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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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猫は魚が好きなので

「釣りで勝負、ということにします」


 キリカゼさんから、一方的にそう告げられたのだった。

 まずい。

 最初に勝負と言われた時は戦い的なのを想像していた。

 でもそうはならなかった。

 こちらの想定から、事態がことごとく外れてきている。

 正直、剣とか魔法の試合の方がよっぽどましだった。

 釣りだったら平和的だし、一見よさそうに思えるけど、出来れば避けたい。

 なぜなら、あまりに運の要素が強すぎるからだ。


「勝負は空が夕陽で赤く染まり始めるまで。釣った魚の数が多い方を勝ちとします」


 どんどんキリカゼさんの話は進んでいく。

 なんとかしないとまずい。

 戦いなら工夫で勝つことも出来るけど、釣りだと確実に勝てそうな方法がない。

 そりゃあ、釣るポイントをどこにするかだとか、餌の選択とかいろいろ技術はあるだろう。

 でも、それで自分が勝てる気がしない。

 猫の王様との修業でちょっとは釣りも嗜んでるとはいえ、別にここの湖に詳しいわけじゃないし、相手は姉弟子なわけで、むしろキリカゼさんの方が色々知っていそうだ。

 さっきから何か手がないか考えてるけど、思いついても準備をする時間はない気がする。

 どうしても、勝たなければいけないのに。


「釣り竿や餌は、自分の物ではなく、ここで使われている物を使います。自由に選んでも構いませんが、特殊な道具は使用禁止です」


 キリカゼさんの言葉を半ば聞き流しながら、なんとか勝つ方法を考える。

 負けられない戦いだけど勝負方法がくじ引き、みたいな話だから困る。

 唯一あるとすれば、特別な手段を用いること。

 こっそり魔法を使うとか。

 無理かな。

 簡単にみつかりそうだし。

 ルールで禁止されてなくても、それで勝ったと知られれば、勝利とは認められないだろう。

 あと思いつくのは、神様のメダルを使うとか。


「うーん」


 確実だけど、リスクがある。

 細かい条件を突き詰めて考えて、想定される危険を排除しておくような時間がない。

 メダルの裏側が出れば、試合に勝って勝負に負けたみたいなことにもなりかねなかった。

 最近気が付いたんだけど、神様のメダルの本質は願いを叶えるという部分だけではなさそうだ。

 たしかにメダルは願いを叶えてくれる。

 でも、裏が出たら良くない形でなされてしまう。

 それが問題だ。

 願いは叶ってしまえば終わりだ。

 しかし、良くない形で、という部分には終わりがない。

 少なくとも、どこまでが良くないことなのか、その境界線がわからない。

 もしかしたら、神様のメダルは使えば使うほど、全体として良くない未来を引き寄せてしまうものなのかもしれない。

 願いを叶えようとすればするほど、世界が闇に沈んでいく。

 確率という皮を被ってはいるから惑わされるけど、どこかでかならず裏側は出るのだ。

 悠久の時の流れを通して見れば、この世に割れない皿が存在しないように。

 落ちない木の実が無いように。 


「それでは、始めましょう」


 キリカゼさんが立ちあがり外に出て行く。

 わたしも三つ子たちを引き剥がしてソファから立った。

 部屋を出ると、そのあとを三つ子と猫の王様がぞろぞろと着いてきていた。

 まあ、そうなるとは思ったけど。

 みんなでわらわら外に出て、池の側までやって来ると、狒々の執事さんが釣り道具を沢山運んできていた。

 さすが手際がいい。


「それでは道具を選んでください」


 キリカゼさんの言葉に促されて、釣り道具の品定めを始める。

 まあ、正直よくわからない。

 まずはとにかく何が置かれているか確認だ。

 とりあえず、いいかんじのやつが欲しい。

 勝つための役に立つんだったらなんでもいいんだけど。


「うーん、どれも普通」 

「クルッ」


 イナリの鳴き声も残念そうだ。

 仕方ないから、使い慣れた釣り竿を手に取った。

 無理をしてもしょうがない。

 他の部分でがんばろう。


「それではわたしはこちらを」


 キリカゼさんが選んだのもごく普通の釣り竿だった。

 しかたない。

 消極的な作戦だけど、とりあえずはなるべく同じ条件で戦うことを考えよう。

 別のことをしなきゃ勝てないけど、最初のうちは同じことをして相手の手の内を探ることにする。

 だから、釣るポイントもキリカゼさんと同じ所を選ぶ。

 つまりふたり並んで釣り糸を垂らすことにした。


「それでは、勝負を始めよ!」


 猫の王様のかけ声によって、釣り勝負が始まった。

 池の縁に立った巨木の、ぐっと張り出した太い枝に座る。

 すぐ隣にはキリカゼさんがいて、釣り針に練り餌を着けている。

 わたしはそれをなるべく違いが出ないように真似る。

 そして、糸が絡まらない程度の距離はあけつつも、なるべく近いポイントに釣り針を投げ込んだ。


「クルッ」


 イナリの鳴き声を聞くに、わたしを応援してくれているらしい。

 それでちょっとだけ気が楽になる。

 多少の時間はあるから、まずは落ち着こう。

 意識を集中し、釣り糸から池の中の気配を探る。

 なるべく魔力を漏らさぬように。

 水の中の魚たちの動きを感じようとしてみる。

 とても静かだ。

 あまり魚の気配はしない。


「うーん」


 思わず疑問の声が漏れる。

 どうしてキリカゼさんはこのポイントを選んだんだろう。

 特に魚が多そうな場所でもないのに。

 たぶんこの池のことは知り尽くしていると思うんだけど。

 いや、それだけじゃない。

 そもそも、なぜ釣りなんだ。

 焦るあまりスルーしてたけど、まずはここから考えなきゃいけなかった。

 ちらりと横目でキリカゼさんを見る。

 その表情は普段とまったく変わらない。

 今のところぜんぜん見当も付かないけど、何か理由があるはずなんだ。

 もしかして。

 猫は魚が好きだから、とかじゃないよね?

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