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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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魔物の王たちの事情と猫のめざめ

 ミュオスたちが魔王に怒られる?

 指輪を奪われたことをだろうか。

 わたしはちょっと考えてから、確認するつもりでリンドウに話しかける。


「つまり、指輪にまつわる出来事の背後には魔王がいて、作戦失敗したあげくに指輪を奪われたことが知られたら、その魔王に怒られるってこと?」

「それはだいたいその通りなんですが、もう少し話は複雑です」


 リンドウはどう説明したものか考えるみたいに一瞬口を閉ざした。


「どの辺が複雑なの?」

「先程怒るといったのは別の魔王、かつてこの地に攻め入ってきた、かの強大な魔王の事なのです」


 なるほど、怒る主体が違っていたのか。

 もっと強い魔王。

 世界全てを手に入れる直前までいった魔王の話は、以前聞いたことがあった。

 それは確か人間の魔王だったはずだ。


「普通は魔物とひとくくりにされがちですが、魔物たちは一枚岩ではありません。いくつかの派閥というか、強い魔物を中心とした集団に別れています」

「魔王がたくさんいるってのは知ってるけど……」


 たそがれの魔女の迷宮で読んだ本には、魔物の集落に長として魔王がいると書かれていた。

 猫の王様にも以前似たような話を聞いたことがあったな。


「この国を含めた一帯を事実上支配しているのは一人の魔王なんですけど、それよりも立場が低い複数の魔王もいてそれぞれ領地を持っているんです」

「王様と地方領主みたいなものかな」


 わたしたちの住むこの国はそういう仕組みになってるけど。

 

「そこまではっきりとした主従関係じゃないんですが、おおよそそんなところでしょう」


 そういえば精霊の王様も沢山いるらしいけど、上下関係みたいなものがあるとは聞かない。

 人間以外のものは自然とそうなるんだろうか。


「ってことは、このミュオスとか、その指輪を渡してきたフクロウの魔物なんかは、同じ集団に属してるってことだよね?」

「はい、この間まで屋敷に滞在していた女性騎士の姿をした魔物も同じ仲間です」


 ここから出て行ったカザリの後釜としてミュオスが来たみたいだから、まあそこは納得できる。


「じゃあ当然あの黒犬の魔物も……」

「ヨイヤミちゃんも元はそうですね」


 元は、か。


「この魔物たちが身を寄せているのは、鳥の魔物の王です。このあたりはかれらのなわばりなのです」

「なるほど」


 鳥の魔物には何度か襲われたりしたし、考えてみれば、たそがれの魔女に卵の魔物を渡したのは鳥の魔王だったはずだ。

 直接顔を合わせたことはないけど、それなりに因縁はあるのかもしれない。


「もしかして、その鳥の魔王はもっと強力な魔王と敵対関係にあるってこと?」

「表だっては対立していませんが、水面下では色々と動いているようです」


 魔物は魔物でゴタゴタとかあるんだなあ、みたいに人ごとで済むのならよかったけど、そうもいかない。


「ああ、どうやらやっとお目覚めのようですね」


 リンドウの言葉と同時に、腕に抱えていた猫がぐっと重くなった。

 しなやかな身体の芯に力が入り、ぐるっと頭を回してこちらを見上げている。

 間近に鼻先が近づき、猫の眼に力があるのがわかった。

 どうやら、ミュオスに掛けられていた意識操作の魔法が解けたらしい。


「猫は誰にも操られない」


 ミュオスが平坦な声で言う。

 もしかして、わたしたちと交渉するために猫を解放したんだろうか。

 それとも自然と呪縛が解けたのか。


「おっと、ねえ、乱暴なことしないから、落ち着いて」


 灰色の猫はこちらをかなり警戒している。

 寝起きで気がつくと誰かに抱え上げられていたんだから、それはまあ不安にもなるだろう。

 身体を捻るように曲げて、今にもわたしの腕から抜け出しそうだった。


「だいじょうぶ。わたしはあなたを守るから」


 なるべく穏やかに聞こえそうな声で言葉を伝える。

 すると、灰色の猫の身体からゆっくりと力が抜けていった。


「猫さん、落ち着いたようですね」


 リンドウがほっとした顔になった。

 灰色の猫は大人しく抱かれる体勢に戻っている。

 もしかしたら、手首に着けているひげの腕輪の効果だろうか。

 これのおかげでやっと仲間認定されたのかもしれない。

 わたしは猫の身体をしっかりと抱え直しながら、未だ動けないでいるミュオスの様子をうかがう。


「それで結局、こいつらは何が目的なの?」

「簡単に言うと人間の世界に干渉することでしょう。そのための準備として、魔物によって操ることが出来る人間を増やそうとしているようです」


 当然この話は聞こえてるはずだけど、ミュオスは無表情を貫いている。


「まあ、魔物らしいといえば魔物らしいけど」

「そう思えるかもしれませんが、この方針は人間と魔物たちとの盟約に反するのです。よって、それを定めた魔王に知られると怒られる、というわけなのです」


 ああ、これで話がつながった。

 思い出したのは、一部の魔物たちに許された、人間の国で行動の自由を保障する外交官特権みたいなやつのことだ。

 たしか、あれは魔王の軍勢が人間の国々から手を引く際に、各国の王様が約束させられたものだったはずだ。

 普通に考えれば不平等な条約に思えるけど、逆に魔物たちが勝手に人間に手を出さないようにしているとも言える。


「ということは、例の魔王は、実は結構人間に優しいってことかな。いやまあ、軍隊作って侵攻してきてる時点でそんなわけないんだろうけど」

「魔王の気質は知らないですけど、指輪を使った企みが明らかになれば問題になるのは確かですね」


 どれくらい問題なのか、わたしにはわからないけど、少なくとも格上の魔王の顔に泥を塗ることにはなりそうだ。

 だから指輪を取り戻そうと躍起になってたってことかな。


「じゃあ、ならなおさら指輪は返さない方がいいんじゃない?」


 わざわざ悪事の証拠を手放す必要もないだろうし。


「もちろんただで渡すわけじゃありません。このマゴット領から手を引くことを条件にできるなら、指輪を返してもいいという話しなのです」


 なるほど。

 魔物があたりをうろつかなくなるなら、たしかにそれは歓迎できる。

 問題はこいつらがリンドウが出した条件を受け容れるかだけど。


「ミュオスはそれを決めない」


 ぼそっと、目の前の魔物が言った。


「ですので、お話を持ち帰って皆さんで相談してくださいね」


 にっこりと笑ってリンドウがそう返す。

 交渉する用意がないんだったら、他に選択肢はないだろう。

 そんなわけで、ミュオスは一足先に屋敷から出て行くことになった。

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