63:ご褒美シチュだよ、イスカルくん!
さて、アルベドから『謎の黒壺』をもらって帰宅した俺だが。
「アパート、追い出されたな」
「ごめんなさいぃぃい……!」
追放宣告の翌日。俺は十年来住んだ借宿に別れを告げた。バジ子を連れて、あてどなく雑踏の中に出る。
「わ、わたしが転がり込んだから……っ!」
「いや気にすんな。元々壁の薄い部屋だったからな。そのうち出る予定だったさ」
そう、お金を貯めてマイホームを買ってな。そんで堂々と卒業するはずだったんだ。
……なのにまさか中退することになるとは。人間万事塞翁が馬だな。俺邪龍だけど。
「さてどうするか……ってンぁ」
咄嗟に『邪龍嗅覚』が嫌な臭いを察知。気付けば路上の犬のフンを踏む寸前だった。『邪龍反射神経』でビタリッと足を止める。
「っと、危ない危ない。……まさか俺が直前まで気付かないとは」
やべー。普通の人間なら間違いなくグッチャリコースだったな。
「追い出されたショックで気が抜けてたのかねぇ」
「うぅぅ……それで陛下、どうしますぅ……?」
ボロボロ泣きながらピンクが見上げてきた。あー泣くな泣くな。
「うわっジェイドがスッゲー美少女を泣かせてるよ……!」
「浮気性がバレたなありゃ」
「そこらじゅうの女を引っ掻ける男だからな……」
……ほれ、周囲の人見てっから。十年住んでるだけあって、顔見知りもちらほら歩いてるから。なんか話してる内容は気に喰わんが。
「陛下~! バジ子っ、頑張って働きますよ!? 陛下のためなら、え、えっちなお仕事だってぇ~……!」
「別にいいっつの。あとそういうこと言うな」
周囲の通行人ども、『堕とした女を風俗堕ちッ!?』とか戦慄してっから。ちげーよさせねえよ!
「ガキが金のことなんて気にするな。お前は儲けることより、人間社会に馴染むこと目指して普通に冒険者やっとけ」
お前みたいな世間知らずのロリ巨乳が変な仕事しようとするな。あくどい連中にクスリ打たれて性奴隷エンドだよ。
ヤク漬け快楽堕ちドラゴンとか、龍種の兄貴分としちゃ笑えねーよ。
「何度も言うが、責任感じることはねーよ」
「な、なんでですかぁ……!? わたしが来て、おうちを追い出されたのに」
なんでかって? そりゃ、
「追い出された悲しさより、お前が来てくれた喜びが勝ってるからだよ」
「っ!?!?」
いい気分なんだぜ? 出迎えてくれるヤツがいるってのは。
しかも俺の正体や本当の力を知ってるんだ。おかげで気楽に過ごせるってもんだ。
「だから泣くより誇ってくれよ。お前は俺の、大切な義妹なんだから」
「っっっ!?!?!?!?」
『そういうところだぞジェイドォオオーーーッッッ!!!!!!!』
ってうわぁうるせぇよ通行人どもッ! いきなり叫んでくんな!?
「えぇぇぇぇえぇ陛下ぁあぁあぁあ~~~!」
「あーもうバジ子も抱き着くな」
泣き虫ピンクを撫でてやる。その直前に0.02秒、彼女の頭の上に落ちてくる鳥のフンを『邪龍デコピン』の風圧で飛ばしつつ。
「さて、宿のことを考えるか~」
頼み込めば住ませてくれる知り合いはいる。
悪友のルアにシロクサとかな。あいつらパーティリーダーで、共同ホーム持ってるし。
ただ連中は男所帯だ。そこにバジ子を連れ込むわけにはいかん。
んで逆に、ニーシャ&クーシャのところは女所帯だからな。俺みたいな男がお邪魔したら迷惑だろう。
と、いうわけで。
「迷惑かけても心痛まないヤツのとこに行こう。ちと路地裏に入るぞ」
「ふぇっ!?」
ピンクの手を引いて物陰に紛れる。
って毒虫いるじゃねえか。『邪龍眼光』で滅殺っと。
「どどっ、どうしたんですか陛下!? 交尾しますっ!?」
「しねーよ。ちょっと待ってろ」
俺は身体から魔炎を噴き出した。万象を焼き尽くす邪龍ファイヤーだ。
「陛下っ、なにを!?」
「色々応用効くんだよ。たとえば、自分自身を程よく焼き溶かしつつ、邪龍細胞を操ることで」
――ある姿に、変身できたりな。
◆ ◇ ◆
というわけで。
「来てやったぞ、領主イスカル」
「うわぁ出たであるなッ! 『極悪令嬢サラ・ジェノン』!」
「誰が極悪令嬢だ」
はいやってきました。『開拓都市トリステイン』の領主邸ですわ。領主のイスカルくんおいっす~。
「極悪じゃなくて暗黒令嬢だぞ」
「知るかっ。というか暗黒令嬢ってなんだ!」
「知らん。街の連中が勝手に名付けたのだ」
「貴様も知らんのかいっ!?」
俺の姿は白髪黒ドレスの少女、『暗黒令嬢サラ』に変わっていた。
そんな俺を、悪人面のオッサン『イスカル・フォン・トリステイン』が嫌そうに見る。
「ふん、相変わらずツラだけは綺麗であるな」
「お前はツラも悪いけどな」
「黙れ! ……それで」
イスカルはじろりと俺の背後を見た。
……さっきから「かわぃいぃ~!」と言って後ろから抱き着く、バジ子のほうをだ。
「陛下、そんな姿になれたのですねぇ~!」
「……なんであるか、そのメスガキは。貴様が従者を連れてくるなど初めてであるが」
従者? ああ、バジ子のやつはエロメイド服着てるからな。それを今の俺が連れてきたとなれば、従者に見えるか。
「そいつは義妹だ」
「はぁ? 義妹? じゃあなぜメイド服など着ている?」
「私を誘惑するためらしい。交尾したくて仕方ないのだ」
「って変態じゃねえであるかッ! そんなヤツ連れてくんなっ!」
仕方ねーだろ。家追い出されちゃったんだから。
「はぁあぁあ~。カスみたいなヤツがカスみたいな人種を連れてきたである。今日は運が悪いのである」
「お前がカス言うな。麻薬密売しようとしてたくせに」
「準備してただけで未遂であるッ! だから吾輩悪くないである!」
「カス野郎の意見だな」
こういう男だ。俺がサラとして現代知識を広めようと接触したら、よもや領地経営に困って違法薬物売っぱらおうとしてたんだからな。
おかげで多少迷惑かけても心が痛まん。
「……それで、なんであるかサラよ? 貴様の提案した『生活保護』とかいう馬鹿げた施策なら、どうにか形にしようとしておるぞ。あれ効果あるのか?」
「ある。少なくとも治安は格段に上がる。誰もが異能という爆弾を抱えた世界では、行き詰った落伍者の暴走ほど怖いモノはないからな」
「む、まるでスキルなき世界を知ってるようであるな」
「ノーコメントだ。それと、今日は仕事の話をしに来たんじゃない」
俺はえほんっと咳払いすると、イスカルを見上げて頼み込む。
「しばらく、泊めてくれないか?」
「イ、ヤ、で、あ、るッ!」
「は?」
秒で断られたので交渉を開始。ニンゲンの億万倍の指圧力による『邪龍指パッチン』をすることで、空気を超摩擦してイスカルの周辺気温を120℃に変えた。脂ぎった彼の肌からブワッと一気に汗が噴き出す。
「泊めて、くれないか?」
「うぎゃぁあああああああああああぁああああああアチィイイイイイイィイイイイイイイッッッ!? わわわわわわかったからヤメロであるぅあああぁああああ~~~~~~!?」
「わーいやったー」
しばらくの宿、ゲットだぜ!
・ご褒美シチュだね、イスカルくん――!
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