フリーダムな猫的なものたち
「はい、みなさん、ここがわたしの部屋です」
扉をあけてそう言うと、三つ子たちが素速く中に滑り込んでいった。
しまった。
外からちょっと見せるだけのつもりだったのに。
「あー、ちょっと、ここには面白い物とかないからね!」
後を追って部屋の中に入ると、三つ子たちはてんでばらばらな方向に逃げていく。
どの子から捕まえようか迷っているうちに、気が付くとミュオスとリンドウもこちらに来てしまっていた。
「姉様はいつも綺麗に片付けてますけど、そもそも物自体が少ないんですよね」
「まあ、趣味らしい趣味もないし。リンドウの部屋は本とか色々あるけど」
学者肌なのか、けっこう物が多くて、雑然とした印象がある。
「キュッ」
イナリが咎めるような鳴き声を上げたのでそちらを見ると、ミュオスがわたしの荷物入れを開けようとしているところだった。
「こら、ひとのプライバシーを勝手に覗こうとするな!」
「ミュオスは案内される」
そこまでご案内するとは言ってないんだよ。
「許可を出さない限り、箱を開けたりドアの中を覗いたりとか、しちゃだめだからね!」
ミュオスの身体を押し戻していると、三つ子たちが静かになっていることに気付いた。
「あの子たちを見習って、大人しくしてよ!」
そう釘を刺しつつ振り返ると、三つ子たちは皆、わたしのベッドに潜り込んで眠り込んでしまっているのだった。
「睡眠はミュオスに必要とされない」
「いや、こんなことになってるけど、寝ろとは言ってないからね!」
しかし、今わたしの部屋でおひるねされても困る。
とりあえず毛布を引っぺがして、三つ子たちを揺すった。
「はいはい、もう次に行くからね。起きて起きて!」
片手でミュオスの首根っこを掴みつつ、三つ子たちをひとりずつベッドから引きずり下ろしていく。
皆一様に手で眼をこすりながら、ふらふらと部屋を出て行った。
しかし、こんなにすぐに眠れるものなのか。
小さい子だからなのかもしれんけど。
「まあ、三階はこんな感じで、二階はさっき見たよね。なので次は一階に行きます」
皆を押しやるように階段に誘導する。
引率の先生みたいになってるけど、生徒がフリーダムすぎるんだよなあ。
「より詳しい情報がミュオスに与えられる」
問題児のミュオスが廊下の奥を見詰めながらなにやら要求してきた。
あっちには屋根裏部屋に上がるはしごがあるけど、そこまで見せるつもりはない。
「駄目だっつってるでしょ。ほら、降りる降りる」
そうやってなんとか皆を誘導し、一階のホールを経由して外に連れ出した。
「はい、こちらがマゴット家自慢の庭園です。今の季節は花咲いてないけどね」
「ここは台所です。あ、中に入っちゃ駄目だからね! なんか、獲物を狙う肉食獣の眼してるけど、後でおやつにするから我慢してよ」
「こちらの広場は兵士たちが訓練する所です。広いけど、特に面白いものはないかな」
「見ての通り、ここは馬小屋です。気性の荒い子もいるからこれ以上近づかないように」
足早に敷地の中をチラ見せしていく。
とにかくめんどうな事態は避けたい。
いや。
考えてみれば、ちょっと前まで女騎士の姿をした魔物が屋敷を出入りしてたんだから、いまさら知られて困るような情報もない気はするけど。
そうだよ。
なんでわざわざミュオスはマゴット家の屋敷に来たがったんだろう。
どんな場所なのかって情報は、元から持ってるはずなのに。
単に自分の眼でも屋敷を見ておきたいと思ったからなのか。
それにしては、しつこく要求された気もする。
なんだろう。
特に最近、屋敷に変化があったとも思えない。
わたしたち住人には色々あったかもしれないけど。
それって場所と関係あるだろうか。
「はい、こちらはマゴット家の犬舎です。みな良い子たちなのでいじめたりしないように」
わたしたちの気配に気付いたのか、犬たちはみんな小屋から出てきていて、そわそわ歩き回りながらこちらをうかがっている。
いまさらな気もするけど、精霊と魔物とはいえ、今回の来訪者は猫っぽい何かだからなあ。
犬たちとの相性はどうなんだろう。
まさか、いきなり喧嘩を始めたりとかしないよね。
なんだかちょっと不安になってきた。