みみもしっぽもでるわ、だってねこだもの
わたしの上着に顔を突っ込んでいた三つ子たちが、床に落ちたメダルの方にいっせいに群がる。
強い魔力を放ちながらキラキラ光るそれに、ボールを追いかける猫みたいに飛びついて、小さな手を伸ばしている。
「あー、駄目だよ! 無闇にさわったら!」
慌てて三つ子たちの間に割って入った。
なんとか身体の下にメダルを確保すると、押しくらまんじゅうみたいな状態になっていた。
もふもふふわふわの銀髪が寄り集まって、三つ子は本当に長毛種の猫みたいだ。
いや、ほんとにふさふさが増えてる。
猫の耳と尻尾が出ちゃってるよ!
今まで完璧に人間形態を保ってたのに。
屋敷の誰かに見られたらまずい。
さっさと片付けてもらわないと。
「はい、解散! 解散!」
隙間から突っ込んでくる鼻先を躱しながら、なんとか神様のメダルを拾い上げ、魔力を遮ってくれる小袋の中に戻した。
どのくらいの時間、外に出ていた?
数十秒とかかな。
一分も経ってはいないはずだけど。
「うーん、ギリギリセーフ?」
「キュッ!」
イナリがアウトだよ、みたいな感じに鳴いた。
「とりあえず、君たちはそのふわふわしたやつをなんとかしなさい」
小袋を上着の隠しに戻しながら立ち上がると、三つ子も自分たちの状態に気付いたみたいで、あわてて頭を押さえている。
そんなんで戻るの? と思ったけど、あっというまに猫の耳も尻尾も消えてしまった。
小さいのになかなかやるな。
「姉様、わたし、もうこれ以上おどろく事はないと思ってたんですけど」
「うーん、びっくりさせてごめんね?」
だめだ。
何も誤魔化せそうにない。
「あのメダルは、もしかして……」
「ストップ!」
手を伸ばして、リンドウの言葉をあわてて遮る。
「あとで! あとで説明するから!」
「……わかりました」
リンドウがしぶしぶといった顔で頷く。
できればこの話は三つ子には聞かせたくない。
メダルの正体が何だったのかは理解してないはずだから、三つ子の方はまだ誤魔化しようもあるだろう。
でも、リンドウはわかってるっぽいし、説明するしかなかった。
「とりあえずお茶の続きに戻ろうか。お菓子も追加を持ってきてもらうから」
椅子に戻りながらそう言うと、お菓子という言葉に反応したのか、三つ子も服の埃を払いながら席についた。
うちひとりは今回もわたしの膝の上だ。
「それでは姉様、わたしが伝えに行ってきます」
リンドウがこころもち早足気味に屋敷の中に入っていく。
残されたわたしは、なるべく優雅に見えるようにティーカップをつまみ、ゆっくりとお茶を口に含む。
まずは落ち着こう。
それから状況の把握と対策を考えなくては。
テーブルの向かいでは、ちびたちが小さな手でカップをつかみ、むぐむぐとお茶を飲んでいる。
あいかわらず午後の陽差しはのどかだった。
考えよう。
今起こった出来事の意味と、その影響を。
何か見落としてることはないだろうか。
「なにか、楽しそうなことをしていたみたいですね」
しまった。
あったよ、見落としてたこと。
完全に意識から抜け落ちてたけど、まあそりゃそうだよね。
こんな近くにいて、気付かないはずがない。
声のした方を見ると、キリカゼさんがアヤメお姉ちゃんと並んでこちらにやって来たところだった。