49:良妻ピンクバジ子ちゃん!
「んじゃ、お前の力を見ていくぞー」
「は、はいっ!」
ギルドで騒いだ後のこと。俺は石邪龍バジリスクことバジ子を引き連れ、開拓途中の『魔の森』にやってきた。
「じゃあまず、身体能力を教えてくれるかな?」
「あれ、陛下の口調がなんだか優しい……!」
「俺はいつでも優しいぞ」
たしか書類記入の時にはペンを折っちゃってたはずだ。それなり以上の力はありそうだが。
「え、えと、全盛期の何分の一もありません……! ほら、こんな風に」
木を「おりゃ~!」と叩くバジ子。すると凄まじい音を立てて拳がめり込んだ。
「あっ、ふーん」
うーーーん。これはコメントに困るな。
マジで十代前半くらいの女の子がこの膂力なら凄まじいが、バジ子の正体は邪龍種だ。それが人間態とはいえ木の一本も折れないとは。
まぁでも、だいたいちょっと強い冒険者くらいの身体能力はありそうだ。
「じゃあ次、『スキル』ってのは何個くらい?」
――この世界の人間には、魔物に対抗する術として、『女神ソフィア』とやらに特殊な力を与えられる。
それがスキル。だいたい生まれながらに一個から三個程度目覚める異能だ。でも、
「あっ、スキルってアレですよね。人間になった瞬間に目覚めたやつ」
そう。どうやら『女神ソフィア』とやらはガバガバな世界ルールを作ったらしく、魔物でも完全に肉体を人間にすれば目覚めちゃうんだよな、スキル。それでいいんかい。
ちなみにスキルは才能を可視化した力と推測されている。
ゆえに石邪龍には、相当危険なスキルの数々が宿っているように思えるが、
「えぇと、たしか十個くらいでしたね。内容は、まず≪美食調理≫に」
「ん?」
「≪主菜調理≫、≪菓子調理≫、≪汁物調理≫にぃ」
いや待て待て待て待て!?
「あと≪按摩技能≫に≪清掃技能≫に≪洗濯技能≫に≪奉仕精神≫に≪洗体技能≫に≪安産加護≫に」
「おいバジ子」
「はい」
「嫁に行け」
「はぃいいっ!?」
いやはぃいいじゃねえよ。お前なんだそのパーフェクトご奉仕セット。お前の石邪龍成分どこ行ったんだよ。
「せめて毒調合スキルとか持っておけよ」
「あっうっ、調合とかはよくわからなくて……! 石化の毒、そんなことしなくても出せますし」
そりゃぁな。
「まぁ今はすごい頑張っても一滴くらいしか出ませんけど……」
「ただの女の子じゃねーかもう」
保証するよ。お前はいいお嫁さんになれるよ。
「メイドになれとも思ったが、最後に≪安産≫してんじゃねえよ。子を為したらもう妻じゃねえか。自信を持って送り出せるぞオイ」
「いっ、イヤですよーーっ!? なるなら陛下のお嫁さんになりますっ!」
「いや俺はしばらく結婚する気ねーから……」
「いい奥さんになりますからぁ!」
「クソッ期待値100%の宣言はずるいぞ……!」
あのスキルの数々じゃ良妻確定じゃねえか。
「まぁお前を娶るかは置いといて……」
「と、取ってきますッ!」
「取ってくるな待て」
ともかくだ。例のスキル群だと、ちょっと冒険者は厳しいかもだなぁ。
「素の身体能力は高いとはいえ、戦闘用のスキルが一つもないのはなぁ……」
「あっ、ありますよ陛下! もう一個スキルあるんでした。わたし、≪荷重補正≫ってスキル持ってます」
「おぉ」
そりゃ良いスキルだ。
≪荷重補正≫。重い物を持って行動する際、疲労が減って軽快になる能力だな。
まぁ例のスキル群とセットにしたら、重い物も運べるパーフェクトメイド嫁にしかならないが。
「いいなそりゃ。冒険者としても有用だ。重い武器を使って振るえば、それだけで脅威になるぞ」
「はいっ。陛下に乗られてもいっぱい動けます!」
「いや乗らねえよ」
隙あらばママになろうとするな。
「うぅぅう……。でも、交尾しないと捨てられちゃうぅぅ……!」
「うーん野生動物の悲しい価値観」
人外に生まれるのも大変だなと思いつつ、涙目なバジ子の頭を撫でてやる。
「はぅっ、マウント行為っ!?」
ちげえよ嬉しそうにするなピンク。
「捨てたりしないから安心しろ。お前みたいなヤツ、嫌いじゃないからな」
「ふひゅっ!?」
情けないビビリでもいいじゃないか。誰かを傷付けるヤツより上等だよ。
前世で社畜だった時、色んな理不尽な人間に振り回されたせいかな。だからか、他者の権利を侵さずに日々を必死に生きるヤツってのが、たまらなく希少に見えて守りたくなる。
「で、でも足を引っ張るかもですよ? 戦えるスキル、一つしかないし……」
「いいさいいさどんどん引っ張れ。そのぶん足が長くなって、イイ男になれるかもだからな」
つーか暗黒龍舐めすぎだっつの。こちとらヒヨコ連れて火山行っても傷付けないくらいの力持ってるんだぞ?
お前なんて余裕だよ。
「ああ、そういえばヒヨコはどこに……」
「あっ、あの子ならこちらに」
と言って視線を下げるバジ子。
……その先の大きすぎる胸の谷間には、ヒヨコがすっぽり収まって心地よさそうにリラックスしていた。
『ピヨ~~♡』
「ってどこでくつろいでるんだお前は」
指でブニッと突いてやると、バジ子が「ふひゅっ!?」と声を上げた。
あっ衝撃伝わっちゃったかごめんね。
「ぁ、愛撫が始まりましたぁ~~~……!♡」
始めてねーよ良妻ピンク!
・ここまでありがとうございました!
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