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神様のメダルをめぐる解釈について

「それで、だ」


 猫の王様はすっと頭を上げて姿勢を正すと、わたしの方を覗き込むように見た。


「その方はこれからのことはどう考えているのか」

「えっと……これから、ですか?」


 突然王様がシリアス度を増したので、ちょっと驚いてしまった。


「メダルの事だ」

「そうですね……」


 とりあえず、今回の試験運用でおおよその能力はなんとなくわかってきた。

 でも、まだ完全に把握したとは言いがたい。


「神様のメダルには確かに願い事をかなえる力があることはわかりました。しかも、複雑なお願いをしたら、それを全部叶えちゃったんで、そうとう高い能力があるみたいです。逆にいえば、能力の限界を見定めることは出来ませんでした。何が出来ないのかはわからなかったんです」

「もともと現実では起こり得ぬ願いは叶えられない、ということはわかっていただろう」

「まあそうなんですよね。今回もそのラインは越えていないように見えます」


 猫の王様は何かを凝視するように、ちょっと眼を細めた。


「何かおかしなところがあったのか?」

「そうじゃないんです。でも同時に、おかしなところがなさすぎる、とも思うんです」

「どういうことだ?」


 これはコナユキの里で宝玉を見つけたあの日から、ずっと考えていたことだった。


「あまりにも都合が良すぎる、と思ったんです。わたしは神様のメダルには未来を変える力があるって思ってました。でも今回は未来自体はそれほど変わって無いんです。それでもあれだけ複雑な願いが叶ってしまいました」

「そこが納得できない、ということか?」


 わたしはこっくりと頷いた。


「その通りです。むしろ願いを叶えるのにちょうど良い、いってみれば、あつらえたように完璧な真実が隠されてるって状態だったんです」


 その違和感がわたしの頭の隅にずっとこびりついていた。

 猫の王様は目を瞑って集中して考えている風だった。


「つまり、あのメダルには過去の出来事自体を書き換える力があると?」


 王様の言うとおり、それがわたしが思いついた仮説だった。


「もしかしたら、本来は全く別の理由で宝玉は姿を消していたのかもしれません。たとえば何か強力な魔法を使って盗まれたとか、可能性はいくらでも考えられます。でも、わたしが神様のメダルにお願いすることによって、その過去は書き換えられた。願いを叶えるのに都合の良い過去に置き換わってしまった。そういうことなんじゃないかなって」

「ふうむ……」


 猫の王様がため息みたいな声を出した。


「運命を書き換えるだけではなく、過去まで書き換えるなど、果たして本当に可能なのか……」

「これはあくまでひとつの仮説です。でも、細かく条件を設定して、願を叶えにくくすればするほど、神様のメダルはこの世界の有り様に大きく影響を与えてしまうんじゃないかって。今回の事件で、わたしはそう感じたんです」


 これは本当に神様でもなければ出来ないようなすごい力だ。

 普通に考えれば、ちょっと信じがたい話だろう。

 でも、わたしには、というか、前の世界のわたしには神様に会ったって記憶がある。

 メダルを見たのも、神様に会ったときなんだから、まったくあり得ない話でもないとも思うのだ。


「ならばカナエ。その方はこれからどうするのだ。過去を書き換える程のものならば、それこそ限界などなかろう。あらゆる願いを叶えることが出来るはずだ。この力をどう使う」


 伏せるように姿勢を低くして、冷静な、むしろちょっと優しげな声で猫の王様が訊いてきた。


「正直、使うのはちょっと怖いです。もしかしたら、難しい願いにしなければ、それほど大きな影響はないのかもしれないですけど。でも、正直まだよくわからないところもありますし……」

「ならば、使わずにおくのか?」


 ここまで来ても、猫の王様は使うなとは言わなかった。

 どうやら強制しないという方針は崩さないみたいだ。


「今回、メダルを使って、良かったって思ってるんです」


 それがわたしの素直な感想だ。


「メダルの力で何が変わったのかはわかりませんけど、それでもコナユキを助けてあげることが出来た。これは間違いないことです」

「ならば、己の信ずるところに従い、メダルを使うか?」


 この答えはむずかしい。


「そうですね。必要であれば使っちゃうかもしれません」

「例えば、誰かを助けるために?」


 正しいことのために使う、というと途端にあやしく思えてくる。

 それは前世のわたしが、現代的な価値観を持っていたからだ。

 はたして本当に正しいことなんてあるのか。

 今でもわたしはそう思ってる。

 でも。


「使えば救えるとわかっちゃうと、我慢できないかも」


 めずらしく王様がちょっと迷うような顔で視線を下げた。


「ひとつだけ助言するならば、己の中で決まりを作っておくのが良かろう」

「決まりですか?」

「どんな時に使い、どのような場合には使わないか、それを前もって決めておくのだ。そうしなければ、いずれ歯止めが効かなくなるだろう」


 本来なら、口出ししないはずなんだろう。

 それをおしてまで助言してくれたってことをちゃんと理解しないといけない。

 猫の王様の口調はいつも通りだったけど、すごくこちらを心配してくれてるんだってことが、わたしにははっきりとわかった。

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