表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
169/191

妹は妹、猫は猫

 屋敷の扉の前でリンドウは去って行く黒犬を見送った。

 とぼとぼとした足取りで門の方へ消えていくその姿は、一日の労働を終え疲れはてた農奴のようだった。

 いや、農奴みたことないけどね。

 この国では経済の発展と共に、かなり昔に消え去ってしまったらしい。

 もっとも、他の国にはまだ残っているのだという話も聞いた。

 時間は全ての場所で同時に進んでいるように思えるけど、実は地域によって濃淡があるのだろう。

 都市の建物が新しい意匠に塗り替えられていく中、古い様式の建物ばかりの町もあるように。


「姉様、わたしたちに先程のお友達を紹介するというのは、どういうことなんでしょうか」


 玄関ホールに足を踏み入れつつ、リンドウが訊いてきた。

 さて、なんと説明したものか。


「あー、うん。ちょっとうちのお屋敷に興味あるみたいだったから、まあ色々あって招待することにしたっていうか。いや、まだ誰にも言ってないんだけど。相談せずにごめんね?」

「カナエ姉様がそうしたいのであれば、わたしは別にかまいません」


 結界の存在から察するに、どこかでマゴット家の屋敷を守ろうとしてくれてる人もいるみたいだから、なんともちょっと申し訳ない気持ちになった。


「何か困るようだったら、今回は断るから」

「まったく問題ないですけど、お出迎えの心構えはしておきます」


 リンドウはそう言って明るい笑顔を見せた。


「そう言ってもらえると助かる。でも、リンドウはもっとわがまま言ってもいいんだからね」


 わたしはなるべく優しく、ゆっくりとその頭を撫でる。


「これに限らず、何かやって欲しいこととか、悩みとかあったらなんでも言ってよ。わたしはリンドウのお姉ちゃんなんだし」


 顔を覗き込むと、軽く驚いたみたいに眼を見開いていた。

 大事なことをちゃんと言えて良かったと、そう思ったところで、急に別の考えが浮かぶ。


「あ、ごめん。あいつを紹介する時、もう数人追加するかも」

「え?」


 なんか格好つかないけど、思いついたものはしょうがない。

 この際だからまとめてしまおう。


「そっちはいい人達だから大丈夫。ちっこい三つ子も呼ぼうかな。これがすごくかわいいんだよ」



 翌日、猫の王様の御所を訪ねたら、その三つ子がいた。

 部屋の奥の床の間みたいに一段高くなったところに巨大な猫状態の王様が寝ていて、そのまわりにしがみつくみたいに小さな女の子が三人眠っていた。

 短い手足に、ゆるくウェーブのかかった銀色の長い髪。

 そういえば、三つ子の猫状態はみたことないな。

 普段から人間形態を維持しているところを見ると、かなり精霊として優秀であるようだ。


「あの、王様?」 


 これ起こしていいんだろうかとちょっと思ったけど、狒々の執事さんからは許可をもらっていたから大丈夫だろう。

 しばらくすると、大きな瞼がピクピクと動き、ゆっくりと片眼だけ開いた。


「む、カナエか」

「お休みの所すみません」


 王様はライオンサイズの口を開けて、おおきなあくびをする。


「その方ならばいつ来てもかまわないが。……うん?」


 やっと意識がはっきりしたのか、自分の身体にしがみついてる三つ子の姿に気付いたようだ。


「いや、これはだな。そうではなくて、なんというか。キリカゼが少し遠くへ出かけるというので、子供たちを置いていったのだ」


 いつもの低くハスキーな女性の声で、なぜか妙に言い訳じみたことを言った。

 わたし、そんなことですねたりしませんけど。


「ずいぶんとぐっすりですね」

「まあ、小さな子供というのはよく眠るものだ」


 こうして会話していても、目を覚ます気配はない。

 時折ふわふわの猫の毛に顔を擦りつけ、ふにゃふにゃ言ったりするくらいだ。


「しかしこれでは動けんな」

「あ、起こさなくてもいいですよ。お話はこのままでも出来ます」


 目覚めたらそれはそれで、三つ子の相手をしなくちゃいけなくなる気がする。

 王様の前にしゃがみ込んで、大きな猫の眼に視線の高さを合わせた。


「あの、決めました。わたしやっぱり、赤ん坊を助けようと思います」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ