猫の王様といっしょに森を歩く
午後の暖かな陽光が木々の間に差し込む中、わたしは猫の王様と並んで森を歩いていた。
ライオンサイズの猫と十歳の女の子では歩調がまったく合わなかったけど、王様はゆっくりと歩いてくれている。
いつもの御所を出て、キリカゼさんのお屋敷に行く途上だった。
つまり、先日とは逆方向に道を辿っているということだ。
「まあ、素直に話すしかないだろうな」
猫の王様があっさりと言った。
「やっぱり、他に手はないですよね」
「あやつは口は固いし、しっかり頼んでおけば心配することもなかろう」
キリカゼさんはいってみれば姉弟子で身内みたいなものだし、わたしも信用していないわけじゃない。
「三つ子たちはどうなんでしょうね」
「そうだな。年の割に賢いが、知識が無ければ想像がつかぬ話ではある。余計なことは言わぬように言い含めておくくらいか」
三つ子に関しては、そもそも声すら聞いたことがないから、問題ないかもだけど。
「しかしカナエよ。やはり油断しすぎだったのではないか?」
「うっ。反省してます」
朝一で事情を報告しに来てから数時間、ようやく王様からお叱りらしき言葉が出てきた。
「反省しているのは見ればわかるからな」
「対策として、小袋を二重にして、簡単には中身が飛び出ないようにしました。多少取り出しにくくはなりましたが」
魔力を遮る袋がどういう仕組みなのかわからなかったので、単純に別の袋を用意して、その中に仕舞っている。
外側の袋には容易に開かないよう蓋をつけてある。
「まあ一度このようなことがあれば、油断もなくなるだろう。あまり心配しすぎる必要はあるまい」
猫の王様の長い尻尾が、ふわっと軽やかに揺れた。
「むしろ、今は魔物の動向の方が気になるところだな」
反省会をあっさり打ち切って、王様が話題を変える。
「あの日から今日まで、魔物は一匹も姿を見せていません。強い魔力に気付いていたら探りに来ると思うんですが」
ずっとしつこく探しまわってたことを考えると、いきなり興味をなくすとも思えない。
「普通に考えるなら、今回は気付かれなかったということだろう」
「まあ、可能性としては高そうですけど……」
とはいえ、手放しで安心できる感じでもない。
「不安があるのか?」
「あまりにも何もなさすぎて、逆に違和感があるというか。それに、思い込むのは危険な気がするんです」
もし間違っていたら、こちらが不意を突かれることになる。
「ならばどう対処する?」
「うーん……。出来ることといえば、魔物を言いくるめる為のうまい説明を考えておくか。それとも神様のメダルが奪われないよう隠しておくか」
猫の王様がため息を吐くみたいに低く唸る。
「まあ、今までずっとやってきたことだな」
「実はもうひとつ、完全に解決できる方法があります」
でも、あまりやりたくはなかった。
「メダルの力を使う、というのだろう?」
王様の声色には、抑えめだったけど批判的な響きがあった。
「そうです。魔物にメダルの存在を気付かれないように願えば、そのようになるのは間違いありません。でも……」
「裏が出た場合に起こる災いを考えないわけにはゆかぬな」
やりたくない理由は他にもある。
メダルの力に頼るのが癖になってしまうかもってことだ。
色々実験したから、裏が出た時のリスクをある程度コントロールできるかもしれないけど、裏が出ようが表が出ようが、世界自体に大きな影響を与えている気がしてならない。
なにか、自分がでは把握できない事態が、目に見えないところで進行しているとか、そんなの不安しかない。
「カナエ」
静かな、けれどすこし強い声で呼び止められる。
猫の王様が目を細め、何かを探るように森の奥を見詰めていた。
「なにか妙ではないか?」
わたしも立ち止まって、あたりの気配を探る。
「そうですか?」
「キリカゼの屋敷の方から、精霊ではない、何者かの魔力を感じる」
ちょっと間が空いてしまいました。
しばらくいろいろゴタゴタしてて滞ってましたが、なんとかすすめていきますので。