66:スパダリ(美少女)が来たよイスカルくん!
途中でもご感想ぜひください~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!
「はぁ」
廊下にうずくまるイスカル。彼はぼそりと呟いた
「もう嫌である……領主なんて辞めたい」
辺境伯――イスカル・フォン・トリステイン。
彼は自分をこう思っていた。〝人の上に立つ器ではない〟と。
「金は好きだ。美食は好きだ。贅沢は好きだ。貴族に生まれてよかったとは思ってる。だが」
人を導かなければいけないのは、しんどい。そして何よりも、怖い。
「次男坊ならよかったである。適当に小遣いだけ貰えれば満足だ。だが……なぜ吾輩は長男だったのか。おかげで家を継ぐことになり、領民どもを世話せねばならず、そして……」
震える眼で廊下の先を見た。
邸内に設けた、会議室。
そこにはつい今しがた、様々な商会の代表者たちが到着したところだった。
「……金の亡者どもと、付き合わねばならん……!」
――自分をかつて毒殺しかけた、大嫌いな連中と、だ。
おかげでイスカルの胃は痛むばかりだ。ただでさえ、『苦手な化け物』が来て辟易しているのに。
「はぁ……。あのクソガキが……『暗黒令嬢サラ』さえいなければ、吾輩は十年前に終われていたのに」
十年前。イスカルは麻薬を大々的に密造し、己が領地にバラ撒こうとしていた。
慣れぬ政務で経営難に陥りかけていた――とサラには語ったが、それは理由の一つに過ぎない。
本当は終わりたかったのだ。
領地を滅茶苦茶な状態にして、自身も薬に沈むか、殺されたかった。
自殺する勇気なんてなかったからだ。怖い思いをするくらいなら『最悪の領主』としてさっさと死にたかった。
「だのに」
真夜中の執務室。月光を背に、銀髪の怪物はイスカルの前に舞い降りた。
「サラのヤツめ……! 突然現れて計画を壊して、しかもよくわからん知識や開発品を与えまくってきおって。おかげで領地は大発展だ……!」
結果、全てが成功に終わった。
辺境都市は『聖都』に並ぶほどの大都市に変貌。イスカル自身も『希代の君主』『万民救済の聖人貴族』となぜか謳われるようになり、もうグチャグチャだ。わけがわからない。
「クソッ、クソッ。吾輩は望んでいないぞ。おかげで十年以上も、商会の連中とツラを合わせることになってしまったではないかぁ……!」
怖い。
大人になった今でも震える。
子供のころ、よりにもよって大好きだったメイドを傀儡として、毒を盛られたトラウマが蘇る。
商会者たちとの会議のたび、吐きそうになる。――それでも。
「クソッ、やってやるである! 今さら自滅しようとしても、あのガキに止められるからなぁッ!」
イスカルは震えながら進んでいく。やがて辿り着いた会議室。その扉に両手を当て、堂々とあけ放った。
「吾輩がきたである! さぁ話すとしようか諸君ッ!」
こけおどしの威勢を纏い、領主イスカルは入室する。
そんな勇猛な彼の姿に――大商会の老骨たちは、感情の籠らない笑みを浮かべた。
「おぉ領主殿。ご機嫌麗しゅう」
「これはこれは。相変わらずの男らしさで」
「すっかり成長しましたなぁ。……子供の頃とは、大違いで……」
――彼らから一斉に注がれる視線。
それはイスカルの虚勢を完全に見抜き、『どう利用しようか』と企む眼差しだった。
領民からは神の如く愛されるイスカル。そんな彼の鍍金も、我欲にまみれ、幼い頃から彼を知る者らには通用しないのだ。
「時は金なりといいますじゃ。さ、早うお座りを」
代表者の一人に着席を促される。それすなわち、会議の主導権を奪われたのも同然だった。
「……では、『大湖畔』の利権分配について会議するである……」
大人しく座る領主イスカル。
彼は呟いた。唇の動きだけで、一言〝たすけて〟と。
誰も聞こえるはずがない本音を。
◆ ◇ ◆
「老いた個体まで堕とすなんて『動物』の域を超えている……! 陛下は性欲まで最強ですか」
「お前は何を言ってるんだ?」
アホバジ子を連れて廊下を歩く。向かう先はイスカル邸の会議室だ。既にメンバーは集まってるようだな。俺の感覚は全てを見通す。
「はぁ。なんだか昨日から運が悪いな。宿追い出されたり、政治に絡むことになったり」
「うぐっ。片方わたしのせいですね、ごめんなさい……!」
「気にすんな」
そう。まるで気にすることはない。だって。
「俺は最強だからな」
会議室の前に到着。俺は扉に両手を当て、
「『第十三階梯魔砲――〝零に還る焔〟』」
滅びの邪焔を極小解放。黒き十字の大爆発を巻き起こし、壁ごと扉を粉砕した。
「なッ、何が起きたぁああぁああーーーッ!?」
黒炎舞う中、入室する。室内の連中はビビッてひっくり返っていた。よし。
「会議の主導権を手に入れたな」
「おまッ――何やってるであるかサラァアアーーーッ!?」
おーイスカルが怒鳴ってきた。失礼な奴だ。
「お前が言ったのだろうが。『たすけて』、とな」
「な、なぜそれをっ!?」
「さぁな」
俺はイスカルの側に立つ。
「あぁまったく。泣き言をいう意味がわからん」
何を恐れる必要があるんだか。
「お前には、最強の仕事仲間がいるだろうが」
「っ、サラ……!」
さてと。
「おい、お前たち」
商会の代表者らに目を向ける。
大半は年配者か。突然の爆発に驚いている彼ら。だが流石は海千山千というべきか、何名かが冷静さを繕い、姿勢を正した。
「こ、これはこれは。そのお人形のように美しい容貌……アナタが噂の『サラ様』ですか」
「そうだ。お前は?」
「ははぁ。儂はワーグナー商会の、アルベルトと申しまして……」
柔和な笑みを浮かべる老人。さきほどイスカルに着席を促していた者か。なるほど、ワーグナー商会といえばトップクラスの規模を誇るからな。
「自分はゾルトと申しまして」「儂はフナー」「私はローゲ」「ぼ、僕はミーメと言いまして」
次々と名乗る代表者ら。計、十三名。ずいぶんと数がいるものだ。
「この辺境地も成長したな。元々環境自体はよかったが」
ほどほどに涼しくて自然の実り豊かな土地。だからこそ邪龍が紛れこんだところもある。
「ははぁ。全てはサラ様のお力添えなれば。ゆえにこのアルベルト、貴女様とは是非ともご縁を結びたかった次第で」
「へつらうなよ。イスカルには、もう少し露骨だったろうが」
「は、なにを……?」
それと、悪いな。
「お前と仲良くする気はない」
何故ならば。
「アルベルト。並びにゾルト、フナー。お前たちだな、領主に毒を盛ったのは?」
「はぁッ!?」
三人は同時に驚いた。図星か。
「な、何を、おっしゃって……!」
「は。冷静な仮面がひび割れたな。まぁ、それも仕方ないか」
並の事態とは違う。十年以上も前の『とっくに終わった完全犯罪』をほじくられては、老骨だろうが取り繕えまい。
「私は〝鼻〟がよくてな。スキル≪感覚操作≫の制限を解けば、わずかな毒臭も嗅ぎ当てられる」
「な、何を馬鹿なぁ……!」
アルベルトが困ったような笑みを浮かべた。はは。そこはかとない『被害者ヅラ』だな。まだ冷静に装えるとは、大した役者だ。
だがお仲間はどうかな。ゾルトとフナーは、目を吊り上げて睨んできたぞ。
「うっ、噂のサラともあろうかたが、戯言が過ぎますぞ! あまりにも無礼千万っ!」
「その通りッ! 有力者ら集まる場での侮辱ッ、法廷に訴えるしかありませんな!」
大仰な言葉で叫ぶ二人。そんな彼らにアルベルトは一瞬咎めるような視線を向けつつも、再び弱々しい笑みを浮かべた。
他の代表者らも、流石に信じられないという眼差しでコチラを見る。
「はぁ、面倒だな」
あまり喋るのは疲れるんだよ。ゆえにさっさと終わらせよう。
「例の『商人』を捕まえ、自白させた。お前たちに、邪龍の毒を売った者をな」
「ッ――!?」
今度こそ、三人の顔が青くなる。
「な……なにを、なにを……!」
「貴族の身体は強いからな。並の毒では脅しにもならん。ゆえに、お前たちは貴族でも致死に至るような毒を欲していた」
少し前に助力した領主『ブラエ・フォン・コンスタンティーノ』がいい例だ。
貴族は強い。その血縁に優良な才能保持者を取り込み続けた彼らは、もはや人間を超えている。
「目的は脅しだ。貴族だろうが『殺せる手札』があるとわからせ、恐怖で縛り上げたかった」
「っ……」
「そこで例の商人からの提供物は、渡りに船だったよなぁ。邪龍の毒なら貴族も殺せる。しかもそんな代物、レアすぎて逆に足も付くまい」
「っっ……!」
数少ないけど誰かが持ってる。ソレならそいつが横流ししたとわかる。
だが、完全に誰も持ってませんとなれば、捜査のしようがないよな。
「で、楽しかったか、お前たち? 半殺しにした子供の前にのうのうと出てきて」
「……」
「相手が恐怖で固まってると理解しながら、上位者ヅラして操らんとする。ああ、ずいぶんな外道だなぁ?」
「…………」
「あまりに悪趣味だ。お前ら塵だよ。死ぬべきだ。はぁ、なんだか吐き気がしてきたな。目の前にいるのは害虫ではなく人間のはずなのに不思議だ。吐きそう。まさかつわりか」
「黙れ……!」
と、そこで。アルベルトが、ついに口を開いた。
「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れッ、小娘がっ! 毛も生えていないようなガキが儂らを罵るなァアアッ!」
おーおー。やっと仮面が取れてくれたか。その下の顔は……ああ、醜いなぁ。目の血走った老害の顔だ。
「罪を認める気になったか」
「何が罪だッ! 儂らにっ、儂に利権を与えておけばソレが一番なんだろうがッ!」
なんか喚き出したな。
「我がワーグナー商会は大昔から街を支え続けたんだぞッ!? 昔からトップだったのだ! ゾルトとフナーめも儂が商売を教えてやったんだ! ならばその恩義と手腕に任せて、権利をあるだけ渡せばいいだろうがッ! だのに前領主は、〝時には若手を育てることも〟と宣って、あの日の会議で……っ」
「認めたな」
もはや言い逃れも出来まい。
大商会の大老アルベルト。かつては数多くの商人に慕われてたんだろうが、もう駄目だ。
他十名の商会代表者らは、完全に犯罪者を見る目を彼に向けていた。
「ッ、そんな目で儂を見るなぁあぁあぁあぁあッ! 貴様らも毒を飲まされたいのか!? あぁ無礼者どもめっ。貴様らの中にはっ、傘下に入ることを約束に設立を助けてやった者もッ」
「おいアルベルト」
騒ぐ老人を呼び止める。「なんだァ!?」と怒鳴られた。おーこわ。
「罪を認めてくれてありがとう。だが、悪いな」
「はぁ!?」
だって。
「例の『商人』を捕まえたなんて話、嘘だからな」
「――は?」
そして、彼の顔は真っ白になった。
あ~、いいツラ見れたよ。
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