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猫の王様からの課題

「あの、それで、わたしに出された課題についてなんですけど」


 わたしが猫の王様に質問すると、王様は自分の定位置に戻りながら、軽く頷いた。


「うむ。期限を設けるので、それまでに解決するように」

「コナユキの捜し物って話ですけど、現地に行かないといけないですよね」

「当然だ。カナエはしばらくこの地を離れるのが良かろう。厄介なものがこのあたりをうろついているからな」


 王様はなんてこのないみたいに言うけど、さすがにそれは難しいのではないか。


「コナユキが住んでる集落って、どこにあるんですか? 旅をしてきたっていうんだから、そんなに近くないですよね」

「そうだな、人間の領土でいえば、そなたの家の領地の外になるな。西の山岳地帯までは行かぬが、シモフリヌマと呼ばれる場所にほど近い森だ」

「それって結構遠いですよ! 他領を三つくらい通り抜けないと着かない所じゃないですか。しかも、そのうちのひとつは上流貴族の大きめの領地だし」

「一日二日で帰ってこられたら身を隠すことにならんだろう」

「さすがに子供一人で行って帰ってこられる距離じゃないです」


 猫の王様は心底あきれ果てたといった風にため息をついた。


「そんなもの、我の関知するところではないわ。己でなんとかせよ」


 これは困った。

 そもそもわたしに渡された課題だから、猫の王様に助けてもらうのも難しそうだ。

 なんとかうまいこと知恵を貸してもらえないだろうか。


「あの、さっきの魔物の騎士さんの話なんですが、わたしの正体は知られない方がいいですよね?」

「無論だ。だからしばらくここを離れた方が良いと言っている」

「じゃあ、コナユキにもわたしのこと知られない方がいいですか?」

「まあ、そうだな。里の長となる精霊とはいえまだ経験が足りぬようであるし、あの魔物に情報が渡ってしまう可能性はあるだろう」

「でも、わたしのことを何も言わないのも不自然な気がしますけど」

「コナユキには、そなたはこの森の後継者候補だと思われているぞ。そのように話を誘導しておいたからな」


 森の王はしれっとそう言ったけど、たしか魔物の女騎士からの同じような問いに対しては否定してた気がする。


「あの、そもそも後継者って人間がなれるんですか?」

「無理に決まっておろう。森の主にはそこに住まう精霊にしかなれぬ」

「だったら、そもそも駄目じゃないですか」

「そなたは気づいておらんのかもしれぬが、例のカザリという魔物も、それにコナユキも、そなたのことは人間だと思っていないぞ」

「え? いやいや、どう見ても人間ですけど……。あ、そうでもないかも」


 そうだ、精霊は相手によっては本性を隠すという話だった。


「それだけの魔力を持っているのだ。あやつらの眼からは精霊が変化しているようにしか見えないだろう」

「なるほど」


 この話を聞いて、あの時コナユキが何故恥ずかしそうにしていたのかがわかった。

 同い年くらいのわたしが完璧に変化を維持してるのに、自分が上手く出来ないのが恥ずかしかったんだ。

 本当のところは、わたしのは変化でも何でもない、ただの素の状態だったんだけど。


「いや、でも初めて森で執事さんに会ったときは、すぐに人間だってわかったみたいですけど」

「あの者はそこまで魔力が高くないからな。相手がどの程度の魔力を持っているのかは、正確にはわからんのだ」

「でも、イナリのことはすぐに精霊だってわかったみたいですけど」


 森の王は当たり前のことを訊かれてうんざりしたとでも言うように、ジトっと目を半分閉じた。


「実の姿を見せている精霊は別だ」

「そういうものですか」


 そんなの、普通の人間は知らないことだよ。


「森の動物や力の弱い精霊には、そなたは魔力が多めの人間にしか見えないだろう。しかし、光の輪を見ることが出来るような強い精霊には、そなたは変化の上手い精霊のようにしか見えぬ」


 なるほど、今回は相手の魔力が多かったことが幸いしたってことか。


「ということは、わたしはずっと精霊のふりをしなくちゃいけないんですか」

「そうだな。少なくとも今回の課題に取り組む間は、この森の後継者候補の精霊ということにしておくのがよかろう」

「でも、あの時、王様はわたしは後継者じゃないって、カザリって魔物の人に言ってましたよね」

「はっきり後継者だと言うと、それはそれで注意を引くからな。稽古をつけているだけと言ったのは、あくまで複数いる候補の一人と思わせるためだ」


 あれで結構気を遣ってもらってたらしい。

 美女姿の時は素っ気ない態度だったけど、実はツンデレだったのかも。

 さて、それじゃあ本題に入ろう。


「精霊のふりをするのは良いんですけど、旅をするんだったら当然親の許可がいります。許可が出たとしても、たぶん一人旅じゃなくて、誰か家の者と一緒にってことになるはずです。もしコナユキと一緒に行くとなったらなおさら家の者と顔をあわせることになるはずです。そうなったら、わたしが人間だってことがバレてしまいます」


 よし。

 これで旅をする手段探しと、わたしが精霊のふりをすることが、ひとつの問題にまとまった。

 猫の王から、なんとか上手いこと解決案を引き出したいところだ。


「取り替え子、ということにしておけ」


 森の王様はあっさりとそう言った。


「えっと、取り替え子、ですか?」

「そうだ。まだ幼い人間の子供と、精霊の子供を、人間の親に気づかれぬように入れ替えるという儀式がある。儀式の魔力によって、精霊の子供を人間の子供そっくりに変化させ、人の子として育てさせる。それが取り替え子だ」


 なるほど。前世でもそういう民話があったね。

 チェンジリングってやつだ。


「わかりました。じゃあ、わたしは幼い頃にマゴット家の次女と取り替えられた精霊の子供で、今でも表向きはカナエ・マゴットとして暮らしているって設定でいくことにします」


 だったら、コナユキを家の人間に会わせてもギリ大丈夫かな。

 しかたない、なんとか父様を説得して、コナユキを故郷に送り届けるとかそういう理由をつけて、シモフリヌマまで行くしかない。

 では、あとひとつ、大事な話をしなくちゃいけない。

 わたしはソファから立ち上がると、猫の王様の前で進んだ。


「クルッ」


 マフラー状態で輪になって寝ていたらしいイナリが、身体を揺らしたせいで目を覚ましたらしく、わたしの顔と王様の顔をキョロキョロと見た。

 イナリの顎下を指で軽くなでて落ち着かせると、猫の王様の瞳を正面から覗き込む。


「実はひとつ考えていることがあります」

「あらたまって、何の話だ」


 わたしは前もって考えていたことを、思い切って口にすることにした。


「あのメダルを使ってみようと思います」


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