剣の手合わせと日向ぼっこをする猫、のつづき
「まだまだいくよ!」
普段なら速度重視で最短距離をまっすぐ打ち込むところだけど、今回はあえてさっきと同じように回り込みながら短剣を揮う。
つまり同じ技を誘ってるわけだけど、当然意図は読まれているはず。
一瞬、お姉ちゃんと目が合う。
なんとなく、お互いの考えていることが伝わる感触。
訓練なんだから、また使ってくれるよね。
「来た!」
先程とほぼ同じ軌跡を描いて長剣が飛んでくる。
予想していても、この回転の隙を突く余裕はなかった。
元々こっちが攻撃してる途中だったんだから、これ以上の動きは難しい。
とはいえ、どうするかは決めていた。
身体の勢いを止め、素速く短剣を引き戻す。
そもそもわたしの構えでは全力で剣を揮うことはほとんどない。
速度は重視するけど力は最大でも八割にとどめる。
そういうスタイルなのだ。
だから攻撃途中で素速く引き返すことが出来る。
集中した意識の中、お姉ちゃんの長剣がスローモーションのように目の前を通り過ぎていく。
半拍ずらしたようなリズムで、再び短剣を打ち込む。
攻撃をすかした今が最大の隙だった。
「嘘でしょ!」
わたしの攻撃がまるきり先程と同じように弾かれる。
二回転。
攻撃をすかされた状態からそのまま回転して、もう一度長剣が飛んできた。
でも、そんな速度が出るわけない。
なにか秘密があるはず。
素速くバックステップして、距離を取る。
「そう簡単にはいかないよ」
アヤメお姉ちゃんがニコリと笑う。
思ったよりも距離があった。
そうか、やっぱり回転しながら少し奥へ下がってたんだ。
だからこちらの短剣が届くまでに時間がかかって、その分で二回転目が間に合った。
いや、それにしても速い。
いままでのお姉ちゃんではここまでの速度は出ないはず。
身体の使い方に秘密があるのかもしれない。
二回見ただけじゃちょっとわからないけど。
「それじゃあカナエ、今度はこちらから行くよ」
わたしは反射的に一歩下がった。
お姉ちゃんが突進しながら長剣で斬りかかってくる。
斬り上げ。
そのまま返す刀で、素速く斬り降ろし。
踏み込みで身体が止まったと思ったところで、回り込みながら先程の回転斬り。
流れるような動き。
その全てを、なんとか全力で避けきった。
「動きが良くなったね、カナエ」
「いや、強くなったのはお姉ちゃんの方でしょ」
わたしが知っている今まで使っていた型に、新しい技が無理なく組み合わさっている。
「誰に教わったの? その技」
「ここ最近、違う流派の騎士の技を見る機会があったからね」
誰だろう。
マゴット領の騎士以外と出会うことなんてそうそうないはずだけど。
この間の赤ん坊捜しの時に、周辺の村と連絡を取ってたから、その時にどこかで?
「技を自分のものにするのにちょっと苦労したから、もっと色々披露させてもらおうかな」
そこからは見たことのない技の連続だった。
マゴット家の剣術にはない曲線的な動き。
遠心力を利用した威力のある斬撃。
攻防が一体になったトリッキーな歩法。
「初見で全部避けられるなんて、まだまだ技の練り上げが甘かったかな」
「ねえ、もしかしてこの技って……」
マゴット領にやってきた他流派の騎士って考えた時、ひとりだけ完全に頭から抜け落ちてた人がいた。
いや、だってそもそもジャンルとして別物だと思ってたし。
「カザリさんが使っていた技をまねしてみたんだ。そういえば、カナエは父様とカザリさんが手合わせしているの見たことなかったね」
「父様、そんなことしてたの……」
考えてみれば、普通にあり得る話だった。
魔物が騎士に変化しているって知ってたから、なんとなく思い至らなかっただけで。
実力を隠してる風ではあったけど、結構長く滞在してたんだから、まあそういう機会もあったのだろう。
うーん、つまりこれって魔物が使う技ってことなのかな。