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炎の魔剣とのたたかい

 目の前の女の子は剣を肩の位置に構えたまま、ピクリとも動かない。

 わたしは目を凝らす。

 彼女の頭の上には光の輪があって、ゆっくりと回転している。

 さっきの女の子と同じで、それほど大きくはない。

 妹のリンドウよりも魔力は弱いだろう。

 そして、手に持っている剣からは炎のような魔力が立ち昇っていた。

 さっき背の高い女の子が魔剣がどうとか言ってたから、あれも魔剣ってやつなんだろう。


「どうしたの? そろそろ来たら?」


 軽く挑発してみたけど、特に反応はなかった。

 いや、よく見ると女の子の口元が微かに動いている。

 もしかしたら、小声で何か言ってるのかも。


「キュッ」


 首の周りでマフラーみたいに丸くなったイナリが警戒の鳴き声を上げた。


「もしかして呪文?」


 そういえば、さっきのミカヅキって女の子も魔法を使う前に何かをブツブツと唱えていた。

 ここの魔法使いの弟子達は呪文で魔法を使うのかもしれない。

 だったら、どんな風に来るんだろうか。


「おらぁっ!」


 女の子が一歩踏み込んで、勢いよく剣を振り下ろす。

 かなり長い剣だけど、今はまだ間合いの外のはず。

 でも、その剣が一瞬で伸びる。


「うわ!」


 反射的に右手の剣で斬り上げて受ける体勢を取った。

 白い魔力の光が魔剣の炎を打ち消す。

 衝撃を受けて、素速く後ろに下がった。


「ん? 剣が伸びたんじゃないの?」


 あらためて女の子の方を見ると、剣を振り下ろした状態でこちらを見ている。

 軽く目を見開いて、驚いている顔だ。


「魔剣の力を打ち消した!?」


 ああ、そうか。

 たぶん今のは魔剣がまとう魔力の炎だけが伸びたんだ。

 普通の剣だったら止められない攻撃だったんだろうけど、こちらも魔力をまとった剣だったから、打ち払うことが出来たんだろう。


「これはちょっと厄介かも」


 つまり、相手の間合いは相当広いってことだ。

 どこまで伸びるのかはわからないけど、見た目と間合いがちがうのはちょっとやりづらい。


「まあいいや! どんどんいくよ!」


 そう言って、女の子は一歩踏み込みながら剣を斬り上げてくる。

 魔剣の動きに合わせて炎も伸びる。


「はっ!」


 こちらもタイミングを合わせて炎を切り払う。

 剣の実体は届かないから、普通だったら剣を受けるのが難しい体勢でも問題ない。

 飛んでくる球を打ち落とすようなイメージで炎を切り捨てる。


「ははっ! なかなかやるな! じゃあもう一回!」


 女の子はふたたび魔剣を振り下ろし、今度はさらに斬り上げてきた。


「よっ! はっ!」


 わたしは魔力の炎を二回切り払う。

 このまま後ろにだけ下がると木か何かにぶつかるかもしれないから、横に回り込むような位置取りをして動く。


「なんだよ! まだ魔力が続くのか!」


 ちょっと驚かれたみたいだけど、正直こちらの魔力には全く問題はない。

 一方、女の子の光の輪は回転がほとんど止まりかけていた。

 どうやら継続して魔力を廻すのが難しいらしい。

 わたしもコナユキも魔力を廻すことに問題があったことなんて一度もなかったから、ちょっと意外な感じだ。


「じゃあ、そろそろこちらから行こうかな」


 相手の魔法はだいたいわかったし、これ以上新しい魔法が見られないんだったら、とっとと終わらせてしまいたい。

 そもそも、ミカヅキの分身魔法よりもこっちの魔法は単純だったし。


「来いっ!」


 女の子が叫ぶのと同時に、わたしは素速く踏み込む。

 魔力で身体能力が強化されているから、普段よりもかなり速く動けた。

 一気に間合いに入り、右手の剣で突きを繰り出す。


「くっ!」


 とっさに魔剣を引きつけて、女の子はわたしの突きを防いだ。

 魔力と魔力がぶつかって、一瞬炎の勢いが弱まる。


「はっ!」


 そこを狙ってさらにもう一撃。

 でも、今回は力に任せて魔剣を振り回わされて、わたしは素速く一歩下がった。


「結構強いかも?」


 どうも剣術の心得はちゃんとあるらしい。

 だったらどうにかして隙を作るか。

 ちょっと考えてみる。

 そうだ。

 ひとつ試してみたいことを思いついた。


「こんな感じかな?」


 わたしは頭の上の光の輪の回転速度を上げる。

 抑えた魔力が揺るがないように、丁寧に静かに魔力を廻す。

 剣が纏っている白い光が少し強くなる。


「ハッ!」


 間合いから一歩離れた状態で、右手の剣を振り下ろす。

 それに合わせて、白い光が真っ直ぐに伸びた。


「何っ!?」


 女の子が驚いた顔で魔剣を頭上にかざす。

 魔力の白い光が、魔剣の炎に打ち消された。


「お前、今何をした!?」

「何って、同じ事をしただけなんだけど」


 単純な魔力の操作だから、これくらいは出来る気がしたんだよね。


「すごいです! 今、呪文も使わずに魔法を使ってました!」


 遠くで背の高い女の子が騒いでいる。

 たしかに、その部分には違いがあったか。


「それじゃ、こういうのは?」


 もう一度、魔力を込めて今度は剣を横薙ぎに払う。

 再び、魔力の光が伸びる。

 女の子が魔剣を右側に構え、防御の姿勢を取った。


「ふっ!」


 そこで素速く逆側に斬り返す。

 ぶつかる前に魔力の光を引き寄せて、逆側から打ち付けた。

 白い光を鞭みたいにしならせて、女の子の魔剣に巻き付ける。


「うわっ!」


 そのまま魔剣を捻り上げて、女の子の手からもぎ取った。

 剣は私の足下に転がってきて、魔剣から吹き上げる魔力の炎が消える。


「これで試合終了でいいでしょ?」


 剣の先を女の子に突きつけながらそういうと、彼女は目を見開きながらコクコクと小刻みに頷いた。

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