続・猫の王様による幻獣入門
「特殊な技、ですか?」
いまいちピンとこない言葉だ。
魔法とかじゃなくて?
「実際に幻獣が技を用いるところを見たことはないが、聞いたところによると人の持つ運命を絶つ技であるらしい」
「運命を絶つ? うーん、抽象的でよくわかりませんね」
不満げにそう言ってみたら、王様は眉根を寄せてさらに困った顔になった。
「我も理解できていないのだ。結果として、子供は人よりも精霊に近い存在になる。寿命が延び、穏やかな気性に育つ。ただし、子は残せなくなる。それをもって、彼らは運命を絶たれ、この世から切り離された存在となったと言うのだ」
子供が出来なくなることが、運命を絶たれるってことになるんだろうか。
なんとなくわかるような気もするけど、納得いかないようにも思える。
寿命が延びるっていうのもよくわからない。
「えっと、運命を絶たれた子供たちは、精霊たちの里で暮らすんでしょうか」
「そうなることが多いな。普通、人は精霊と共には暮らせぬ。それ故に、存在を精霊に近づけた上で受け容れるわけだ。もっとも、幻獣と共に暮らす者も多いらしいが」
幻獣の所に留まることもあるのか。
それって、なんでだろう。
「もしかして、幻獣は人の子供が欲しいんですか?」
「どうしてそう思う?」
王様は意外なことを言われたといった顔をしたけど、普通そう思わないだろうか。
「幻獣がその技とかいうのを使ってくれるんだとして、何か代償が必要なんじゃないかと思ったんです。子供が幻獣と暮らすっていうのは、つまりそういうことなのかなって」
「なるほど。しかし、その点については我にもわからぬ。幻獣の側から子供を引き取りたいと要求されたことはないからな。ただ、運命を絶った結果、子供が幻獣の元に留まることになったと伝えられるだけなのだ」
やっぱりよくわからないな。
筋の通った理屈で出来てないというか。
どうにも抽象的というか。
「うーん、運命ってのがよくわからないですね」
もしかして、神様のメダルとなにか関係あるんだろうか。
何でも願いを叶えてくれる神様のメダルは、運命を操作する力を持ってるようにも見える。
実際はもっと違うものなんじゃないかって、そんな気もしてるけど、でも、同じような雰囲気を感じる。
もしかしたら、幻獣は神様のメダルを持ってて、技っていうのはそれを使っているとか?
「我としては幻獣が代償を求めるという考えはなかったな。無理に頼んでいるわけでもないし、そもそも、彼らはこの技を用いることを望んでいるように思える」
「じゃあ、こちらから依頼をしてるって感じでもないんですね」
もしかしたら、ある種のしきたりみたいなものなんだろうか。
「時折、幻獣の側から使者が送られてきて、その際に取り替え子の話もなされるのだ。必要であれば時期を決め、赤子を引き渡すという流れだな」
「なるほど。話を聞くと、たしかにこちらからって感じじゃなさそうですね」
じゃあ、幻獣から連絡が来なかったら取り替え子は行われないのかな。
やっぱりある種の儀式とかしきたりみたいに思える。
人間の世界だったら毎年行われたりするんだろうけど、精霊たちの場合は、時期が決められていないってことなのかもしれない。
「そうだ。よく考えてみたら、つまり時間制限があるってことじゃないですか。幻獣の技が使われたら、元の赤ん坊とは違った存在になっちゃうわけですよね。急いで取り戻しに行かないと」
「たしかにそうだが、多少の猶予はあるだろう。幻獣の技は準備に時間がかかると聞いたことがあるし、精霊たちの元に戻される場合も、季節ひとつ分は後のことになる」
とはいえ、実際の所はわからないんだから、急いだ方がいいに決まっている。
「たしか幻獣は北の山脈に棲んでるって話でしたよね。赤ん坊はどうやって北の山脈に送られたんですか? キリカゼさんは使いが来たって言ってましたけど」
たしかもう着いてる頃だとも話していた。
そこが簡単に行ける場所じゃないってことくらいはわたしにもわかる。
「グリフォンがやって来て赤子を受け取ると、そのまま北の山脈へ連れて行くのだ」
「ああ、空を飛んでくんですか。まあ、それが手っ取り早いですよね」
でも、こっちは空飛べないんですよ。
単に同じ方法で追いかけるってわけにもいかない。
うーん、こまったな。