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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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子猫たちとのお茶会と、うっかりではすまないこと

「そういえば、三つ子はどうしてるの?」


 リンドウと二人、ミュオスを門から送り出したところで、あの子たちを完全に放置してたことを思い出した。


「置き去りにはできないので、とりあえずヨイヤミちゃんに様子を見てもらっています。今も犬さんに夢中だとは思いますが」

「魔物に精霊の面倒をみさせてるの!?」


 あの愛想のない黒犬が三つ子とコミュニケーションをとれるんだろうか。


「少し離れたところから見張ってもらってるだけですから」


 それなら大丈夫、かな。


「あの三つ子に怪我の心配はいらないし、勝手にどこかへ行ったりしなければ問題ないか」


 とはいえ、いつかは犬にも飽きるだろう。

 早めに犬舎まで戻った方がよさそうだ。

 二人、連れだって門から屋敷へ向かう道を進む。

 天気の良いお昼の陽差しの下を、こうやって姉妹で歩いていると、さっきまでの出来事が夢か何かだったような気さえしてくる。


「戻ったらお茶でも淹れてもらって休憩にしようか。三つ子もお腹すかせてるかもしれないし」

「姉様……」


 突然挟まれたリンドウの声はすこし硬かった。


「カナエ姉様はいったい何者なんでしょうか」

「ある程度はわかってるんじゃないの?」


 お互いに見当くらいは付いてると思ってたけど。


「イナリちゃんがいつも一緒にいることもそうですけど、本日のお客様を見れば、精霊との関係には思い至ります。ですが、そもそもどうしてそうなったのかまでは……」

「リンドウからは、わたしはどう見える?」


 ためしにそう訊いてみると、考え込んでいるのかちょっとうつむき気味になった。


「わたしがある程度〈見える〉ようになったのはつい最近ですから、それ以前のことはわかりません。イナリちゃんを連れて帰ってきたあたりが節目だったのではという気もしますけど、最近は特に強く精霊の気配を感じます。正直に言えばわからないとしか。どう見ても人間なのに、同時に精霊でもあるような……」

「それで正解だと思うな。今のわたしは人間の精霊だからね」


 リンドウは驚くような勢いで顔を上げて、わたしの方を見詰めた。


「本当ですか? でも……いえ、たしかにそうだと考えれば納得は出来ますけど。そんなことありうるんでしょうか……」

「まあ、世界で初めてらしいからねえ」


 それからしばらくは二人とも無言で、気が付けば犬舎の傍まで戻ってきていた。

 ぱっと見では、特に変わりはないようだ。

 ただ、三つ子の前にいる犬が何故か増えている。

 大きくて毛の短い精悍な子と、中型の人懐こい子がそれぞれ一頭座り込んでいて、子供たちに思うさま身体をモフられていた。

 そして、少し離れたところに黒犬の魔物がいて、その様子を無言で観察している。

 わたしはまず、バウルの方に近寄った。


「もしかして、あんたがあの子たちを柵から出したの?」


 黒犬の魔物は、めんどくさそうにのっそりとこちらを向いた。


「バウルはかれらに近づかない」

「ということは、あの子たちが柵の戸を開けたんでしょうか」


 わたしの後を付いてきていたリンドウが、バウルの背中に手を乗せる。


「柵は犬によって開けられた」

「なるほど、三つ子が犬たちにお願いしたってことか」


 精霊の頼みなら、犬たちは断らないだろう。

 あの子たちを放置してたわたしにも問題はあったし、これはちょっと注意できる状況でもないかな。


「ねえ! そろそろ移動しようか!」


 三つ子たちに向かって歩きながら声を掛ける。

 でも、まったくのノーリアクションだ。


「キュッ」


 肩の上でイナリが鳴くと、犬たちがちょっとビクッとした。

 でも、三つ子たちはモフるのをやめない。


「お茶でも飲みながら少し休憩しようよ」


 わたしの言葉に、ちょっとだけ反応があった。

 あと一歩って感じだ。


「お茶請けにお菓子も付けようと思うんだけどなー」


 そう言うと、同じタイミングで三つ子がグルンと頭をこちらに向けた。

 完全に獲物を狙う眼だった。


「よし。じゃあ、花壇の前のテラスに行こう」


 近づいて手を差し伸べてみたけど、三つ子は犬を撫で回すのをやめない。

 でも、視線はこちらを向いたままで、頭と身体が別々に動いてるみたいだった。


「そろそろ犬さんをおうちに戻してあげましょう」


 リンドウがやさしく声を掛けたけど、まったく聞く耳をもたない。

 でも、そのままじゃ移動できないよ。


「わかった。だったら一頭だけ連れてっていいよ」


 そう言うと、三つ子が一斉に立ち上がった。


「バウルはその一頭に含まれない」


 嫌そうな声で、黒犬の魔物がそんなことを言う。

 結局、選ばれたのは最初に連れてきた、毛の長い大きな犬だった。

 大きな身体を挟むように三つ子が歩いていて、移動中もずっと身体をなで続けている。

 どうやら相当気に入ったらしい。

 バウルは途中で門の方に去っていった。

 用事がなくなれば、いる必要はないという考えらしい。

 付き合いが悪いという気もするけど、精霊たちと一緒なのは居心地よくないだろうとは思っていた。

 花壇前のテラスに辿り着いてからも、三つ子は犬の側を離れない。

 仕方ないので椅子を追加で持ってきて、犬をその上に乗せた。

 左右を挟むように椅子を置いてそこに二人座り、残りの一人はわたしが引き取って、膝の上に座らせる。

 ひとりだけ犬から引き離されて、物欲しそうにそちらを見てたけど、さすがにこれはどうしようもないな。

 接待モードのイナリがテーブルの上に降りてきて、いつでも撫でられる体勢をとったけど、チラッと眼をやっただけで、すぐにわたしの胸に顔を突っ込んできてしまった。

 犬はオーケーだけど、同じ精霊はだめなのかな。


「カナエ姉様、この子たちにすごく懐かれてます」

「前に会った時、ちょっと仲良くなったからね」


 餌付けしたとも言う。

 今回、がんばったイナリはわたしが撫でてあげることにした。

 すると、膝の上の子がぐりぐり頭を擦りつけてきたので、逆の手でその銀色の髪を撫でてあげる。

 なんかもう色々忙しすぎるな。

 そうやってしばらく身動きとれないでいると、使用人のひとに頼んでいたお茶とお菓子がやってきた。


「よし。それじゃあ、お茶にしようか」


 わたしが言うのとほぼ同時に、三つ子がバッとテーブルに向き直った。

 いつもどおり、欲望を隠さないスタイルだ。

 お茶と一緒に、クリームを挟んだパイに、木イチゴのプディングが置かれる。

 テーブルの奥に手が届かない三つ子のかわりに、リンドウとわたしで小皿に取り分けて渡してあげた。


「一心不乱な感じだけど、食べ方はけっこう綺麗なんだよね」

「育ちの良さがうかがえますね」


 三つ子を観察しててもしょうがないので、わたしたちもお菓子に手を付けることにする。


「うーん、やっぱりちゃんとした料理人が作ったのはおいしいね」


 適当に焼いたお手製のせんべいとは格が違う。


「わたしは姉様の焼き菓子も好きですよ」

「そう言ってくれるとうれしいね」


 焼き菓子という言葉を聞いてか、膝の上でお茶を飲んでいた子が急に顔を上げた。


「どうしたの? あ、もう食べ終わっちゃったか」

「クルッ」


 軽くたしなめるようにイナリが鳴いたけど、まったく気にする様子もなく、わたしの上着の内側に鼻先を突っ込んでくる。


「残念ながら、今は鹿せんべい持ってないんだよ」


 こちらの言葉が伝わっていないのか、ちょっと動物っぽい仕草で匂いを嗅いでくる。

 小刻みに揺れる鼻先がなんだかくすぐったくなってきた。


「ふふっ! ちょっと、まった。だからほんとに無いんだって」


 気付いたら残りのふたりもこちらにやって来て、わたしの胸元に顔を突っ込んでいた。

 三つ子たちはふんふんと鼻を鳴らしながら、上着裏の隠しを漁り始める。

 いつもそこに鹿せんべいを入れてるから、匂いがするのかもしれない。


「だから、だめだって! ほら、ちょっと、待って……」


 完全にうっかりだった。

 ミュオスが帰って気が抜けていたのかもしれない。

 鹿せんべいを入れてなかったら、そこに何があるのか、束の間、意識から抜け落ちていて。


「あ、駄目っ!」


 上着の隠しから、小さな袋が転がり落ちた。

 しかも不幸なことに、三つ子の鼻先で揉まれ、しっかりと縛ったはずの口が開いている。


「キュッ!」


 慌ててイナリがテーブルから飛び降りたけど間に合わない。

 強い魔力の迸り。

 精霊になった今なら、これまで以上にその恐ろしさがわかる。


「姉様、それは……」


 床に落ちた小袋から、金色のメダルが顔を出していた。

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