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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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猫が釣りをする理由

「うーん……」


 思わず苦悩の声が漏れる。

 わからない。

 釣りで決着をつけるという話になったわけだけど、じゃあキリカゼさんが自分の得意分野で勝負をしたいのかというと、そういうことでもなかった。

 そもそも、勝負をする必要はないはずだ。

 こちらの提案を受けるか拒否するかという話なんだから、駄目ですとか言えばいいだけの話だ。

 それを釣りで決めようとか言い出したわけで、つまりはキリカゼさんとしては勝っても負けてもどっちでもいいってことになる。

 ならば、何か別に目的があるはず。


「クルッ」


 微動だにしないまま考え込んでしまったわたしを心配したのか、イナリがこちらの顔を覗き込むようにして鳴いた。


「大丈夫、なんでもないよ」


 顔を近づけながらそう言うと、イナリが小さな鼻をくいっと押しつけてくる。

 それを見たのか膝の上の女の子ふたりが、しかせんべいの匂いを嗅いでいた鼻先をこちらに寄せてきた。

 指先で小さな鼻をちょんと押してあげると、ふたりとも満足そうに目をつむった。

 ちらりと横目でキリカゼさんの様子を確認すると、膝の上に三つ子のひとりを乗せたまま、落ち着いた様子で釣り糸を垂れている。

 ちびっ子の方はすでに寝息を立て始めていて、すっかりお昼寝モードだった。

 まったく釣れる気配はないけど、それに焦っている様子もない。

 やっぱり勝負に対する執着はなさそうだ。

 だったらなんで勝負なんて言い出したのか。

 可能性だけなら思いつかないでもない。

 たとえば、こちらの対応を観察することで、わたしがどんなやつなのか知ろうとしたとか。

 いきなり現れたポッと出の精霊が、猫の王様の弟子になってるのが納得いかないとかそういう理由で。

 王様が黙っていてくれてるから、わたしの正体はわからないままだろうし。

 どうだろうな。

 勘でしかないけど、キリカゼさんには敵意があるって感じでもなさそうだ。

 話を聞くに、この森の将来を心配してるみたいだし。

 こちらを観察してるってのは、ありそうな話だとは思うけど。

 でも、ちょっと今の印象とは齟齬があるかな。


「そろそろ場所を変えましょうか」


 キリカゼさんがふいにそう言った。


「場所、ですか?」


 急な話について行けず、おもわず鸚鵡返しにそういうと、キリカゼさんが湖の奥を手で指し示した。


「もう用意はしてあります」


 話の流れがいまいち飲み込めない。

 まさか海女さんみたいに泳ぐとか言わないよね。

 

「クルッ」


 先に気付いたらしいイナリの視線を追うと、水面の上を何かが近づいて来るのが見えた。


「船? いつのまに呼んだんですか?」


 わたしの質問に、キリカゼさんは微笑みだけで答えた。

 しかたない。

 この提案を受け容れる以外に道はなさそうだ。

 膝の上でじゃれ合っていた三つ子達を先に地面に降ろし、竿を抱えたままその後に続く。

 木の根元に降り立つと、すぐ近くの水面から大きな川獺の顔が覗いていた。


「わざわざ船を出してくれてありがとう」


 わたしがそういうと、川獺の顔が恥ずかしそうに水中へ隠れた。


「少しの間、チビたちを頼みます」


 キリカゼさんがそう言って王様に三つ子を引き渡している。

 まとめて差し出された三人が、王様のドレスにしっかりとしがみついた。

 みんなすごくうれしそうな顔をしている。

 もうわたしの膝の上には飽きてしまったのだろうか。

 いや、べつにそれでいいんだけど。


「クルッ」


 イナリの鳴き声に促され、わたしたちは小舟に乗り込む。

 大きめのカヌーみたいな造りだけど、いちおう四人くらいは座れるようになっている。

 奥側にわたしが座り、向かい合わせの席にキリカゼさんが腰を下ろした。

 その直後、滑るように船が動き出す。

 たぶん水の下で大きな川獺が頑張って押してくれているんだと思う。

 波ひとつない鏡みたいな水面を、小舟の航跡がまっすぐに切れ目を曳いていく。

 王様の居城がある離れ島から森へ繋がる向こう岸までの、そのちょうど中間辺りでゆっくりと船が停まった。

 水面から川獺の鼻先がちょっとだけ顔を出して、すぐにまた水の下に消えてしまった。


「ここが目的地ですか?」

「まあそうですね」


 キリカゼさんがそう言いながら釣り竿を取り出す。

 わたしも自分の竿を取り上げ、練り餌を用意しようとする。


「いまからはこれを使ってください」


 キリカゼさんから何か小さな光るものを渡された。

 それは銀色だけど金属ではなく、スプーンの先のような形をしている。

 滑らかな曲線を描く薄い板の端に、小さな穴が開いていた。


「これをつけるんですか?」


 無言で頷いたキリカゼさんが同じ物を取り出し、釣り糸の先に結びつけた。

 それをなんとかまねしてみる。

 ルアーみたいな物かな。

 銀色にキラキラ光る姿が、小魚のように見えるかもしれない。


「では、始めましょう」


 キリカゼさんが釣り竿を軽く振って、銀色の小片を水面に落とす。

 糸が絡まないように、わたしは反対側に向かって釣り糸を垂れた。

 しばらく、無言の時が過ぎる。

 よくわからないけど、たぶんここからが本番なんだろう。

 今までとは何かが違うはず。

 でも、それが何なのかは見当も付かない。

 もうそろそろ夕方に差し掛かろうかという頃あいだ。

 決められた終了時間もそう遠くはない。

 それでもわたしには出来ることはなかった。

 ただ静かに、ふたりで水面を見詰めている。

 イナリは邪魔をしないと決めたのか、マフラー状態になってわたしの襟元に鼻先を突っ込んでいた。

 そして、時が止まったかのようだった水面に、小さな波紋が立った。

 ウキが小さく上下して、わたしの方にあたりがあることを教えている。


「きました!」


 思わず振り返ると、キリカゼさんの方にはまだ変化はない。

 なるべく落ち着いて、あわてて急に引かないように、ゆっくりと手応えを確かめる。

 キリカゼさんが身を乗り出して、こちら側の水面を覗き込んだ。

 急に糸が引かれ、竿がしなる。


「うわ、思ったより大きいかも」


 あわててしっかりと握り直して、力を入れつつゆっくりと竿を引き寄せた。

 細い糸が湖面をかき混ぜるみたいに小さく弧を描く。

 思い切って竿を引くと、水の中から銀色の何かが跳ね上がるように現れた。

 ぴちぴちと暴れるそれをこわごわと引き寄せる。


「これ、なんでしょう?」


 釣り糸の先には、銀色の蛇のような生き物がつり下がっていた。


「蛇、じゃないな……」 


 うろこに覆われた長い身体。

 背にはたてがみらしきものがあり、おなかには小さな手足が見える。

 なんというか、それはいわゆる龍の姿に似ていた。

今回は書き終わったデータが半分消えてこころ折れかけました。しかも前半が消えるという。後半だったら内容を変えてもいいかってなるけど、前半だとそうもいかない。それなのに何書いたのかおぼえてないし。まいりました。みなさんも気をつけてください。気をつけようもないかもですけど。

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