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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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猫にはさまれネゴる

 白い狒々の執事さんに案内されてきたキリカゼさんが、猫の王様の横に座った。

 美人二人が並んでいる光景はなんだか圧が強い。

 執事さんが淹れた紅茶を飲む姿から見るに、やっぱり猫舌ではなさそうだった。


「思ったよりも早かったな」


 キリカゼさんがティーカップを置くのを待ってから、王様が言った。


「最初に訪ねた場所が当たりでしたので」

「まあ、面倒がなくてよかったではないか」


 二人が何の話をしてるのかはわからない。

 用事があって遠くに行っていたとか聞いた気がするけど。

 そうやって、しばらく掴みきれない会話が続いた後で、王様が思い出したみたいに言った。


「そういえば、カナエからその方に話があるのだが、聞いてやってくれぬか」


 存外にストレートな助け船だった。

 さりげなさの欠片もない。

 でも、キリカゼさんは気にする様子もなく、わたしの話を聞く体勢をとってくれた。


「キリカゼさんにご相談があります」

「なんでしょうか」


 さてここからは前世の経験を元にしたネゴシエーションの始まりだ。

 わたしからの話はシンプル。

 要望と提案がふたつずつ。

 まずひとつめの要望。


「取り替え子の計画を諦めていただきたいんです。当然、ここまで進めてきて今更と言われるかもしれません。こちらとしても、もっと早く状況を知っていればという思いはあります」

「利害が衝突していると?」


 キリカゼさんの表情は全く変わらず、冷静なままだ。

 わたしはひとつ頷いてから話を続ける。


「ですので、こちらから代替案を出したいと思います」


 無言で先を促された。

 うまく落とし所をつくれるだろうか。


「ひとつめは、キリカゼさんを人としてマゴット領の領主に紹介することです。これは人の社会とのコネクションを用意します、というお話です。わたしは領主の娘でもありますから、問題なくできると考えています」


 特に質問もなにも返ってこない。

 これはこれでちょっとやりにくいな。


「もうひとつは、新たにやってきた魔物であるミュオスにも、キリカゼさんを紹介することです。

こちらは魔物に対して力のある精霊の存在をアピールする場を設けましょう、という提案です。最近この付近に出没する魔物達とは面識がありますから、こちらも調整は可能です」


 キリカゼさんはあいかわらず無言。


「以上のふたつは、取り替え子と同じような効果があります。むしろ、こちらの方が結果が出るのが早いという点でアドバンテージがあるでしょう。特に魔物に対する牽制としては有効性が高いかと」


 反応はないけど、話は理解はしているという眼ではあった。

 そして、わたしはもうひとつ要望を付け足す。


「こちらからご相談したいことはあとひとつあります。幻獣の手に渡った赤ん坊を取り戻しに行くために協力していただきたいんです。連絡を取る方法を教えていただいたり、といったことなのですが」


 これは受け入れられなくても、まだなんとかなる話だ。

 わざわざ協力はしないけど代案があるなら前半の申し出は受け入れましょう、といった落とし所を狙っていた。

 つまり、切り捨てられる前提の要望だった。

 これで相手の言い分をぜんぶ飲み込むのではなく自分の意見も通した、という形がつくられる。

 と思うんだけど、人間相手ならともかく精霊とのネゴシエーションは初めてだから上手くいくかどうかは謎だ。

 そして、わたしがすべて説明を終えるまで黙っていたキリカゼさんが、ようやく口を開いた。


「なるほど。話はわかりました」


 そうキリカゼさんは言った。

 ずっと表情を変えていなかったので、何を考えているのかさっぱりわからない。

 美女形態になった猫の王様の横に座って、狒々の執事さんが淹れた紅茶をただ飲んでいただけだ。

 もうちょっと質問されたり反論されたりするかと思っていたから、先が読みづらい。


「わたしとしては、場合によっては受け容れてもよいと考えています」


 意外にも出てきた言葉は、ポジティブなものだった。


「ですが、ひとつ知りたいことがあります」

「なんでしょうか?」


 ちょっとほっとした直後だったので、内心あわてて気を引き締める。


「この提案、あなたにはどのような利があるのでしょう」


 答えにくいことを訊かれてしまった。

 それはわたしが元々人間だから、なんだけど。

 まだ隠しておきたい話だ。

 でも、うそをつきたいとも思わなかった。


「そうですね。これは単に気持ちの問題です。はっきり言うと、わたしの心情は人の側にあります。それと、ちいさな子供はなるべく本当の親と暮らすべきだとも考えています。おかしいと思われるかもしれませんが、ただそれだけなんです。実際の所、これは利害の話でも正しさの話でもありません。わたしの考えがそうだ、というだけのことで……」


 しばらく、沈黙があった。

 三つ子はあいかわらずわたしの身体にしがみついていて、時折、焼き菓子の匂いを求めて鼻をぴすぴすと鳴らしている。

 キリカゼさんは一瞬、三人の娘にチラリと眼をやったようだった。


「わかりました。そうだというのであれば、そうなのでしょう」


 理解は出来ないけど納得はした、といった口調だった。


「ですので、こちらの提示する条件を満たせばよしとします」

「条件、ですか?」


 なんだろう。

 人間側の領主に要望があるのか。

 魔物に対してなにか明確な目標があるのか。

 そう考えていたら、まったく予想外な話がでてきた。


「わたしと勝負をしてください。それにあなたが勝てば、すべて認めましょう」


 キリカゼさんは静かな口調でそう言ったのだった。

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