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ショートショート集

思考実験

作者: 菅原やくも

 目が覚めると知らない部屋にいた。半円状で、局面の壁と天井はまっさらな白色。床は何というか赤茶けたようなまだらな色をしていて、なんだか汚れているような感じもした。その質感はとてもザラザラしていて、まるで粗い仕上げの、玄武岩みたいな石のようだった。それから灰色で平面になっている壁。その真ん中あたりに円柱の白い柱のようなデザインがあった。

 平らな壁も床と同じようなザラザラとした質感になっていた。それから、平面の壁はよく見ると、床との間に少し隙間があった。腕か足が入りそうなくらいで、そっとかがんで覗いてみたが真っ暗で何も見えなかった。

 そしてもう一度部屋を見渡した。出入口と思しきものが見当たらなった。そんなバカなことがあるものか? 閉じ込められたとしても、入り口がないのに自分はどうやって入ったというのか? いや、局面になっている壁をよく見るとうっすらと縦方向に筋が二本あるのが見えた。間隔は2メートルくらいだろうか。たぶん、ここが


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 突然、何か重い物を引きずるような低い音が部屋に響いた。

 振り返ると平面の壁が動いていた。柱をはさんで、片方は手前にもう一方は奥の方へ。いや、違った。

 回転している。

 そうか、この部屋は半円ではなくて、円形をしているのだと直感した。僕は壁の移動とともにゆっくりと歩いて移動した。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 これは壁ではなくて半円柱状の大きな塊だろうか? 人が歩くよりも遅いスピードで、ちょうど半周したところで壁は止まった。

 完全に閉じ込められたか……。壁が動く気配がみられないので、また部屋の観察をはじめた。

 壁を間近で見ていると、何やらあちらこちらに傷がいっぱいついているようだった。そして、文字と思しきものが書いてあるのに気が付いた。



“壁は回り続ける”



 ちぇっ。

 そのとおりかもしれないな。ただ、今は止まったぞ。

 それから、さらにあちこち見ると、何やら不穏な言葉がたくさん刻まれていた。



“出られない”

“たすけて”

“死にたくない”

“いつか巻き込まれる”

“ここから出たい”

“歩き続けろ!”



 どうやら被害者みたいな人が、たくさんいるみたいだな。それから眼の高さにちょうど小さな金属プレートが貼られているのを見つけた。プレートはちょうど親指くらいのサイズで、


〈貴方の質量は失われない〉


と書かれていた。

 それから一つの情景が思い浮かんできて、思わず吐き気をもよおした。壁がいつまでも回り続けるとしたら? 眠らずに歩き続けることはできない。それに床はザラザラしているし、動く壁と床には少し隙間がある。もしそこに、


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 また壁が動き始めた。

 きっと、こいつはデカい石臼だ! そうだ、生きたまま人間をすり潰す気だ! 生き延びるには壁の動きに合わせて歩き続けるしかない。

 最初は半回転、その次は逆方向に一回転、今度はまた逆で一回半、もうその時点でだいたい想像がついた。左右交互に徐々に動く時間が長くなるのだろうと。けっ、どのみち動き続けるのだろう。


 どうして、こんなところに来ることになったのだろう? 歩きながら思い出そうとした。

 昨夜はいつもどおりに仕事を終えて、同僚たち何人かが「飲みに行こうぜ」と、誘ってくれたのだが、なんだか乗り気じゃなかったから断った。それで家に帰って……いや、いつものようにバスに乗って、いつものバス停で降りて……。ああ、そこまでしか覚えていない。家までたどり着いた記憶がない。それで目が覚めてみればここだ。いったい……クソ、帰り道で俺は誘拐でもされたのか? こんなことなら、同僚と飲みに行っていればよかったといのか。

 再び、壁は動きを止めた。

「クソ……」

 壁の隅々を観察してみたが、外へ出られるような気配はなかった。


 いったい目的はなんだ? なんかこういう、拷問じみたことする、スプラッター映画を見たことがある。なにも悪事をした覚えはないぞ。

 死の恐怖も確かにあるが、それよりもあの隙間に挟まれて、潰されるところ想像する方がよっぽど怖い。ドアに手を挟んだとか、そんなレベルの痛みでないことは明らかだ。




 試行回数は無限……?

 どれほど歩き続けていたか、分からなった。喉が渇いた。腹が減った。でも歩き続けるしかない。




 ダメだ……僕の負けだな、もう無理だ。

 立ち止まった彼に壁がぶつかった。


「っーーーー!!!!」


 彼は声にもならない叫び声を上げた。

 そして、まるで吸い込まれていくかのようだった。壁、もとい大きな石臼は、彼を容赦なくすり潰した。しばらく回転していたが、その動きは止まった。あとには赤黒い色をした大きなシミと、細かくちぎれた衣類の繊維が散らばっていた。

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