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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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猫の魔物はどこへ行ったか問題

 辺りを見渡しながら、精神を集中してミュオスの気配を探る。

 だめだ。

 考えてみれば、あの魔物は気配を消すのが上手いんだった。

 村の中で会ったときも、声を掛けられるまで存在に気付かなかったことがあった。

 どこに行ったんだろう。

 ミュオスに見られて困るものはないはずだけど、自由に行動させていいってわけでもない。

 

「カナエ姉様」


 リンドウが申し訳なさそうな顔で駆け寄ってくる。


「すみません。ちょっと目を離した隙に」

「あやまらなくていいよ。わたしの監督責任だから」


 失敗した。

 こうなる可能性があるとわかってたのに。

 いや、反省より先にするべきことがあるな。 


「姉様。わたし、いますぐ探してきます」

「ちょっと待って。リンドウはこの子達についててあげてほしいんだけど」


 今にも走り出しそうな妹を、なんとか押しとどめる。 


「なるほど。たしかに小さい子を放り出してはいけませんね」

「わたしが行ってくるよ。できれば人手が欲しいところだけどしょうがない」


 思案顔のリンドウが柵の中に視線を向ける。


「でしたら、犬さんたちに手伝ってもらうのはどうでしょう。匂いで探し出せるかもしれません」

「そんなことしたら大騒動になっちゃうよ。大丈夫、すぐに見つけてくるから!」


 そう言いながら、足早に犬舎の前を離れる。

 でも、どうやって探す?

 気配をずっとさぐり続けてるけど、まったく反応はない。


「闇雲に走り回ってもだめかもね」

「クルッ」


 肩の上のイナリが同意の鳴き声を上げる。

 建物の間を抜け、視界が開けた場所に着いたところで、わたしは足を止めた。


「感覚で探すのも、しらみつぶしに探すも悪手なら、なにか他の手を考えないと」

「クルッ」


 たぶんこれは、じゃあどうしようかのクルッだ。


「やっぱり頭を使って考えるしかないかな」


 なにかあるはずだ。

 ミュオスの行き先のヒントが。

 この状況を、今までの出来事を、思い返してみる。


「そもそも、あいつの目的は何なんだろう」


 イナリは相槌を打たなかった。

 たぶん、わたしが集中して考えられるようにしてくれてるんだろう。


「前にどこかでそんな話をしたっけ。そうだ。たしか結論は情報収集だったはず」


 だから村の猫たちに接触して仲間に入ろうとしていたんだし。

 そういえば、この屋敷に来たいって言ってたときも、猫のなわばりを結構気にしていた記憶がある。

 あの時には人の姿なら大丈夫だろうって話をしたような。


「なんだろう。何か気になるっていうか、違和感? 違うな。そうだよ。あいつ、妙なこと言ってたんだ」


 たしか、一番最初に話した時のことだ。

 屋敷に立ち入る権利を二回分よこせって言ってたんだよ。

 理由は教えてくれなかったけど。

 いや、事情があるとかなんとかそんな話だったような。


「そう。ここに二回来たいって言ってた。だとしたら、それってなんで?」


 仮に情報収集が目的だとして、なんで二回なんだ。

 だったら自由に出入りできるのが一番いいはず。

 もしかしたら。

 自由に出入りするために、二回来る必要があったのかもしれない。


「うーん、ちょっと想像に寄りすぎてるかも」


 ならば見方を変えてみよう。

 そうだな。

 まず、二回出入りすることで出来ることって何か。

 ここから考え始めよう。

 単純な図式にしてみる。

 一枚の紙に一本の線を引いて、左右に分ける。

 右側がマゴット家の屋敷、左側が外の世界だ。

 左から右に入る。

 そして、右から左に出て、再び右に入る。

 最期に右から左に出る。

 これで何が出来る?

 普通に考えれば。

 何かを持ち出すか、何かを持ち込むかだ。

 それは情報かもしれないし、物体かもしれない。

 こちらの予想では、目的は情報収集だから、右から左への移動では情報とか物体が持ち出されるはず。

 でも単にそれだけなら、二回はいらない。

 一度目の外への移動でも、持ち出せる物は変わらないんじゃないか。

 だったら、一度出る理由は何だろう。


「もしかして、場所の移動には意味がないのかな」


 だとしたら、あり得るのは時間を置くためとか?

 一度目と二度目の間に、少し時を待つ必要があるのか。


「そうか。最初の訪問で何かを持ち込むんだ」


 この考えだとつじつまは合う。


「二回目の訪問で、それを回収する。これなら二回っていうのは納得できる」


 つまり、持ち込む物は情報とか物体を収集するための何かだ。

 自動的に調べて回ってくれるような。


「持ち込むのは、例えば使い魔みたいなものとか?」


 その使い魔が屋敷を調べ、情報とか物とかを集め、二回目の訪問で回収する。

 ありそうな話だ。

 でも考えてみれば、今日は二度目の訪問については何も言われてないな。

 はっきり約束したわけでもないし、もっと強く言ってきてもおかしくないはずだけど。


「いや、そうじゃない。二回来たいって言ってたのは、最初だけなんだ。その後は特に要望とかなかったような」


 つまり、今は一度でいいってことなのか。

 じゃあどうして。

 最初とそれ以降で、何が変わった?


「ああ、なるほど」


 考えていたイメージが、ひとつにまとまる感覚があった。


「だったら場所も見当が付くか」


 気付いたのと同時に、わたしは走り始めていた。

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