきたな。
「ぐぅう。いくつもの身体強化スキルを宿した吾輩に、平民が傷を付けるとは……! あのアルベルトも貴族だったであるか?」
「ないな。見立てた限り、ヤツはただの老いた一般人だった」
数秒前までは、な。
「ともかくイスカル、手を借りるぞ」
「いでっ!?」
時間がないから無理やり握る。流石は貴族だけあって太くバキバキな手だ。そこにスキル≪収納空間≫より直接清潔な水を出してぶっかけ、スキル≪消毒≫とスキル≪回復≫をかけて元通りにした。
ほいいっちょあがり。
「お、おう。助かったである。……あれほどの傷を一瞬で治す≪回復≫とは、貴様どんな魔力量を……」
「まぁな」
魔力とは、『魔物』が出現して以降の動植物に宿った活力だ。スキルを使用する際に消費される。回復手段は休息。
俺はこれを、精神的エネルギーだと考えている。
〝労力の前借り〟とも言うべきか……。たとえばスキル≪回復≫を使用した際に、治る速度と度合いを上げるには魔力を多く消費する。それはつまり、〝早く完全に治りきるくらい、つきっきりで看病してあげた〟だけの精神的エネルギーを失うわけだ。
その点俺は、
「最強だからな。メンタルも余裕出て最強なのだよ」
「何言ってるであるか貴様は」
呆れた眼差しを向けられる。
いや、お前ら貴族だって〝えらくて強い〟って精神的支柱あるから、魔力もいっぱいなんだがな。俺と同類だよ。
「逆に、アルベルトは違う」
天に吼える老人を見る。ヤツは完全に老いぼれていた。
老いれば体力を失う。体力を失えば心にだって余裕がなくなる。すなわち何らかの強化スキルを持っていたとしても、ああも劇的に強くなれないって話だ。
「だとしたら、外的要因だな」
邪龍の呪毒を売り歩く、例の『商人』が何かしたか。あるいは人化した魔物だとかいう、『黒亡嚮団』なる連中の仕業か。あるいはその両方か。
何にせよ。
「無力化する。お前たちは隠れてろ」
商会長らや衛兵らにそう言い、俺は窓から外に出た。
気付けば空は曇天だ。まさかアルベルトが引き寄せたのか、空にはぽつぽつと雫落とす雨雲までかかっていた。
そんな中、俺は一人、中庭の花園に立ち…………って、
「何で横にいる、イスカル」
「ふん」
悪人面の野郎が側にいた。なんでだよ。
「引っ込んでろ、と言っただろうが」
「嫌である。拒否するである」
「馬鹿を言え。さっき念入りに消毒したのは、アルベルトが何らかの病毒を与えられてああなったと危惧したからだぞ。侵されたらどうする」
「ならばもう攻撃は喰らわないである」
「んなこと言っても」
否定しようとしたところで、口元に指を立てられて塞がれた。
「信じろ、である」
「イスカル……」
「サラよ。今日は貴様におんぶにだっこだ。これではとても、耐えられん」
真っすぐな眼差しで、領主は言う。
「仕事仲間なら、共に戦わせろ」
「!」
……へ。いいツラするようになりやがって。
「我らが領地の問題を取り除く。ついてくるがいい、サラよ!」
「はっ。邪龍についてこいとは、生意気だぞイスカル!」
俺たちは同時に地を蹴った!
砕ける地面。散華する花園。俺とイスカルは粉塵と花びらを舞い散らし、音の壁を突き破ってアルベルトに殴りかかる。
『ッ、ガァアアアアアアァアアアアアーーーーーーーーッ!』
対するヤツは完全に人を辞めていた。雄叫びを放ち、両腕を突き出して俺たちの拳を迎え撃ったのだ。
反射神経・筋力・威力・速さ・硬さ。そのどれもが常人ではない。貴族クラスだ。結果、超威力の鉄拳同士がぶつかり、ズッパァアアアアアンッという凄まじい音が開拓都市に響き渡った。
「……まぁ、所詮は貴族クラスだがな」
『ガッ、ガアァアァッ!?』
ぶつかり合ったのは一瞬だけだ。押し合うイスカル側に対し、俺の拳はアルベルトの手首にまでめり込み、そのまま肩まで抉り抜いた。
『ギャギィイイイィイ!? 痛イイイイイイッ!?』
悲鳴を上げて飛び退くアルベルト。俺とイスカルも屋根の上に降り立った。
「ぬぬぬ。吾輩は接戦であるのに、貴様は圧勝であるかサラよ。悔しいである」
「お前は運動してないからだろ。今度俺が付き合ってやるよ」
「ふん、よきにはからえである」
うるせーよ貴族め。それよりも、
「……見ろよ、アルベルトの腕を」
「むっ」
俺が抉ったヤツの片腕。その傷口が、白煙を上げて治りつつあった。まるで――俺がイスカルに施した『人外の治癒術』のように。
「こりゃ確定だな。ヤツは人間を超えた存在に弄られている」
「マジであるか?」
「ああ。事前に何か仕込まれたのか、それとも、今まさに操り糸が繋がってるのかは知らないが……」
やれやれ。本当に面倒なことになったな。昨日からマジで運が悪いんだが、一体どうなってるんだ……?
『グガァアアアアアアーーーーーーーーーッ!』
そこで、アルベルトにさらなる変化が起きた。
一足で空高く跳ねるや、服を引き裂いて、翼を広げさせたのだ……!
「ってマジで人間辞めてるじゃねえか」
「なんであるかなんであるか!?」
さらに、破裂するように膨張する筋肉。血走った白眼の上より生える捩れ角。そして全身の皮膚が赤く染まり、一体何百℃の体温をしているのか、振り始めた雨粒がジュウッと蒸発を開始した。
アレは。あの姿は……!
「『灼熱業魔ウゴバク』。火山の悪魔とそっくりだ」
「あッ、悪魔であるかァーーーッ!?」
イスカルが目をひん剥いて震え出した。きしょ。
「あッ、あッ、悪魔といえばっ、危険度判定S+の最上位霊的魔性ッ! 睨んだだけで常人をショック死させるというあの……! 吾輩死ぬであるッッッ!?」
「お前常人じゃなくて貴族だろ」
「あ、そうであった」
落ち着いたようだ。よかったね。
「種族能力:【悪魔睥睨】だったか。実際、悪魔の眼光は精神に直接ダメージを与えて急死させてくるが、貴族ってのは身体も性根も図太いからな」
過去に討伐もされている。そんときは国土の二割を灰にした悪魔に対し、国中の貴族が集まってウォオオオオッてヤケクソ突撃したらしい。楽しそう。
「だ、だが待てサラよっ。この地にいる貴族は吾輩一人だぞ!?」
「お前いつまでも結婚しねえからな」
「黙れッ! 貴様を娶るぞオスガキャァッ! ……そうではなく、実際どうするのだ!?」
今の悪魔は俺たちを注視している。さらに上空にいるおかげで、領民たちに被害はない。ただ邪龍耳を澄ませば、
『空になんかいるぞっ!?』
『あれ、図鑑にあった悪魔じゃねえか!?』
『なんだか気分が……』
『あーッ、ルアの兄貴が倒れた! 一日六度もオナニーするからぁ!』
と、騒ぐ声や体調不良を訴える声はあるようだ。アホ以外は助けねば。
「そこにいるだけで人類を侵す。まさに魔物の上位種、悪魔だな」
だが。
「ここには邪龍がいる。そして何より、貴族がいる」
「ぬ?」
俺はイスカルのほうを見た。そして問いかける。
「お前、俺一人におんぶにだっこされるのは、嫌だって言ったよな」
「……うむ」
「その気持ちは、今でも変わらないか?」
中天に座す悪魔を指さす。
かつて国土を壊滅させた災厄。なぜアルベルトがああなったかは知らないが、感じる瘴気と圧力は、完全に悪魔と同一と見ていい。
「俺は最強だからな。独りでだって倒してやれるが、どうする?」
「……意地悪な質問をするな」
顔を伏せるイスカル。……その様に諦めたかと思ったが、違った。ヤツの視線の先には、苦しそうに胸を押さえる老執事の姿があった。
「怖いである。正直お前に任せたいである。……だがッ、領民に、使用人に手を出されてっ、何もしなかったら男失格である!」
「っ!」
「ゆえにサラよ、力を貸せ」
貸せ――つまりはあくまで、自分が主導で戦う気で、イスカルはそう言い切った。
「ああ……いいぜ」
迷いなく頷いた。その願いに応えられなきゃ、それこそ俺も男じゃない。
「喜べイスカル。俺がお前を悪魔殺しにしてやるよ」
「なりたくはないがな。……それと願いついでだ、これからもその口調でいろ」
口調? ……あ。
「そういえば素が出てたな。いつの間に」
身バレ防止で、サラの時は仮面を被ってたんだが。あれぇ?
「マジでいつの間に……」
「ふはは、貴様の戸惑い顔を初めて見れたな。……ああ、それよりも」
嫌そうな顔でイスカルは上空を見る。――そこには、巨大な蒼色の術式陣を浮かばせる、悪魔の姿があった。
「アレは『魔砲』の式であるか……! 上位の魔物、それこそ邪龍に近しきモノしか使えぬ、人類殲滅の侵略呪法ッ」
震えるイスカル。離れた街の連中も、本能的に恐怖を感じ取ってパニックになりつつあった。
だが。
「安心しろ。俺がいる」
俺はイスカルの手に触れる。そして――万象滅殺の『黒炎』を宿した。
「っ、これは!?」
「おまじないだ。気に喰わないものを、全部ねじ伏せる力を宿した」
だからよ、
「やってやろうぜイスカル。俺たちの街を荒らす馬鹿を、ぶっ飛ばしてやろう」
「……ああ! ヤツの下まで送るがいいっ、サラよ!」
「まかせろ」
俺はイスカルの腰を掴むと、邪龍脚力で一気に空まで舞い上がった!
対する悪魔は『来ルナァアアアアアアアアアァアアアッ!』と叫び、その魔砲陣を輝かせ、そして。
『ダィッ、ダィィィッ、第十一階梯魔砲ッ――〝灰と化す焔〟ォオオオッ!』
極大蒼炎光が放たれた。かの火が宿す概念は『略奪』。触れた万物の全生命力を奪う、災厄の滅殺呪法だ。
だが――!
「ブチかませッ、イスカル!」
「ぬおおおおおおおおォォオオオオーーーーッ!」
万象滅却の黒炎は『略奪』という概念すら焼き尽くす。
俺とイスカルは蒼炎を引き裂き、天を突くように悪魔に向かい、
「我が領地からッ、去れであるゥーーーーーッ!」
『ガァアアアアアアアアーーーーーーーッ!?』
その顔面を殴り穿ち、騒動に決着をつけるのだった。
ここまでありがとうございました!
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