犬との遭遇(もしくは猫との遭遇)
犬舎に近寄ると、みんなこっちを気にしているのがわかる。
今までだったらものすごい勢いで突進してきてるところだけど、なぜか最近の犬たちはおとなしい。
少し歩調を上げて、一足先に柵の手前まで進むと、一斉にこちらを見上げてきた。
その顔はどこかちょっとほっとした風だった。
「今日はお客さんが来てるから、みんな大人しくしてるんだよ」
「ハハフハフフハ」
わたしの言葉に、犬たちは心なしか背筋を伸ばしたように見えた。
しばらく待っていると、最初に小走りでやってきたのは三つ子たちだった。
一斉に柵の下の方に取り付いたと思ったら、ものすごい熱量で犬たちを見詰めている。
「もしかして、あんまり犬は見たことないのかな?」
そう問いかけると、三つ子はしばらく互いに顔を見合わせてから、特に返事もなく犬観察に戻った。
森の中にも野犬とか狼とかいるとは思うけど、近くで見る機会はないのかもしれない。
「手を出したり、触ったりとかしちゃ駄目だからね。噛みはしないと思うけど、驚くだろうし」
「フフフルフル」
存外、犬たちの反応はよさそうだ。
遠巻きにしながらも、敵意を向けたりはしていない。
むしろ何かいわれたら素直に従いそうな雰囲気がある。
相手が精霊だってわかってるんだろうか。
そうだとするなら、イナリと同じような扱いなのかもしれないな。
「犬さんたちは今日もお元気そうですね」
少し遅れて、リンドウとミュオスがやってきた。
手を引っ張ったりはしてないけど、なんとなくミュオスを追い立ててきたようにも見える。
「犬はミュオスに興味を持たれない」
ぼそっと不満そうにつぶやくのを聞くに、あまり犬は得意ではないのかもしれない。
まあ、それならそれでめんどうがなくていい。
「皆さんもしかして、犬さんがお好きですか?」
柵にかぶりついている三つ子たちにリンドウが声を掛けた。
でも、そろってノーリアクションだ。
「あの、犬さんにお願いして、こちらに来てもらいましょうか?」
リンドウのこの言葉に、今度は三人が一斉にそちらへ振り向いた。
みんな眼がキラキラしている。
「カナエ姉様、構いませんよね?」
「うーん、そうだなあ。おとなしいやつ一頭だけならいいかな」
わたしが許可を出すと、にっこりと微笑んだリンドウが柵の向こうに入って行った。
その姿を三つ子たちが並んで見詰めている。
ちょっと悩むみたいに歩き回ってから、リンドウが一頭の犬を連れて戻ってきた。
つぶらな瞳がかわいい長毛種の大きな犬で、サイズは威圧感あるけど大人で穏やかな子だった。
「姉様、この犬さんにお願いしたいです」
わたしはリンドウに向かって頷いてみせる。
「良いチョイスだと思うよ。じゃあ、よろしくね」
大きな犬はフルリと一度尻尾を振ると、リンドウと共に柵の外に出る。
その間、三つ子の視線は犬の方に釘付けだった。
「毛を引っ張ったりしちゃ駄目だからね」
わたしが頭を撫でると、犬が気持ちよさそうに目を細める。
結構リラックスしてるな。
これなら大丈夫だろう。
「よしよし、ちょっと座ってくれる? 大丈夫、乱暴はさせないからね」
「フフハフ」
その場にゆっくり座り込んだので、目線が三つ子に会うようになった。
「じゃあ、背中を撫でてあげて。こんな感じで」
わたしが三つ子に話しかけると、素速く犬の横に一直線に並び、三人同時に小さな手で背中を撫で始めた。
犬は長い毛の間からチラッと三つ子たちに眼をやったけど、すぐに頭を戻した。
丁寧な扱いに安心したのか、度量が大きいのか、三つ子たちのするがままに任せている。
「撫でたかったらミュオスも来ていいけど?」
「キュッ!」
わたしが振り向くのと同時にイナリが鋭く鳴いた。
しまった。
ちょっと目を離した隙に、犬舎の前からミュオスの姿が消えていた。
年明けに投稿した「しゃちくさんたちの夜」を「もうひとつ、おまけのお話」の章に移しました。そして、その際に操作をミスりました。(むだな再投稿をしてる話がありますが、内容は変わりません)もうしわけないです。