元二等兵、異世界初の挨拶
エロフ!!!
「私の名前はルフ・クレイマー、職業は魔術師と錬金術師の中間の錬魔師、さっきは助けてくれてありがと」
彼女は美人だった、木々の若葉のような緑髪、対照的な紫の瞳、病的までに白い肌………と思いきや適度に焼けている肌が健康的で非常に眩しい、特徴的な長い耳、ファンタジーの醍醐味のエルフだ
「…………」
俺は彼女の姿に見惚れてしまう、他の奴が言ったら愛想悪いと感じる淡々とした物言いは彼女が言うと冷たいが氷の美しさを彷彿とさせ、世の中やっぱ顔だなぁ〜と感じていた。
「ねぇ?聞いてる?」
「え?、ああ、こ、困ったときはお互い様さ!!」
刻夜はいきなり近づいてきたエマから逃げるように離れて赤面しながら当たり障りのない返答をする。
「…………」
その後不思議そうに見つめてくるエマの視線に刻夜は耐えきれず疑問を問いかける
「か、顔に何かついてる?」
「………貴方の名前は?」
「あ、ああ〜俺の名前は針ヶ谷刻夜、名前の刻夜を呼び捨てでいいぜ」
一瞬俺に一目惚れしたのかと思っちゃったわ、危ない危ない。
「うん、よろしくトキヤ、私もエマでいいよ」
花のような笑顔、癒されますわ
「あ、そういや俺地球人だけど、わかってる?」
地球人だってバレた瞬間に家族の仇とか腹刺されたら堪らんないし、一応確認をとる。
「大丈夫、地球人だからって目の敵にするほどわたしも暇じゃない」
「あ、そ、そうですか」
「それより早くここを離れないと面倒なことになる」
男の死体をチラ見しながら呟く、確かにこんな所見られたら善悪に関係なく厄介事に巻き込まれそうだ。
「あー、テントだけ回収させてくれ」
「このテント貴方のだったんだ………うんいいよ、っていうか私も手伝うよ」
「サンキュー」
テキパキ片付けていくルフ、むしろ俺の方が手伝ってるって感じになってしまっている、まぁもともと簡単なテントだったので二人でやったらすぐ片付け終わった。
「とりあえずお礼がしたいから、家まで来てくれる?」
「え?いいの?、じゃあお言葉に甘えちゃおっかなぁ〜」
十数分歩いた程度で着いた、玄関をくぐると水晶や金色の蛙などの装飾品が陳列されていて魔道具店というやつだろうか?
「ここって魔道具店……なの?」
「そうだよ〜」
「もしかするとここの魔道具、全部ルフが作ったのか?」
「………なんでそう思うの?」
「さっき魔術師と錬金術師の中間、錬魔師って言ってたからな、魔道具を作れんじゃないかと思うだろ普通」
「察しがいい子は好きだよ」
奥は居住空間があり俺はリビングに通され彼女は木の椅子を急いで用意しておりもともと彼女一人分しか用意されてないことが容易に看破できる………………彼氏と同棲してたら泣いて出ていくところでしたわ。
「紅茶入れてるから待ってて」
「はーい」
待つこと数分でキッチンから紅茶を運んできて自分と俺の前に置かれ、沸き立つ湯気を目で追いかけていたら不意に壁に立てかけてある機械的な杖が視界に入る。
さっき男に魔法を放つ時に引き金を引いていたり蒸気を排出していたりと厨二心をくすぐる彼女の杖だ、デザイン的にはメカニカルな感じで滅茶苦茶カッコいいので凝視してしまう、俺の視線をどう思ったのか彼女がバツの悪そうな顔をする。
「散らかっててごめーー」
「その杖ってもしかしてルフが作ったの?かっこいいな」
あまりの興奮にルフの言葉に割り込ませてしまう。
「………………」
俺の言葉に一気にフリーズするルフ、いきなり固まった後に立ち上がり力強く肩を掴まれる。
「え?お、俺何か気を悪くすることーー」
「杖に見える!?!杖に見えるんだよね?!!?!」
「へ???」
「ねぇ杖に見えるんでしょ?!?!?今そう言ったよね!!!ねぇ!!!」
「ちょっと落ち着いてグボロォーー?!?!」
「み・え・る・ん・で・しょ?!?!」
ルフは俺の肩を激しく揺らしてくるため奇怪な悲鳴しか上げられない、冷静な性格と思ってた彼女は落ち着きなく何度も確認をとってくる、俺のあかべこ状態は十数分続いた。
「…………取り乱してごめんない」
「ひ、ひにしなくていいよ」
頭を振られすぎた俺は呂律が回っていない返事をするその言葉に対してますます落ち込む彼女、それに比例して耳も垂れ下がっている可愛い。
お互い黙り込み静寂が場を支配する。
「あーー、よく杖だってわかったね」
「俺の世界の漫画っーーじゃあわからないか、童話や伝記によく出てくるんだよ」
明らかな話題逸らしだが俺は全力で乗る、ぶっちゃけそこまで気にしてないし気まずい空気より百倍マシ。
「いやぁ〜ほんとかっこいいなその杖」
「え、そ、そそそうかなぁ〜」
「普通の杖と何が違うんだ?」
「普通の杖は基本的に威力を上げるだけ……収束式魔砲『レコレクター』エルフの秘術によって契約精霊が込めてある魔核は空気中の魔力を集め、魔核に魔力がある間は精霊に詠唱を手伝わせて詠唱時間を短縮、また精霊に詠唱完了させて待機状態なら即魔法が使えるわ、更に魔核に魔力を貯めておいて術者の魔力が枯渇してても魔術を使えるの!、理論上魔脈が無い人でも可能よ」
調子に乗ってる人は饒舌になりやすいというが彼女はわかりやすくそういうタイプみたいだな………少し不可解な単語が聞こえたので質問してみる
「魔脈?」
「魔脈は魔力の通り道みたいなところよ、この世界の人間なら全身に通っているけど個人差があって太い人ほど魔力が充実してて魔術師に向いてるとされてるわ」
「なるほど〜」
「そして基本的に低位の精霊ですら普通の素材じゃ壊れちゃうけど、門外不出ドワーフの錬金術によって作った魔力を通しやすくかつ頑丈な魔鉄を使用、これによって高位の精霊ですら組み込むことが可能になった!!!」
「うん?なんで君が門外不出のドワーフ製錬技術なんて使えんの?」
「私はドワーフとエルフのハーフ、ドルフなの」
「へぇ〜ドワーフとエルフって仲悪いと勘違いしてた、仲良いんだな」
「種族同士の仲は悪いよ」
「え、そうなの?」
「うん、どっちかっていうと私の親が特殊」
「なるほど、許されざる恋ってわけか〜」
いつの間にかお互い気楽に会話できている、俺は彼女の調子に乗ってる可愛いところをもっと拝むため煽てる。
「動いてるところ見たいなぁ〜」
「えへへへへへ、じ、じゃあちょっとだけ」
「お、やったぁ〜」
煽ててルフを木に登らせる、どうやらもうさっきの醜態は気にしてないようだ…………うん?
『原初の風よ、強者と弱者、真理の連鎖、獣の顎門、獲物の血肉を蹂躙し噛み砕き裂き千切れ!!!!暴風顎門!!!』
ルフは詠唱を終えると杖の先端を壁に向けトリガーを引く
「あ、ちょ、外でやった方がーー」
俺の制止の声は彼女には届かず、響く暴風の爆音に呑まれて消えていく。
壁に無数の切り込みがはいったと思ったら数秒後に雑なサイコロカットされたブロック達は重低音を響かせて地面に落ちる………………壁は完全に開通しており良い風通しだ
俺は無言でルフを見ていると青ざめた顔でこちらに振り向いてくる彼女。
「………や、やっちゃった………」
彼女の呟きは明瞭に響いた。
いや〜可愛い〜