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17:王都からの騎士と俺


 ある日の午後。



「――くっ、なぜ冒険者にしてくれない!?」



 ギルドに入った時だ。

 受付台より女性の叫びが響いてきた。



「なんだなんだ?」



 近寄ってみれば、金髪の女騎士が受付嬢のミスティカさんに食いかかっていた。



「私は元貴族付きの騎士だ。そこらの駆け出しよりよほど強いぞ! それなのになぜ!?」


「規則だからです。冒険者登録に前職は関係ありません。ただ……『五体満足』でない方は、お断りしているのです」



 ミスティカさんが騎士の右腕を見る。



「その腕」


「くっ……」



 ちゃんとついてはいる。


 が、肩から先は一切動かない。


 鎧籠手を付けているため下がどうなっているのかはわからないが、まるで棒になってしまったかのようにぶら下がったままの状態だった。



「そちら、動かないんですよね? であれば四肢欠損者と同じ扱いになります」


「……るさい……」


「アイリスさんとおっしゃいましたね? 冒険者の死は自己責任です。ですが当ギルドは決して死者を量産したいわけではありません。それゆえ、重篤な損傷をされている方は登録が」


「うるさいと言っているッ!」



 左腕で台を叩くアイリスという騎士。

 激しい音がギルドに響いた。



「……申し訳ありませんが、規則ですので」


「くそッ……!」



 ……なんか少し前にもメガネくんが似たような真似をしていたが、でも今回は違うよな。 

 遠巻きに見る冒険者仲間たちも視線が気遣わしげだ。

 やがて彼女を見かねたか、野次馬の中からポニテ侍のシロクサが歩み寄っていき、ビクビクと声をかけた。



「ア、アイリスと、言ったか……! ななっ、何があったか知らぬが、あまり、受付嬢にあたっ、あたるのは……!」


「なんだ貴様は!? ハッキリ喋れ気持ち悪いッ!」


「気持ち悪いッッッ!?」



 ……ガーンッと撃沈するシロクサ。


 う、うん。

 女の子と話すとガチガチになるような恥ずかしがり屋なのに、お前頑張ったよ。

 今度なんか奢ってやるからな?



「ハァ……騒がせたな。では私は失礼する」



 踵を返して騎士アイリスは去っていく。


 途中で俺とすれ違うが、彼女は視線を合わさない。


 ただ悔しげに唇を嚙み締め、ギルドの扉を乱雑に開けて出ていくのだった。



「――なんだ、あの姉ちゃんは?――」

「――なんか訳アリっぽいが、貴族がらみの面倒ごとならごめんだぜ……?――」

「――と、とりあえずシロクサさんドンマイッ!――」



 やがてあれこれ口にしだす冒険者たち。


 望んで関わろうとする者はいなかった。

 明らかに彼女からは『厄ネタ』の匂いがするからだ。



「――そういえば聖都からの商人が言ってたよ。なんか、女主人を斬りつけてクビになった騎士がいるとか――」



 ……ふと聞こえてきた一つの噂に、俺はなるほどと合点する。



「……イスカル卿もこう言っていたな……」



 聖都の馴染みの女貴族より伝書が送られてきたとか。



 曰く、『そちらに私を傷つけた騎士が向かうはずだ。片腕を不能にしたゆえ生活もままなるまい。ヤツに監視を付け、落ちぶれた瞬間に捕獲しろ』ってよ。



 ちと意味が分からん要求だった。

 別に捕まえるだけなら兵士を何十人も向かわせれば済むはずだが、なぜ落ちぶれた瞬間を狙うのか。

 それともそれほどその騎士が強いのか?



 まぁともかく貴族に歯向かうような凶暴なヤツだ。

 関わるのは避けよう……と思ってたんだが。



「女とは聞いてなかったよ。それにほっとけないよな、あの様子だと」



 彼女はたしかに気が強そうだが、それでも理由なく主人を斬るようには見えない。


 となれば手は一つだ。



「追うぞヒヨコくん」


『ピヨピヨピヨピヨピ~ヨピヨ!』


「なんて?」



 なんとか出来る範囲で力になってやるさ。



 人が落ちぶれるのを見過ごすほど、人間やめてないからな。



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