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はじめてのおねがい

 猫の王様が貸してくれたのは、最初にわたしを案内してくれたあの部屋だった。

 落ち着いた雰囲気の部屋にはわたしとイナリしかいない。

 あの時は白狼たちが沢山来ていて、背中をなでてあげたりしたことを思い出した。

 ちなみに、白い狒々の執事さんにはメダルを使う話をしてあって、今は部屋の外のドア前で見張りをしてもらっている。

 ついさっきまでこの御所には女騎士の姿をした魔物の人が来てたわけだし、警戒するに越したことはない。


「よし、じゃあ始めようか」

「クルッ」


 わたしがソファから立ち上がると、イナリが襟元からチュニックの内側に潜り込み、隠しポケットから革製の小さな袋を咥えて戻ってきた。

 イナリが這い回る暖かな感触がくすぐったくて、思わず笑ってしまう。

 小さな手足で上着をガシガシと掴みながら、わたしの肩を伝って手の平まで降りてきたイナリは、皮の小袋をポトリと落とした。

 手の上にしっかりとメダルの重さを感じた。

 この袋には魔力を遮る力が与えられていて、その中に入れている限りはメダルの存在を隠してくれる。


「ありがとう、イナリ」


 わたしはメダルの入った小袋を受け取って、イナリの顎下を指先で撫でる。


「クルクルクル」


 イナリは眼を細めて気持ちよさそうに喉を鳴らした。

 さて、これからが本番だ。

 わたしは願いの内容をもう一度思い起こしてみる。

 たぶんこれで大丈夫。

 イナリが肩の上に戻ったのを確認してから、親指を上にして右手を握り、その上に神様のメダルを置く。

 前世でもコイントスなんてやったことはなかったから、これだけでちょっと緊張するな。

 願いを思い浮かべてメダルを投げれば良いってお話だったけど、今回は内容が長いから、実際に声に出してみることにした。


「叶えて欲しいお願いは以下の通りです。コナユキが探して欲しいと依頼してきた宝玉を、今日から三日以内にコナユキの住む集落の、元あった場所に戻してください。そして、それ以外のことは何もしないでください。あと、この願いを叶える事によって、誰かが不利益を被るような事態は避けてください。そして最後に、わたしがメダルが戻っているのを確認したら、雨をほんの少しだけ降らしてください。もしシチュエーション的に雨が難しい場合は、何か他のものを代用してもかまいませせん。お願いは以上です」


 わたしは一気にそう言って、メダルを親指で跳ね上げた。

 加減がわからなかったせいで力を入れすぎてしまったらしく、メダルは軽く回転しながら天井近くまで上がった。

 わたしが天井を見上げると、同時に肩の上のイナリもメダルを追って顔を天井に向けた。

 天井ギリギリでゆっくりと折り返してきたメダルは、重力のせいで結構な速さになって落ちてくる。

 手の甲で受け止めようとしていたわたしは、微妙にタイミングを見誤ってメダルを手首あたりにぶつけ、もう一回跳ね上げてしまう。

 一瞬、メダルを見失う。


「キュッ!」


 メダルはイナリの頭にぶつかって、そのまま前の方に跳ね飛ばされて、毛足の長い絨毯の上に落ちてしまった。


「ちょっと、イナリ、大丈夫?」

「クルッ」


 イナリは長い尻尾を振って、大丈夫だよって感じで鳴いた。

 わたしは手の平でイナリの頭をやさしく撫でながら、メダルが落ちた所に向かった。

 毛足の長い絨毯の上に落ちたメダルは、ぱっと見では表か裏かわからない。

 なるべく揺らしたりしないようにゆっくりと近づいた。

 キラリと光るメダルがちょっとだけ見える。

 わたしはしゃがみ込んで、メダルを上からのぞき込んだ。


「クルッ」


 イナリが肩の上から軽い足取りで飛び降りて、毛足の長い絨毯に頭を突っ込み、確認するみたいにメダルの匂いをクンクンと嗅ぐ。

 落ちたメダルが斜めになってたり、縦になってたりしたらどうしようと思ったけど、幸いなことにというか、もしかしたらそれもまたメダルの力なのかもしれないけど、そんな困った事態にはならなかったようだ。


 絨毯の上で、神様のメダルはしっかりと裏面を上にして落ちていた。

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