インタビュー・ウィズ・犬
気絶している犬の魔物は、とりあえず拘束してみることにした。
家畜小屋にあったロープでぐるぐる巻きにしてみたけど、これくらいだったら引きちぎられてしまうかもしれない。
わたしはコナユキにお願いして部屋に置いてある自分の剣を持ってきてもらうことにした。
剣自体は子供の身体でも扱える短いものだけど、わたしが魔力を込めて使えば威嚇としての威力は充分なはずだ。
目を覚まさせるために、剣の腹の部分で頭をぺしぺしと叩いてみる。
「む、なんだ?」
犬の魔物はパチッと目を開くと、冷静にあたりを見回した。
それと同時に、自分が縛られていることに気づいたらしい。
ちょっともがいてから、すぐに力を抜き、わたしたちの方を見た。
あっさりと脱出を諦めたようだった。
「今すぐ解放する」
「あのね、あれだけ暴れておいて、解放なんてするわけないでしょ」
「約定によって、バウルは捕縛できない」
「それって、この札を持ってるから?」
そういって、わたしは手に持っていた札を犬の魔物の鼻先に突きつける。
これはさっき魔物の首輪から取り外しておいたものだ。
「その手形は約定に定められた者のしるし」
「外交官特権みたいなやつ? でも、今あなたは何も持ってないよね」
わたしと魔物とのやりとりを、ちょっと離れたところでコナユキが心配そうな顔をしてみている。
コナユキは集落の長になる者として、約定とかいうものの重要性を感じてるのかもしれない。
でも、わたしにはいまいち良くわからない。
もしかしたら、コナユキ視点ではすごい無茶をしてるように見えてるのかも。
「今すぐそれを返す」
「でも、これがあなたの物だって証拠もないでしょ?」
わたしがそういうと、犬の魔物はしばらく口を閉ざした。
「手形を渡せば、バウルはもう何もしない」
「それもいいけど、もうちょっとお話をしようか」
「バウルには話すことはない」
どうやらバウルっていうのが、この犬の魔物の名前らしい。
「まず知って欲しいのは。わたしたちはオーブを持ってないってこと」
「ないことを証明するのは難しい」
「まあね」
「でも、バウルはもう詮索しない」
「よろしい。というか、わたしたちもオーブを探してるんだけど、その辺の事情は知ってるの?」
「オーブが消え、直後に里の後継者が消えたことは知ってる」
情報の共有がなってなさすぎる。
「その後継者はカザリさんと一緒に旅に出たんだけど、伝わってないんだ」
「バウルは知らない」
「カザリさんに連れられて、マゴット領にいる森の王に会いに行ってたんだよ」
「確認する」
バウルっていう魔物は神妙にこっくりと頷いた。
「じゃあ、コナユキがオーブを持ち逃げしたと誤解して、襲いかかってきたって事?」
「そうなる」
「でも、なんで今になってオーブを手に入れようとしてるの? 昔からコナユキの住んでる集落にあることは知ってたんでしょ?」
「バウルは強い魔力を持つ存在を監視している。それが消えたなら、探すのがバウルの仕事」
なるほど。
あのカザリさんって騎士の魔物も強い魔力を感じて調査に来たみたいだから、行動原理は一貫してるみたいだ。
その大本の理由自体はいまいちわからないけど。
「じゃあ、どうやってコナユキの居場所がわかったの?」
「街の中を仲間に監視をさせていた」
あの寺院の前にいた犬の魔物のことだろう。
「あの鳥の魔物は?」
「鳥? 鳥は知らない」
「知らない?」
だとすると、街道でわたしたちを襲ってきた魔物は別口ってことだろうか。
考えてみれば、直接襲われたのはコナユキでもわたしでもなかった。
「もう手形を返す」
「わかったよ」
とりあえず大体の状況はつかめたので、手形を首輪にくくりつけてから、ぐるぐる巻きにしていた縄を解いてやった。
「これで誤解も解けたよね」
「バウルもオーブがないことは理解した」
「よかったよかった」
「里の後継者はこれからどこに行く?」
そう問われて、わたしは答えてもいいかちょっと考える。
別に隠すようなことじゃないし、大丈夫だろう。
「コナユキの集落に戻るよ。そこでもう一度オーブを探してみるつもり」
「なら、バウルも一緒に里に行く」
いきなり犬の魔物がそんな事を言い出した。
「いや、一緒に行動とか無理でしょ」
「勝手について行くから、気にしない」
しかたない。
拒否する理由もないことだし。
「構わないけど、人目があるところでは接触してこないでね」
とりあえず、面倒ごとを避けるために釘だけは刺しておくことにした。




