穴の底は猿でいっぱい
魔物が潜んでいた部屋を出ていくつかの部屋を抜けると、その先はふたたび通路になっていた。
ここまでの間に虫型の魔物をさらに数体倒している。
小さな魔物は物陰から襲ってくるので、雑然とした部屋の中より通路の方が安全そうだ。
魔力の明かりを手で前に送りながら先に進む。
時折、通路の隅に何かの廃材なのか、木の板や柱のような物が放置されている。
そういうちょっとした物陰も警戒しながらしばらく歩いて行くと、また大きな扉に行き着いた。
「キュッ」
肩の上でイナリが注意の鳴き声を上げる。
落ち着いて感覚を研ぎ澄ませると、たしかにうっすらと魔物の気配を感じた。
わたしは短剣を構えたまま、左手で扉を開けた。
距離を取り、部屋の中をうかがう。
おもったより大きな部屋だ。
しかもどこかで明かりが灯っている。
そして、複数の魔物の気配。
「あれっ」
部屋の中から聞いたことのある声が響いてきた。
「もしかして、アカツキさん?」
「クルッ」
扉の向こう、部屋の中央あたりでアカツキさんが長剣を両手で構えていた。
「おまえ! こっちにくるなら気をつけろよ!」
「えっと、一体何がどうしたんですか!?」
わたしは部屋の入り口まで進む。
思ったよりも大きな部屋で、ちょっとした広間といってもいいくらいのサイズだ。
「下だよ、下!」
アカツキに言われるままに下を見ると、部屋に大きな穴が開いていた。
穴は部屋のほとんどの面積を占めていて、深さは三メートルくらいか。
こちら側の入り口と奥側に出口付近は普通の高さの床で、向こう側に行こうと思ったら穴を越えなくてはいけない。
アカツキがいる場所はほぼ中央にある離れ小島みたいな場所で、どちらの入り口側からも簡単には飛び移れない距離だ。
しかも、穴の底からは沢山の魔物の気配がする。
「つっ、この!」
アカツキが短い悪態を吐きながら剣を揮うと、下から飛び出してきた何かが穴の中に叩き落とされた。
キュシャッという甲高い叫び声。
わたしは明かりを押し出して穴の底を見た。
「あれは、猿?」
穴の底いっぱいに、たくさんの小柄な猿がうぞうぞとひしめいていた。
頭の上に不気味な光の輪が見えるから、みんな魔物らしい。
アカツキが立っている離れ小島の根元にいる猿は興奮してジャンプを繰り返し、時折仲間の頭を蹴飛ばして一段高くあがり、上まで届きそうになったところでアカツキに叩き落とされていた。
一方、それ以外のちょっと離れたところにいる猿たちは、いかにも関心なさげに仲間の背中を毛繕いしたり、地面に落ちているなにかを指で拾い上げ口元に持っていったりしている。
魔物の割にはいまいちやる気はなさそうに見えた。
「それで、アカツキさんはどうしてそんなところにいるんですか!」
わたしが部屋の中央の小島まで届くように声を張り上げると、また一体、猿を叩き落としたアカツキが露骨に嫌そうに眉をひそめた。
「あー……」
アカツキがなにかごにょごにょと言っている。
「良く聞こえません!」
「くそっ! 落ちたって言ったんだよ!」
やけくそみたいな口調で叫んで、また一体穴の底に猿を叩き落とす。
「落ちてこいつら踏みつけたら、まとめて飛びかかってきたから、逃げたついでに踏み台にしてここまで登った!」
それはなかなかの運動神経なのでは。
でも、これじゃ外に出られない。
「それで、どうするつもりなんですか!」
「倒すしかないだろ!」
まあ、確かにそうか。
不用意に降りるわけにもいかない。
「お手伝いしましょうか!」
「助かる! これじゃきりがないって思ってた!」
見た感じ猿は減ってるようには見えない。
叩き落とされた猿も、悲鳴を上げて群れの中に潜り込んでしまうだけで、倒すところまではいってないみたいだった。
「うーん、じゃあどうしようか」
アカツキだったら何か魔法で攻撃できそうだけど、その隙が見つからないのかもしれない。
わたしは広範囲を攻撃できるような、ファンタジーな感じの攻撃手段は持ってないし。
これはちょっと、解決方法を考えなくちゃいけないみたいだ。




