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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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猫の魔物たちの密会

 足音を抑えながら、屋敷を目指して走る。


「なるべく気配を消して近づくからね」

「クルッ」


 肩の上のイナリが任せてって感じで鳴くと、首の周りを一周してマフラー状態になった。 

 何かあっても振り落とされないようにするためだろう。

 同時に頭の上の光の輪を静かに廻し、魔力が目立つのを抑える。

 わたしの方は既に魔力の気配を極力消していた。

 最近やっと精霊の力にもなれてきた。

 繊細なコントロールにはコツがいるのだ。

 意識して出来るようになるまでにちょっと時間がかかったけど。


「見えてきた。行くよ」

「ルッ」


 屋敷の裏手側へ回り込むように抜けて、一気に速度を上げる。

 石壁が迫り、激突する寸前で飛び上がって、片足を壁面にかける。

 そのままの勢いで垂直に駆け登った。

 一階部分を越え、さらに進む。

 精霊の身体になったせいで、身体能力はかなり向上している。

 しかもそれだけじゃなくて、魔力によって身体をコントロール出来るようになった。

 だから普通の人間だと難しい動きも可能になる。

 二階部分の壁を越え、勢い余って空中に投げ出された。

 猫のように身体のバランスを取り、二階の屋根を見下ろすと、うずくまっている人影が見えた。


「やっぱりここだった」


 衝撃を抑えるため、全身を使って屈むように着地すると、ミュオスが素速くこちらに振り向いた。

 無表情の中、微かに瞳が揺らめき、そこに驚きの色がある。


「勝手に出歩かないでって言ったよね?」

「キュッ」


 わたしと一緒にイナリも糾弾の鳴き声を上げた。


「あと、その子はうちの猫だから、手を出しちゃだめだよ」


 ミュオスの足元には灰色の猫がうずくまるように座っていた。

 こちらを見ていないので、どんな顔をしているのかはわからない。  

 突然の訪問者にも一切反応しない。


「どうしてここが」


 普段と違って、意味が通じやすい言葉だった。


「わかるよ。それくらい」

「クルッ」


 イナリの鳴き声がちょっと得意げだ。

 ミュオスは突然のこの状況に対応を迷っているみたいだけど、機会を窺っているようにも見える。

 できれば、こちらも相手の様子を見極めたかったので、時間を稼ぐためにも説明を続けることにした。


「最初に会ったとき、この屋敷に来る権利を二回分欲しいって言ってたじゃない」


 ミュオスの眼がわずかに細くなる。


「なんで二回分なんだろってその時は思ったけど、でも、以降何度か話をしたけど、なぜか二回分とは言わなくなったよね。気になって、考えてみて、どこかで状況が変わったんじゃないかなって思ったんだ」


 ミュオスを中心に回り込むように歩を進める。

 少しずつ灰色の猫の横顔が見えてくる。


「時期を考えると、変化として大きかったのは、赤ん坊が消えたあの事件だよね。そして、この屋敷に関係したことに絞れば、その灰色の猫のことだって話になる」


 よく見ると、猫の口元で何かが光っている。

 どうやら金属らしき何かを咥えてるみたいだった。 


「それまで灰色の猫は精霊の支配下にあって記憶を操作されていたけど、あの事件を機に精霊の影響下から離れ、記憶も元に戻った。つまり、あんたはこの子にちょっかいを出せるようになった。想像だけど、なんらかの手管を使って、操ってたんじゃないの? だから自分で一度屋敷に来る必要がなくなった。最初の一回分は灰色の猫に替わってもらって、自分は二回目だけに来ればいいってことになった」


 考えてみれば、灰色の猫はずいぶんと塩対応だった。

 わたしは猫の王様からひげの腕輪をもらってたのに。

 それも、ミュオスの支配下にあったからと考えれば納得できる。


「だから、今、あんたはこの子と密会してるんじゃないかって思ったんだよね。つまり、この猫がいる場所にあんたはいる。今日、ひと通り敷地を案内して、色々見て回ったけど、いつもいそうな場所には、猫はいなかった。でもただひとつ、ここだけは探してなかったんだよね。なにせ屋根の上だから」


 そういえば、ミュオスは屋敷の三階を見て回りたがってたけど、窓からこの場所を確認したかったのかもしれない。


「それでさ。目的は情報とかじゃないよね。情報だったら、猫を村まで報告に来させればいい。たぶん、なにか重要な物を持ち出そうとしたんじゃないかな。しかも猫に運ばせるのは難しい物。大きな物か、それとも、屋敷を囲む結界に阻まれて出られないような性質の何かか」


 猫の前まで回り込んで、口に咥えているのが、鈍色の指輪らしいことがわかった。

 指輪からは不気味な色の強い魔力が漂い出ている。


「それだね?」


 ミュオスはほとんど睨み付けるような眼でわたしを見た。

 もしかしたら、こちらの視線も知らずに険しくなっていたかもしれない。

 相手の出方を窺ってか、わたしたちはどちらも動きを止めていた。

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