59:部下にぷんぷんっ、アルベドさん!
前回のあらすじ:人 工 呼 吸
今回のまえすじ:殺 害
「ちょっとちょっとアンタ!」
なんか犬耳の女の子が話しかけてきた。年は十四歳くらいか。ギリロリだな。
「お前、シスターには気を付けろよ? 下の口で人工呼吸してくるぞ」
「何の話してんすか!?」
「トリステインにそういうヤツがいるんだよ」
「隣領こわっっっ!?」
はい注意喚起完了。いいことしたなぁ。
「ってそんなことはどうでもよくて!」
「いやどうでもよくはないだろ。タッチしてくるタイプのロリコンだぞ?」
「た、たしかにどうでもよくはないっすけど……あーもうそうじゃなくて、怪盗ロダンの話っすよ!」
ああ、なんかロダンの名前に反応して話しかけてきたんだったな。
「アタシの名はリリティナ。ここの領主邸で、アルベド様のお世話をさせてもらってる者っす」
ほほう。アルベドの身内だったか。
「それでなんすけど、実はアルベド様が怪盗ロダンを探してるんすよねぇ~」
「あいつを? あんなパンツ刺身にして食ってるオッサンをか?」
「あんなパンツ刺身にして食ってるオッサンをっす。実はっすね、怪盗ロダンに取ってきてほしいものがあるそうで」
「ふむ」
――怪盗ロダン。変態だが、人類七大特級に指定される人物だ。当然、常識外れの禁術を有している。
で、たしかあいつの能力は……、
「EXスキル≪冥獄世界・棘麗しき夜に咲く花≫。この世界から完全に消え、誰にも認識されなくなるそうっすね」
「ああ」
俺の知る限り最高峰の隠密系スキルだ。
なにせ透明になるとか臭いを消すとかそんな領域じゃない。能力使用中、誰の記憶からも消えるんだからな。
まぁ例外がいるが。
「それを使ってパンツ盗みまくってるのがあいつだな。ただ相当な大金置いていくから、被害者によっちゃ喜べばいいのか怒ればいいのか微妙な反応するそうだが」
「変態なことには変わりないっすよ。んでんで」
リリティナは尻尾を振りながら見上げてきた。なんじゃい。
「あいつの能力を見込んで、アルベド様は手に入れてほしいモノがあるらしいっす」
ほう?
「その名も『エリクサー』! どんな傷も治せるという王族しか持ちえない霊薬で、アルベド様は身体の回復を願っているっす!」
……ほう?
◆ ◇ ◆
――というわけで、獣人少女リリティナに連れられ、領主邸にやってきた。
「アルベド様~! 変態ロダンの仲間って人連れてきたっす~!」
「その紹介やめてくれない?」
印象最悪になるじゃねえか。
「ま、まぁリリティナ。『エリクサー』の件、他の人に話したのですか……!?」
と言って執務机から立ち上がったのは、両目をほとんど閉じたシスターのアルベドだ。
変態修道女ほどアレじゃないが、ヤバいところがあると俺は知っている。
「他言無用と言いましたのに……」
「で、でも理由を知ったら、絶対にロダン捜索に協力してくれるはずっすよ!?」
「人を簡単に信じすぎです」
そう言って頭を抱えた。
ま、エリクサーを手に入れるってことはつまり、王族の家から盗んで来いってことだからな。計画してるだけで大罪だ。
「部下に苦労してるみたいだなぁ」
「アナタは……って、ジェイドさん!?」
「ああ、今気付いたのか」
ジェイドの姿でも以前、この街に来たときに少し話した。
なのにパッと見でわからないとは。
それほど印象が薄かったか、あるいは、
「その両目、かなり悪いのか」
「っ……ええ」
彼女は両目に手を当てた。「眼病が進行してまして」と悲しそうに呟く。
「『暗黒令嬢サラ様』のご紹介で、領主イスカル様より様々な技術支援を頂けました。おかげで街はすっかり生まれ変わり、優秀な人材や最新の学問知識までいただけて。おかげで、色々あって古傷まみれだった身体も、最近は調子がいいのです」
「そりゃよかった」
医学から栄養学まで全部明け渡すようカリストに命じたからな。知識ってのは広まってこそだ。
「でも、目の病気だけはもう手遅れのようで……」
「なるほど。それで怪盗ロダンを探し出し、王族から『エリクサー』を盗ませようと」
「はい。この子から全部聞いてしまったのですね……」
恥ずかしげにリリティナのほうを見る彼女。
当のリリティナは焦りながらも「すんませ~ん!」と頭を下げる程度で、あまり深刻に考えていないようだが――俺の『邪龍イヤー』は聞いてしまった。
『……消すか、こいつら……』
と、アルベドの喉に留まった殺意の声を。こっわ。
「てかアンタ、アルベド様と知り合いだったんすねぇ~! 世間は狭いっすね~!」
「あ、ああ」
おいリリティナ気付けよ~、お前今世間から消されそうになってるぞ~?
「紹介がまだだったな。俺の名はジェイド。トリステインから来た三級冒険者だよ」
「ふぁっ、三級!? なーんだイイ背丈してるくせにハンパじゃないっすか~! あと一歩頑張らないと!」
と言って背中をバシバシ叩かれる。なんだお前腹立つな。
「すっ、すみませんウチのリリティナが! もう、この子ってば本当に礼儀がなってなくて」
「別にいいさ。前はいなかったが、領主になってから雇ったのか」
「ええ、まぁ色々ありまして」
ふむ。偉くなったなら側近もそりゃ増やすが、なにゆえ『獣人』を?
「イイ着眼点っすね~ジェイドさん! 実はアタシ、暗殺組織の一員でして! 前領主の親類に雇われてアルベド様をみんなで殺しにかかったんすよ~!」
「リリティナッ!?」
「そしたらこの人実はクソ強くてッ! もうみんなブッ殺されちゃいましたーッ! あ、ちなみに前領主やその家族もこの人がヤったんすよ? でも実は隠し子がいたみたいで、その人が依頼を」
「リリティナァッッッ!?」
……うわー、領主交代劇の裏側を全部ゲロっちゃったよ。
「な、なぁアルベドさんよ。獣人ってのはその、強い代わりにちょっと頭が悪いのがデフォなんだぜ? まぁこの子は頭悪いっつか、空気が読めないみたいだが」
――獣人。ファンタジーでは迫害される存在だったりするが、この世界じゃ哀れまれる立場だ。
理由は単純。獣人は、『亜人系魔物』によって穢された女性が産み落とす存在だからだ。
この子の頭や尻尾は犬系。おそらく人狼あたりが父親なんだろうな。
「人種差別する気はないが、なんでこいつを雇ったんだよ」
「うぅ……哀れだったので、シスターとして手を差し伸べるべきかと……」
「いい子ちゃんごっこはいい。真相を話せ」
「うぐっ!?」
淑女ぶってた顔が歪んだ。もうお前の仮面ボロボロだな。
「っ……はぁー。不正規な手段で成り上がった以上、今後も命を狙われることがあるかもしれないと思ったからですよ。それで獣人なら、馬鹿なぶん良くすればよく懐くので、懐刀にしようと思ったんです」
「ゲロったな~」
なるほどな。特にリリティナは、相対的には頭がいい。
獣人の中には会話すら出来ない者も多いからな。その点じゃこいつは掘り出し物だ。
「えぇぇぇ~~っ!? アタシ、お慈悲的なアレで助けてもらったんじゃないっすか~!?」
「違いますよ。わたくしは目が駄目になってる分、次の暗殺を防げるかわかりませんからね。たまたま程よく馬鹿で感覚に優れた肉壁を雇いたかっただけです」
「肉壁ッ!?!?」
おぉーおぉー、ゲロが止まらないな。
こりゃもう、展開は一つか。
「なのにアナタは…………テメェときたら余計なこと言いやがって……ッ! そもそもエリクサー強奪の件はテメェなんざに漏らす気はなかったのに……ッ!」
「そ、それはしょーがないじゃないっすかー! だってアルベド様、寝言で『ロダンのカス雇って、エリクサ~手に入れてやる~!』て言うもんだから」
「へえ、一緒に寝てあげてるんだな」
「うるせぇぞテメェらッ!!!」
あ、ついに切れた。
「あの時ぶっ殺しておけばよかったよチクショウッ! もうテメェもそこのジェイドもッ、俺の前から消えやがれぇーーーッ!」
口調と共に『殺人鬼』へと変ずるアルベド。
周囲に透明のナイフが展開され、俺たちへと切っ先を向けてきた。
まぁリリティナは見えてないようだが。涙目で困惑してばかりだ。
「あっ、あの、アルベド様っ!? あっアタシ、アナタのためにって!」
「うるせぇ犬ッ!」
鬼女の怒号が従者の涙声を掻き消す。
「トリステインの冒険者共を見て、俺は夢を取り戻したんだよッ! 『強くなりたい』! 強くなって強くなって、それこそ暗黒龍サマみてぇな誰にも媚びる必要のねェ存在になって、高らかに人生を全うしたいんだよ! そのために、金も技術も手に入る領主の立場になったのに……!」
カッと開かれる両目。濁りかけた瞳孔が、殺意を持ってリリティナを睨んだ。
「テメェのせいで滅茶苦茶だッ! そこのジェイドごとっ、死に腐れェエエエエエーーーーーーーッ!」
そして放たれる無数の刃。その風切り音に『本気で殺す気』だと気付いたリリティナが、「ごめん、なさぁっ……!」と最後に呟いた。
……さて。
「そのへんにしてやれ」
「!?」
0.02秒後。俺は全ての刃を砕き落とした。
「なッ……俺の、『無貌千刃』を……!?」
「おい」
俺は来客用のソファに座り、アルベドに促す。
「お前も座れよ」
「は?」
「座れ」
「ッ!?」
アルベドはやはり優秀らしい。ほんのわずかに掛けた圧。〝従わなければ面倒だから殺す〟と込めた意に気付き、汗を噴き出しながら対面に座った。
「落ち着いたみたいだな。それじゃ」
タメになるような話をしようぜ?
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