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なにか魔法みたいなものと扉の正体

 アカツキを先頭に、ロクサイとミカヅキが入り口の段差を降りてこちらにやってきた。

 入ってきた側を除く壁三面にはついさっきまでは階段に繋がる入り口が開いていたけど、今はそれぞれが装飾を施された扉に置き換わっている。


「さっきまでこんなのなかったよな」


 左手前の扉に近づきながらアカツキが言う。


「ちょっと! 不用意に触らないでよ!」


 ミカヅキは扉から距離を取って部屋の真ん中あたりで立ち止まっていた。

 罠を警戒しているのかもしれない。


「扉から魔力の気配は感じませんけど」

「仕掛けの類いかもしれないじゃない」


 アカツキが鞘ごと長剣を抜いて、ドスドスと扉を叩く。

 特に反応はなかった。


「とりあえず開けてみるか」

「なんであんたはそんなに雑なの! いや、その前に」


 ミカヅキが何かを思い出したようにこちらに顔を向けた。


「あんた、さっきのはなんなの!」

「さっきのと言いますと?」

「なにかわからなかったけど、部屋の中で魔力がはじけたじゃない!」


 ああ、そのことか。

 どこまで説明したものやらだ。


「この扉を隠蔽する魔法が掛かっていたみたいですね」

「どんな魔法で破ったの?」

「説明しづらいのですが……」


 そもそも魔法と言っていいのかどうかもあやしい。

 場に掛かった魔法を魔力を使ってほどいただけだ。

 わたしの実力ではまだ力尽くで壊したのとほとんど変わらない。


「今はどうでもいいんじゃないか。そんなこと」


 扉を色々な角度から眺めながら、あっさりとアカツキが言った。


「こんなことが出来る子が魔法の初歩を学びに来るなんて不自然でしょ」

「その、なんというか。わたしのは魔法とはちょっと違うんです。単に魔力をちょっと操作できるだけで」

「はあ?」


 ミカヅキはいかにも胡散臭いものを見るように眉をしかめた。


「そんなこと出来るわけないでしょ。精霊じゃあるまいし」

「えっとですね。それは師匠が精霊なので」


 わたしがそういうと、部屋の中が妙に緊張した空気になった。

 しばらく無言の時間が続いたあとで、ミカヅキがおそるおそるって感じで声を出した。


「精霊から魔法を教わったってこと? そんな話聞いたこともない」

「いや、精霊の魔法を人間が使うことからして無理だろ」

「師匠にも同じこと言われました。だからわたしが使ってるのは精霊の魔法じゃないんです。たぶんそもそも魔法ですらないと思います」

「よくわかんねえけど、そんなこと可能なのか?」

「ありえない」


 ミカヅキがちいさく首を振った。


「そうだよな。めちゃくちゃな話しすぎて良くわからないぞ。そもそも精霊が人間の師匠になるとか、それがおかしいだろ」

「にわかには信じがたい話だけど、もしかしたら、先生はだからあんたをここの生徒にしたのかもね」


 ミカヅキがそう言ってわたしの方を見た。

 胡散臭いものを見る感じじゃなくて、ちょっと心配そうな表情だった。

 もしかしたら、精霊に捕らわれた人間をたそがれの魔女が救い出したみたいなイメージを持ったのかもしれない。

 当然誤解なんだけど、上手く説明できそうもないのでわたしは話を変えることにした。 


「そんなことより、あの扉はどうするんですか?」

「扉? ああ、なんかうっかり忘れてたな」


 アカツキがのほほんとそんなことを言う。


「罠がないか調べてから開けてみましょう。今まで階段に繋がってた場所だけど、変化があったって事はもしかしたら別の場所に繋がってるのかも」


 わたしたちはとりあえずアカツキが叩いた扉を調べることにした。

 ミカヅキがなにやら魔法を使ったりしたようだったけど、わたしにはそれが何なのかは良くわからない。

 ただ、扉自体には危険はなさそうだという結論になった。


「それじゃあ開けるからな。ちょっと下がっててくれ」


 そう言って、アカツキが扉に手を掛ける。

 ミカヅキを一番後ろに置いて、わたしとロクサイが扉から数歩離れた位置に陣取った。


「よし、いくぞ!」


 アカツキが扉を勢いよく引く。

 その瞬間、わたしは自分たちが間違っていたことに気付いた。

 壁に現れた扉は、実は扉じゃなかった。


「なんだこれ……」


 アカツキが拍子抜けしたような声を出した。

 開かれた扉のようなものの向こうには、扉と同じサイズの大きな羊皮紙みたいなものがみっちりとはめ込まれていた。

 それも一枚だけじゃなくて、何枚も重なった状態で。


「もしかして、これって本、ですか?」


 紙の表面には黒いインクで何かが書き記されている。

 どうやら扉と思った物は巨大な書籍の表紙で、それが壁に据え付けられているようだった。

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