月世界と地球世界
一話 月のうさぎときどき笑顔
岩と砂でできた変化のない世界———月———
そこには月のうさぎと呼ばれる生命体が住んでいました
彼らは生きるために月の岩や砂を食べていました
何も味がしない食料でした
しかし、彼らは困ることはありませんでした
彼らは生きることが一番大事なことだったので味は必要がなかったのです
岩と砂という食糧があるだけで大変満足していました
来る日も来る日も青い星を見ながら岩と砂を食べました
彼らは飢えによって死ぬことがないのでみんな笑顔で生活していました
鬼ごっこやかくれんぼ、砂遊びや岩投げをして楽しく遊びました
遊んでいるときもみんな大変笑顔でした
ある日彼らが岩を投げて遊んでいると投げた岩が一人のうさぎに当たりました
岩が当たったうさぎはきゅうとこえをあげるとその場に倒れ込みました
岩を投げたうさぎたちはどうして急に寝てしまったのだろうと不思議に思い、寝ているうさぎに近づきました
こえをかけてみても返事がありません
うさぎたちは彼はきっと深いゆめを見ているんだと思いました
ゆめの世界が楽しくて、僕たちのこえが聞こえていないんだと思いました
そうして彼らはまた別の岩を投げて遊びました
みんながみんな笑顔で、彼らはとても楽しみました
ある日一人のうさぎが大騒ぎをしていました
うさぎたちはどうしたのとそのうさぎに尋ねました
うさぎは答えました
砂がなにかおかしいと
なにがおかしいのとうさぎたちは尋ねました
うさぎは答えました
口の中が変だと
うさぎたちは彼がなにを言っているのかわかりません
うさぎは言いました
この砂を食べてみてと
うさぎが差し出した手には砂がありましたがいつもと違います
あの星と同じ色だとうさぎたちは思いました
うさぎがいつも見る青い星と同じ色をしていたのです
うさぎたちはとても不思議に思いました
今まで食べていた砂はいつも同じで色がなかったからです
うさぎたちはなんだかうれしくなりました
手を向けても届くことがなかった青い星をその手に掴んだような気持になってみんな笑顔になりました
そしてうさぎたちの一人がその砂を食べました
するとそのうさぎも口が変だと言いました
うさぎたちは興味津々になってなにが変なのか尋ねました
うさぎは答えました
わからないと
うさぎたちはがっかりしました
彼らの好奇心はぶくぶくと膨らんでなにが変なのか気になってしかたありません
すると砂を持ってきたうさぎが言いました
この砂がどこにあるか知りたいかと
うさぎたちはみんな喜んで知りたいと言いました
そして砂を持ってきたうさぎは案内を始めました
うさぎたちが少し歩くと一人寝ているうさぎがいました
うさぎたちは声を掛けましたが返事がありません
彼らは寝ているうさぎはきっと愉快な夢を見ているのだろうと思い起さず先に進みました
長い時間歩いた後、砂を持ってきたうさぎはぽっかりと穴の開いた洞窟の前で止まりました
中は暗くてなにも見えません
砂を持ってきたうさぎはこの中だと言いました
うさぎたちは少し怖くなってしまいました
中になにがあるのか分からないからです
それでもうさぎたちはついていくことにしました
彼らの中で恐怖よりも好奇心が膨れ上がっていたのです
それからまた歩きました
なにも見えない洞窟を歩き続けました
次第にうさぎたちは怖くなくなっていきました
そしてそのかわりにわくわくした気持ちがうさぎたちの中で広がっていきました
砂を持ってきたうさぎが止まるように言いました
うさぎたちは止まって青い砂はどこにあるのかと尋ねました
砂を持ってきたうさぎは地面の砂を手で掬ってみてごらんと言いました
うさぎたちは言われたとおりに地面の砂を手で掬いました
砂を持ってきたうさぎはまた歩き出しました
しかし、今度は逆方向へつまり歩いてきた道を戻り始めたのです
うさぎたちは言いました
青い砂はどこにあるのかと
砂を持ってきたうさぎは答えません
どんどん帰っていきます
うさぎたちはこれはいつもの砂と変わらないと思いました
うさぎたちはがっかりして手のひらから砂をこぼしました
そして出口へと帰り始めました
洞窟から出るとうさぎたちは砂を持ってきたうさぎに文句を言いました
そして彼の手のひらを見るとそこには青い砂があったのです
うさぎたちは驚いて尋ねました
洞窟の中の砂はいつもの砂と違うのかと
彼はそうだと答えました
するとうさぎたちは一目散に洞窟の中へ入っていきました
彼らはもはや怖いと思うことはありませんでした
洞窟から帰ってきたうさぎたちは全員が手に青い砂を持っていました
そして全員でその青い砂を食べました
彼らはみんな変だと思いました
今まで感じたことのない刺激が口の中に広がり嬉しくなっていきました
月のうさぎたちはこの時初めて味を知ったのです
彼らはみんな言い表せない不思議な感情に囚われて満足して洞窟を後にしました
帰り道にまた寝ているうさぎを見つけました
しかし、前に見た寝ているうさぎとは少し違っていて頭がへこんでいます
うさぎたちは声を掛けましたが返事はありません
そしてうさぎたちは寝ているうさぎの頭がおかしな形になっていることに気づきました
彼らはなぜか怖くなっていました
洞窟に入る時と同じぞくぞくとしてべったりと纏わりつくような恐怖を感じました
一人が言いました
なんだが変だね
他の人が言いました
なんだか変な気持ちがするね
他の人が言いました
彼は寝ているのかな
うさぎたちは彼がどうなっているのか気になりだしました
こうなるともう止められません
うさぎたちは寝ているうさぎを調べ始めました
一人はこえをかけ、一人はへこんだ頭を触り、一人は体を叩き、一人は砂をかけ、一人は岩を上に置き、様々な方法で調べました
しかし何も変化はありません
すると一人のうさぎが先のとがった石を持ってきました
うさぎたちがそれはなにと尋ねると
何かないかと思っていると不思議とこの形の石ができたと答えました
うさぎたちはよく分かりませんでしたが、その石を寝ているうさぎに試してみてはと言いました
石を持ったうさぎは寝ているうさぎに石を置きました
何も起こりません
石を拾うと次はつつきました
石を持ったうさぎはなぜかこの石はこの使い方であっていると感じました
つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つつきました
すると寝ているうさぎの体に穴が開きなにかが流れ出ました
うさぎたちは驚きました
それはいつも見る青い星と同じ色をしていたのです
うさぎたちはすごくわくわくしました
初めに抱いた恐怖はもうすっかりどこかへ行ってしまいました
青い液体は寝ているうさぎの体を沿って地面に流れました
砂が青に染まり、うさぎたちはとっても驚いて目を丸くして、うれしい気持ちになりました
みんなが青く染まった砂を掬って食べました
みんなが笑顔になって、とても満たされた気持ちになりました
さっき食べた砂と同じ味がしたのです
彼らはみんな先のとがった石を作り出して寝ているうさぎをつつきました
つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つつきました
寝ているうさぎは体がつぶれて、ちぎれて、ぐちゃぐちゃになってしまいました
そして、辺り一面が青で染まりました
うさぎたちはすごくうれしくなってよろこびました
みんながみんな手で青い砂を掬って食べました
みんながみんな大変笑顔になりました
そして一人のうさぎがなにか言いました
うさぎたちははっきりと聞き取れなかったのでまた言ってくれないかと頼みました
すると
オ——イシ———イ
と言いました
それはなにとうさぎたちは尋ねました
うさぎは言いました
オイ———シイ
するとうさぎたちたちも
オイシ——イ
といいました
一人のうさぎとうさぎたちは交互にオイシイと言い始め、だんだんうれしくなってきてオイシイ、オイシイと一緒に言い始めました
これは彼らにとって初めて感情を言葉で表した瞬間でした
初めてみんなが同じ気持ちであるとわかった瞬間でもありました
そしてうさぎたちはみんな笑顔でオイシイ、オイシイと言いながら青い砂を掬って食べてしまいました