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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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おやつの時間と猫舌の三つ子

「そうか。助けることに決めたのだな」


 猫の王様が納得したって感じで頷いた。


「ええ。ですから、キリカゼさんとお話をしなくちゃいけません。お願いして取り替え子を中止してもいいって納得してもらわないと」

「どのように説得するのだ?」


 それなんだよね。

 普通に考えれば、ここまで進めた計画を途中で放棄する理由はないのだけど。


「利害関係を調整する形で、なんとか交渉しようと思ってます」

「お手並み拝見、だな」


 王様がちょっと楽しそうに言う。

 のんき!

 でも、まあしかたがない。

 基本的に王様は公平な立ち位置じゃないとまずいだろうし。

 なんか王様の前で話しあいを行うみたいな流れになってるけど、やっぱりその方がいいだろうか。

 仲裁者がいれば、話が決定的にこじれることもないかな。


「それでキリカゼさんはいつごろ戻ってくるんですか?」

「遅くとも夕方前には帰ってくるという話だったが」


 まだお昼前だからずいぶん時間があったけど、それまで待たせてもらうことにした。

 王様のすぐ横、毛織物の敷物の上に腰を下ろして、たわいのない話をする。

 領主の娘としての日常のことや、周辺の村でおこった出来事。

 最近の森の様子や、遙か昔のめずらしい話。


「そうえば、今日は焼き菓子を持ってきたんですけど、王様も食べますか?」


 わたしがそういうと、大きな猫のひげがピクリと動いた。


「うむ。いただこう」


 こういう時王様は人間形態になって食べることが多いんだけど、今日は三つ子がしがみついてるせいで動けないようなので、わたしが食べさせてあげることにする。

 しかせんべいを指でつまんで顔の前まで差し出すと、大きな口で器用に咥え取り、ポリポリと食べ始める。

 こういうと失礼かもしれないけど、なんだか餌付けしてるみたいで、なかなかにほんわかする光景だ。


「もう一枚いかがですか?」


 そう言って差し出したしかせんべいに、突然真下から何かが噛みついてきた。


「うわびっくりした」

「これ、断りもなく食いつくとは行儀が悪いぞ」


 王様がたしなめるその視線の先で、三つ子のひとりが強奪したしかせんべいをぽりぽりとかじっていた。


「匂いと音につられて目が覚めたのかな」


 すると、残りの二人も揃って目を覚まし、こちらに向かって四本足で這い寄ってきた。


「クルッ」


 わたしの肩の上でイナリが注意するみたいに鳴く。

 すると、二人は足を止めて、仲良く並ぶみたいにこちらを見上げてきた。

 上目遣いの視線が、しかせんべいを要求しているように見える。

 一方、最初のひとりはこちらを気にする様子もなく、マイペースにぽりぽり食べ続けていた。


「まあ沢山あるからいいけど、食べ過ぎちゃだめだからね」


 ひとりに一枚ずつしかせんべいを差し出すと、素速い動きで受け取ってそのまま齧歯類みたいにかじりはじめた。


「まあ良い。皆で茶でも飲むとしよう」


 いつの間に変化したのか、ものすごい美女の姿になった王様が立ち上がり、ソファの方へ歩いて行く。

 すると、はかったようなタイミングで狒々の執事さんがティーセットを持って部屋に入ってきた。


「じゃあ、みんなもあっちに行こうか」


 三つ子の背中を押して、わたしもソファに移動する。

 長い足を優雅に組んだ王様の対面に腰を下ろすと、わたしの横に三つ子達がソファによじ登るみたいに座った。

 流れるような動作で、執事さんが紅茶のカップをテーブルに置いていく。

 三つ子達は手が届きそうになかったので、ひとりずつティーカップを渡してあげたけど、鼻を寄せるばかりで誰も飲もうとしない。

 もしかしたら猫舌なのかもしれない。

 だって猫だし。


「そういえば、王様は熱い飲み物とか大丈夫なんですか?」


 わたしがそう訊くと、目の前の美女が不思議そうな顔で片眉をあげる。


「何を言っておるのだ。そなたは」


 熱い紅茶を平気で飲んでいるようすからして、どうやら猫の精霊だから猫舌ってことでもないらしかった。

 そうやってしばらくまったりと過ごしていると、気が付けば三つ子達にしがみつかれて、今度はわたしが身動き取れなくなっていた。

 時折鼻をひくひく動かしては、鹿せんべいの匂いを探っているのか、わたしの上着の内側にみんなして顔を突っ込んできたりしている。


「ずいぶん気に入られたようだな」

「まあ、遠慮はなくなってきた感じですけど」


 噛みついたりはしないので別に害もないし、客観的に見てもかわいらしいと思えるのでまあいいか。


「仲良くなったのなら結構なことだ」

「もしかして王様。ちょっと拗ねてます?」


 そう言ってみると、鼻の頭に少し皺を寄せて、こちらを軽く睨むみたいに見てきた。


「なにをいっているのだ、その方は」

「よろしければ、ひとり分けましょうか?」


 さすがに三人にしがみつかれるのも大変だし。


「そういう話ではない」

「じゃあどういう話なんですか?」


 目の前の美女が優雅にため息をついた。


「下らぬ話をしている場合でもないぞ」

「と、いいますと?」


 王様の顔がすっと真面目な表情になる。


「どうやらキリカゼが帰ってきたようだ」

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