65:執事「結婚したいですイスカルくん!」
前回の途中にちょっと追記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「だが逆にだ。自分から門戸を開けた相手には、信頼を向けるのが人情ってもんだ。たまに家を見せるだけで民衆に好かれるし小銭も稼げる。万々歳じゃないか」
「成功した実例はあるのか?」
「織田信長」
「誰であるかっ!?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
こんな感じの会話挟みました。
領主イスカルと飯行く約束をした後のこと。
「ここが仮の住まいか。いい部屋だ」
俺とバジ子は立派な客室を紹介してもらえた。古風ながら家具は一級品で、広さも日当たりも最高だ。ベッドもデカいしな。
「よかったなぁバジ子……って」
黙り込んでいたロリ爆乳メイドを見ると、なぜか片膝をついていた。Lカップ乳が片膝に乗っている。
「いやお前なにしてんだよ」
「このバジ子、陛下への忠誠心をさらに厚くした次第です……ッ!」
あぁん?
「陛下が可愛い白髪カワカワ幼女になられたときは驚きました。その可愛さたるや、ニンゲンに生贄に持ってこられたら三つくらい願いを聞いちゃうほどの可愛さで……!」
「魔物特有の可愛さレビューやめろ」
賛美の言葉に『生贄』を出すな。
「しかし! 可愛くなった目的は、街の支配者たる領主を篭絡するためだったのですね!?」
「はぁ?」
「既に陥落一歩手前のご様子ッッッ! あぁ、流石は暗黒龍陛下……っ! 暴力に頼らぬスマートな形で、人間社会の支配を目論んでいたのですね~~~!?」
「ちげーよ」
小さくなった足でアホの片乳を踏んでやる。彼女自身の片膝とサンドイッチにされ、バジは「みゃーッ!?」と汚い鳴き声を上げた。
これで反省を……って、なんか頬が赤くなってない?
「痛いのになぜか心地いいッ! 特殊な交尾始まったぁあああーーッ!?♡」
「いや交尾でもねえし」
クッソ痛みを快楽に変換しやがった!
あと人んちでそういうこと叫ばないでくれる? また追い出されるのは勘弁だぞ?
「あぅ、母乳にじんできた……! 陛下、飲み放題です。ミルクサーバーバジ子です」
「廃業しとけ。そうじゃなくて、人間社会の支配の話だ」
妙な誤解はさっさと解くに限る。
「俺はそんなこと目論んでないぞ。だいたいイスカルの野郎を篭絡するなんざ反吐が……」
「っ! そうですねっ!」
お、わかってくれたか。
「ここは篭絡対象の巣の中! 盗み聞きされないよう、本心はシッーですねっ!」
「あ、なーんもわかってねえじゃん」
頼むぜピンクガキ。ただ可愛く生まれただけの魔物脳が。
「ちげーよ。俺が暗黒令嬢の姿してんのは、本来の姿隠して知識をバラ撒きたいだけだよ」
昔の街は酷い有様だったからな。糞尿そこらに捨ててるガチ中世だよ。そんなところに住むのは嫌だし、かといって賢者扱いされんのも気が引けただけだ。『邪龍脳みそ』で前世の漫画知識やらをコピペして発言するだけだし。
「それで領主に接近してるってわけだ」
「な、なるほど!」
「わかってくれたか?」
「はい! ……最強の暗黒龍様でも慢心せず、仮の姿でニンゲンたちを欺きながら、環境を自分に都合のいい巣に変えていく! まさに野生動物の鑑ッ!」
「はっ倒すぞ」
「押し倒すぞ!?」
えぇ……もう無敵じゃんコイツ。
「お前はすげーよバジ子……」
「ふぁっ!? 褒められたうれしい!」
ちげーよドン引いてるんだよ。
と、通じない会話をしていた時だ。扉がコンコンと叩かれ、「ご歓談中、よろしいでしょうか?」と老執事さんの声が響いた。
うぉおっと。バジ乳から足上げてっと。って残念そうな顔するな淫乱ピンクが。
「あぁ、いいぞセバスチャン。入ってくれ」
「では失礼して」
スッと扉を開けるセバスチャンさん。優雅に俺たちに一礼してくる。
「動き全てが物静かで上品だな。ウチの騒がしいメイドとは大違いだよ」
「いえいえ。ただの年の功なれば」
いやマジで違うよ。そもそも「はぇ~」って顔してるウチのピンクはメイドじゃねえし。ただメイド服着てるだけの魔物だし。将来の夢は俺の孕み袋だし。
「で、どうしたんだセバスチャン?」
「は。実はこれよりイスカル様は、各商会代表者と協議を行う予定となっておりまして。議題は『大湖畔発見』の件でございます」
「大湖畔? ああ」
ニーシャ&クーシャが言ってたな。魔物溢れる領域を切り拓いていった結果、でっかい湖が出てきたと。
次なる『開拓都市』を作るのに水辺は確保したいところだ。それゆえ、湖周囲や浅瀬の魔物を、総力あげて狩り尽くす予定になってるんだったか。
「人類の住める領域が広がりそうで何よりだな。それで?」
「は。つきましてはサラお嬢様にも、協議にご参加願えればと」
「なんだと?」
俺にどうしろってんだよ。領主と商会のボスたちとの協議なんざ、あれだろ?
「利権分配だな。次なる『開拓都市』が作られるまで、拓いた土地で発生する利潤は、拓いた都市のものとなる」
んで。
「今回見つかったのは大湖畔。つまり新鮮な魚が取れ放題というわけだ。各商会は、各々がどの範囲で一日に何kg取っていいか、領主イスカルにおねだりするわけだな」
「流石はサラお嬢様。その通りに御座います」
老執事さんは恭しく頷いた。
「難しい問題でございます。『新進気鋭の商会』と、長い付き合いの『老舗の商会』があるとしましょう。ここで恩義を重んじて、老舗ばかりを優遇すれば大変です。わかりますでしょうか?」
あぁわかるとも。
「若き商会は衰弱死。大商会の、一党支配状態となるわけだな」
「は。技術も価格も停滞する、大変不健全な有り様となります」
そりゃそうだ。ほどよいライバルがいてこそ、商業ってのは発展していくんだからな。
「反面、『新進気鋭の商会』ばかりを優遇もできません。『老舗の商会』から大きく反感を買うことになるでしょうからね。他の都市に移られてしまえば大損害ですし……さらに……」
執事さんが口を濁した。彼が言うべきか迷っている言葉を、俺は続ける。
「領主を脅かすかもしれんな。たとえば、毒を盛るとかで」
「っ!」
ハッと顔を上げる老執事。その反応、正解か。
「過去にあったな? イスカルの飯に、毒が混ぜられたことが」
「は……流石は、流石はサラお嬢様。その通りにございます……」
やはりか。あの神経図太いイスカルが、毒に対しては怯えていたからな。
「イスカル様が幼少のみぎり。今回と同じように新たな資材地が拓かれ、前領主様は若き商会を優遇する措置を図りました」
それで?
「その結果……前領主様ご本人ではなく、イスカル様の料理に毒が盛られ、半月近く高熱を出すことに……! あぁおいたわしい……!」
ふん。子供狙いとは教科書じみた脅しだな。
「落ち着けセバスチャン。で、犯人はわかったか?」
「は……。料理が配膳された前後で、姿を消したメイドがおります。十中八九その者かと。しかし」
「命令者が別にいるだろうな。その黒幕は不明なままと」
「はい……」
老執事は力なく頷いた。
まぁそりゃそうか。例のメイドを取り逃がした以上、もはや黒幕との線は切れたに等しい。
「怪しいのは当然、力ある商会。しかし老舗の大商会など一つだけではありません。しかもトップ層ではなく、中堅どころの商会が企てた可能性もある。大商会よりいっそ、半端な規模の商会のほうが、新進気鋭の商会に迫られるのは怖いですからね」
「大変だな」
心からそう思うよ。
これだから政治になんざ関わりたくないんだ。ジェイドじゃなく、『暗黒令嬢サラ』として領主に接近した選択は大正解だったな。あーやだやだ。
「……逃げたメイドは、イスカル坊ちゃまの懐いていた相手でした」
「そうか」
「それゆえ坊ちゃまのダメージは大きく、私めが作った料理しか食べられませぬ……!」
「そうか」
「商会代表者たちとの談義もッ、いつもイスカル様は、何十分も震えてから挑んでいるのです!」
老執事はついに涙さえ流し始めた。
「ゆえにどうか! どうかサラ様っ! イスカル様のお側にいてくださいっ! アナタ様がお側にいるだけ、きっと支えになるかと思いっ」
「もういい。口を閉ざせ」
「っ!?」
泣いて訴える執事を黙らせる。
「男が簡単に喚くなよ。いつもの冷静なお前はどうした」
「は……す、すみ、ません。私めとしたことが、どうにかサラ様に分かってほしいあまり、見苦しい姿を……!」
本当にな。老骨の泣く姿など誰が見たいかよ。
ゆえに、
「もはや二度と泣かせんよ。お前も、イスカルもな」
「え……!?」
爪先立ちになり、セバスチャンの泣きっ面を袖で強引にぬぐってやる。
「ぅあっ!? サ、サラ様っ、ドレスが汚くなってしまいます……!」
「汚いものかよ。主人を想って泣いた執事の涙だ。とても綺麗だぞ、セバスチャン?」
「っ!?」
強く訴えられる必要などない。その涙一滴だけで、俺はお前を助けたいと思ったのだから。
「もう大丈夫だぞ。私がここにいるのだから」
「サ、サラ、お嬢様ぁ……!」
俺に顔を拭われた恥ずかしさからか、赤面するセバスチャンに、俺は笑って言ってやる。
「お前たちの過去に、決着をつけてやろう」
――これより、黒幕を晒し上げてやる。
固唾を飲んで見守っていたバジ子(陛下は老人すらも攻略しようとしている……!?)
ここまでありがとうございました!
↓『面白い』『更新早くしろ』『止まるんじゃねぇぞ』『死んでもエタるな』『こんな展開が見たい!!!』『これなんやねん!』『こんなキャラ出せ!』『更新止めるな!』
と思って頂けた方は、感想欄に希望やら疑問やらを投げつけたり最後に
『ブックマーク登録!!!!!!』をして、
このページの下にある評価欄から
『評価ポイント!!!!!!!!』を入れて頂けると、
「書籍化の誘いが来る確率」が上がります!
特に、まだ評価ポイントを入れていない方は、よろしくお願い致します!!!↓(;ω;` )