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魔女の教え子たちと新たなるやっかいごと

 屋敷の周りは鉄製の柵で囲まれている。

 細長い鉄の棒が縦に何本も並んでいてその先は槍のように鋭く尖っている。

 扉の部分は柵と同じ黒い鉄で出来た薔薇の装飾で覆われていた。

 わたしたちが近づくと、どんな魔法なのか、扉がひとりでに開いた。

 女の子と使い魔の鹿が先に門に入り、その後をわたしとイナリが続く。

 ここまで送ってくれた白狼には、お礼の干し肉をあげてから帰ってもらうことにした。

 門の先からは馬車一台分くらいの幅の石畳が続いていて、左右にうねるように木々の間を抜けていく。

 柵の内側も森と変わらないくらいに木々が茂っていて、その隙間から大きな屋敷が覗いていた。

 細長い塔が印象的な石造りの建物だ。


「あの、あなたのお名前を教えてもらえませんか?」


 わたしは前を歩く女の子に声を掛ける。

 彼女は立ち止まってこちらを振り向くと、ちょっと眉根を寄せて迷う様子を見せた。


「ミカヅキ、だよ」


 少し間があってから、そうぽつりと名乗った。

 口調がさっきよりも子供っぽくなっている。

 もしかしたら、さっきまでは偉い魔女のふりをしていたから、居丈高な言葉遣いになっていたのかもしれない。


「わたしはカナエです。こっちはイナリ」

「クルッ」


 肩の上でイナリが挨拶するみたいに鳴く。


「ムイッ」


 ミカヅキという女の子の使い魔らしい鹿が大きく頭を下げて鳴いた。

 一歩近づいて角の間の辺りを軽く撫でてみると、特に嫌がる様子でもなく目を瞑って身を任せてくれている。


「ちょっと、勝手にロクサイに触らないでよ」


 そう言ってミカヅキがロクサイという鹿の首に腕を掛けて引っ張った。


「あ、ごめんなさい。撫でて欲しそうに見えたから」

「フシュ」


 ロクサイは別にいいよって感じで鼻を鳴らした。

 ミカヅキは乱暴にロクサイの頭をわしわしと撫でると、ふたたび屋敷に向かって歩き始める。


「えっと、ここに住んでる魔法使いの人ってどんな感じの人なんでしょう?」

「はあ? 信じらんないっ!」


 ミカヅキは呆れ果てたって感じの声を上げる。


「あんた、まさか何も知らずにここまで来たの!?」

「わたしの師匠から魔法を習いに行けって言われて来ただけだから……」

「それにしたって、前もって訊いておくものでしょ? まあ、いいや。あのね、わたしたちの師であるたそがれの魔女は、この国一番の魔法使いなの。昔は王家に仕えてたらしいけど、今は俗世を捨て人里を離れて真理の探究だけを考えて暮らしているってわけ」


 そう言うミカヅキはなんだかちょっと得意げだった。

 師匠のたそがれの魔女を本当に敬愛しているんだろう。


「お弟子さんは沢山居るんですか?」

「今は三人だけだよ。昔はもっと沢山いた時もあったらしいけどね。その頃の名残で、ここは魔女の学び舎って呼ばれることもあるんだよ」

「学び舎、か」


 だから猫の王様はわたしをここに送ったんだろうか。


「やっと来たな!」


 わたしたちが話しながら歩いていると、道の先から大きな声が聞こえてきた。

 ちょうど木々の間を抜けた辺りに、女の子が二人待ち構えていた。


「なに、あんたたち。迎えに出されたのはわたしだけなんだけど」


 ミカヅキがちょっと口を尖らせて言うと、声を掛けてきた女の子が大きな声で笑った。


「なにが出迎えだよ! 勝手に勝負するとか、面白そうなことしてたくせに!」

「面白そうじゃないよ。たいへんだよ」


 背が低いけどがっしりした体型の女の子が楽しそうに叫んで、その横で、背がひょろっと高く線の細い女の子が慌てたような顔をして小さな声で二人を窘めるようなことを言っていた。


「いや、面白いだろ! だからさ、オレとも勝負してよ!」


 背の低い方の女の子が、またしても面倒くさそうなことを言い放った。

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